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六条家、とらぶるデイズ!  作者: よむら代村
こんばんは。六条家へようこそ。
14/14

宵闇騒動〜『彼』と『獣』と、涙をひとつ。〜

「おい、何やってるんだよ!!」

あと一歩。あと一歩で目の前に居る者の身体を、恐ろしいその手で貫くことができる。

それなのに。

『獣』は動かない。いや、【動けない】のだ。

淡く光る優しい緑色の目。辛そうで、苦しそうで、泣きそうな顔をしている目の前の『彼』に、これ以上近づくことが出来ない。

そして。『彼』はーーー。

ゆっくりと、けれども優しく。

【『獣』を抱きしめた。】


「大丈夫。もう大丈夫だから。」

優しくそう話す『彼』の言葉に、『獣』は身体の力を抜いてしまった。無抵抗。

『お客様』達にとって、これは想定外であった。

まさか、『獣』を止めることができる者がいるとは。

そして、更に信じられないことが起こった。


『彼』が『獣』の頬に左手で優しく触れた。すると、『獣』の真っ黒な身体がひび割れ、ボロボロと外層が剥がれ落ちていく。

ーーー現れたのは、『人間の子ども』であった。

年端もいかぬ子どもが、そこに居た。

子どもは何が起こったか分からなかった。瞬きをしてから、ゆっくりと周りを見た。『彼』を見た。最後に、『自分の両手』を見た。

そこにあったのは、かつての自分の【手】であった。

【化け物にされる】前の、自分。

子どもの目から涙が溢れた。感極まって泣いてしまった。嗚咽した。何年も、前に変わってしまったから。

もう二度と、戻ることはできないと思ってしまっていたから。自分は、このまま『獣』として死ぬのだと。

しかし、今はどうだ。

元に戻った。手が戻った。足も戻った。身体も、戻っている。

ならば、ほとんどは元通りになっているのだろう。

【たった一つを除いては。】

子どもはそれが何か分かっていた。『彼』もきっと分かっている。だからあんな顔をしているのだ。【『獣』にされた子ども】は、それにも気がついた。

気持ちが落ち着いたところで、ゆっくり休んで顔を上げる。『彼』を真っ直ぐに見つめた。

そして、微笑んでこう言った。


「お兄ちゃん、ありがとう。やっと、【死ねる】。」


そう言うと、『子ども』は淡い光となって消えた。

『彼』の目の前には何も【無くなって】しまった。

あれは、【生命を蝕む呪い】。【自我を残したまま生きる苦行】。【身体を作り変える毒】。

『彼』は知っていたのだ。あの『子ども』は、もう残り少ない生命であったことを。

『自分』が触れたら、【消してしまう】ことも。

助けるために。解放するために。

誰のためでもない、『自分』のためにしたことなのだ。


『彼』の頬には、ゆっくりと涙が流れていた。


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