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六条家、とらぶるデイズ!  作者: よむら代村
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宵闇騒動~人間~

銃を向けたまま、時が止まっている。

金の髪をもつ者は、殺意を持ってはいるものの、一向に殺そうとはしない。当然だ。我らが主、『お父様』と呼ばれている我が『弟』が、それを許していない。彼奴は人間が好きなのだ。やたらむやみに殺す考えなど皆無と言っても過言ではあるまい。だが、何もただ黙って殺されようなどという考えが、いや、人間が好きだから殺せない考えである訳がない。人間側が先に攻撃を仕掛けた際、正当防衛となる場合は死なない程度に痛めつける反撃は許されている。少々やりすぎな過剰防衛の場合がほとんどだが。

もちろん、「例外」もある。彼奴が気まぐれに、そして殺す以外選択肢がない場合。彼奴は許しを出し、その「例外」は起こる。人が死ぬ。無慈悲に無感情に…とは言い過ぎか。

彼奴は魔界では『変人』と称され呼ばれて少し距離の置かれている。魔族でありながら捕食対象、お遊びとされてしまう対象である(他のものに言わせれば下等な)人間に興味を持った挙句心惹かれ、心奪われたということは、さぞ魔界の住人共は滑稽に見えるだろう。だが、私も、曲がりなりにも彼奴と血の繋がりがある兄弟だ。人間は興味深いところがある。寧ろ彼奴を滑稽だとして目に映すだけの、上辺だけ見るような者共の方が遥かに滑稽に見える程に。いつか彼奴が言っていた。「人間は我らとは違い、命に終わりが来る。だからこそ、尊いのだ。無様で滑稽で醜かろうとも生にしがみつくではないか。生と死はいわば白と黒。鏡の様に正反対に位置している。どう逢ってもいつかは来る終焉(おわり)に、逆らい、逃れようと生きようと足掻く。これほどまでに美しいものはあるまい。」と。そうして人間に関わるうちに、ある人間に惹かれ、想い、愛し合い、愛している。愛し抜いている。心を捧げている。物好きだ。私も、彼奴をどうこう言う資格は無いがな。そして、その人への好奇心、関心、興味といったもの、感情であり、想いでもあるものは彼奴の息子達にも色濃く遺伝されている。


木陰に身を隠しながら、金の髪をもつ者の様子を伺う。普段はどういったこともない。普通の「優しいお兄さん」という印象だが、今は「冷酷な殺し屋」のような雰囲気がある。まるで別人だ。だが普段も今も同じ顔、同じ髪色の『同一人物』。殺し屋のような雰囲気を漂わせた奴は、普段のときと何も変わらない。別に危険でもなんでもないのだ。それは簡単なことだ。誰も『彼奴』に危害を加えなければ、『奴』は何もせず『何も起こらない』。『一番厄介なとき』もあるが…。

不意に、奴は銃を降ろした。どうせ弾数は入っていない空の銃を奴は降ろした。そしてーーー

こちらへと、投げた。

「む……。おっと!」即座に反応し、上へと跳ぶ。当然、木陰から飛び出してしまう。仕方がない。奴の後ろをとった。が、そう簡単にはいかぬ。奴は動きを読んでいた。素早く振り向きこちらへと移動していた。その姿を捉えたと同時に、腹に衝撃があった。綺麗に鳩尾に入ったのは、稀ではないだろう。ーーー腹を、蹴られた。それも思いっきり、だ。そのまま蹲るも、すぐさま一蹴。今度は顎だ。そして背中から床へ倒れた。仰向けの状態だ。

だが、我が一族は治癒力が他よりも高い。この程度ならば、すぐに治る……前に、何度も腹を踏みつけられ、蹴られる。明らかに悪意。しかも随分と八つ当たりに近い。表情を変えることなく、何も言わず。機械のように(私にとっては)理不尽極まりない行為を行う。「ぐ」「あが」「ごふっ」など呻き、手足をぎこちなく動かしながら、この理不尽な暴力の嵐に耐える。そして、嵐は過ぎ去った。私が暴力の嵐の中、なんとか名前を呼んだからだ。「紗音」

と名前を呼べば、多少なりとも反応する。脚の動きは止まった。冷たい視線は、更に凍え真っ直ぐに私を見下ろしている。「何しに来た」とでも言いたげな視線だ。その瞳には、月の光の如く輝く金の虹彩を宿している。先程の、深い森の日の光を浴びた木々の様な緑の虹彩とは打って変わり。


今さっき繰り広げられた一連の流れは、殆ど通常運転。いつも通りであり、恒例行事ともいえる。誰も止めず、参加もしない。だが、『あの娘』はそれを知らぬので、戸惑っているようだ。ヒナタが「大丈夫だよ。死んだことないから。心配するだけ無駄だよ。」と言っていたような気もするが。これはまた相変わらずだな。

「ふっ、相変わらずではないか。手痛い愛情の歓迎は健在か。何処も変わらぬ様で何よりだ。」口角を少し上げ、笑顔で言う。

すると、『何も物言わぬ紗音』ではなくヒナタが私に問うた。

「何しに帰ってきたの。」

「む?少し色々あってだな。帰巣本能というやつだ。」

「目障りだよ」

「ははは、そうか。そんなに嬉しいのか。」

「耳と脳みそ腐乱してるから取り替えてこい」

ヒナタは怪訝そうな顔で、ほぼ睨んでいるといった様な目つきで、見るからに怒りが伝わってくる。私にとっては今に始まった事でなし、愛情の一種と思えば可愛いものだ。

「あり?ジジイじゃん。おかえり〜」

そんなヒナタと打って変わり、アスカはまるで能面かの様に張り付いた笑顔で親しげに笑う。敵意はなく、寧ろどうでもよさそうに。こちらも相変わらずだが……しかし、顔は同じでもここまで違うとは。会う度に不思議に思う。

この兄弟達の中では、異様なのはこの2人だ。個々と一緒では差がありすぎるのだ。他の者からすれば、不思議でたまらぬといった様に。個々では、別段何もない。ただ愛想が良く人との関わりが比較的多い、赤がかった黒い髪のアスカと、愛想が悪く人付き合いも殆ど無い、緑がかった青い髪のヒナタ。普通だ。他とは何も変わらない。しかし、2人並ぶと異様な光景だ。まるで鏡の様に同じ顔、髪型、声、瞳をしているのに顔つきやら声質やら喋り方が違う。髪色は置いたとしてもここまで同じで真逆なのは何度も言うが不思議だ。まあ、鏡といえば鏡だ。そして、別人なのだ。一緒くたにするのは間違いだろう。

現に、私に対する二人の反応は違う。

ヒナタは私を毛嫌いしている一方、アスカは別段気にもせず普通に話しかけ、接してくる。明らかに一個性のある、『人間』そのものではないか。ただの鏡ではない。そして、私はどちらの反応をされても、どんな反応をされても気にしない。都合よく解釈する。愛だの何だのと言いながら、自分の思う通りに言葉を変える。言葉とは便利だ。相手に意思疎通をする為の手段で、自分を表現してしまうもので、相手が相手の思うままに解釈ができてしまうものでもある。相手が解釈した言葉は、当然頭の中でだ。伝えた本人にはわからない。それを言葉にしない限りは。しかし、それを言葉にしたとして、その解釈が、受け取り方が間違っていた場合、それを否定しない、訂正しないのは肯定と同じことだ。嘘を認めたと同じことだ。大抵は即座に訂正するがな。

意味の解らぬ思考は止めておこう。

さて、本題だ。

「紗音、仕事だ。しかも超特急のな」

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