また進む 〜第二部完〜
三つの鍵が並んでいた。
メット——一つ目。光を帯びた小さな石——二つ目。スナ星の遺跡で見つけた——三つ目。
並べると、互いに呼応していた。光の明滅が揃う。息が揃う。
「……きれいですね」とルミが言った。
珍しかった。ルミが「きれい」と言うのは珍しい。
「ああ」と銀河丸。
「でも」
ルミが地図を広げた。「残り六つ。次の鍵がある星々はここと——ここと——ここ」
いくつかの星に印がある。でも——
「ジゴクも動き出してる。ドクガが補給船で移動していた方向を見ると——同じ星域を狙ってる可能性がある」
「先を越されるか?」
「分からない。でも、早い方がいい」
「分かった。明日から動く」
「今日は休んでいいんですか」
「今日くらいは休む」
ルミが少し驚いた顔をした。それから頷いた。
---
夜になった。
宇宙に昼夜はないが、船の中の照明を落とした。それだけで夜になる。
銀河丸は小さな窓の前に座っていた。外を見ていた。
星が多い。
無数にある。数えられない。どこを見ても星がある。
「江戸の夜空は、こんなに星がなかったな」
誰かに言ったわけではなかった。
でも後ろからキラが答えた。「地球ってそんなもんか」
「そうだ。曇っていることが多いし、星があっても——こんなに多くない」
ルミが来て窓を覗いた。「銀河の端だから。光が少ない場所」
「端か」
「そう。地球は銀河の端っこにある」
三人で窓の外を見た。
沈黙。
星がある。また星がある。遠くに、ぼんやりと光る雲みたいなものがある。あれも星の集まりだとルミが教えてくれた。
「……なんか、遠くまで来たな」
銀河丸がつぶやいた。
「今更?」とルミ。
「今更だけど」
「アラシ星、スナ星、そこまで来てて今更遠くに来たと思うんですか」
「なんとなく。今日急に思った」
キラが腕を組んで外を見ている。「地球に帰りたいか」
「帰りたい」と銀河丸は即答した。「でも——全部終わったら」
「全部?」
「鍵を九つ集めて。ジゴクと片がついて。星々が安全になったら」
キラが少し黙った。
「……長い話だ」
「そうだな」
「終わったら地球に帰るのか」
「帰る」
「そこにおにぎりがある」
「ある。おにぎりがある。師範もいる——多分。道場の仲間もいる。知ってる人の顔がある」
銀河丸が窓に額を当てた。少し冷たい。
「でも——この景色も好きだな。宇宙はきれいだ。こんなにきれいとは思わなかった」
「最初は吐きそうな顔してましたよ」とルミ。
「そうだったな」
---
キラが立ち上がった。
台所——船の中の調理できる場所——に行った。しばらく音がした。
戻ってきた。
手に何かを持っていた。
銀河丸とルミの前に置いた。
丸い。白っぽい。二つ。
おにぎりの形をしていた。
前回よりも、整っていた。きちんと三角に近い形になっている。表面に塩がある。
「……」
銀河丸が固まった。
「これ」
「また作った」とキラ。「前回の反応が良かったから。こっちの穀物を使って、前回より水加減を変えた。塩は前回と同じ量」
銀河丸が手に取った。
形がある。重みがある。温かい。手のひらで包むと——手に収まる感じがある。
「……」
かじった。
米ではない。でも——米に近い。前回より近い。手で握った形がある。塩がある。温かい。
「これ、今まで食べた中で一番に近い」
キラの耳がわずかに動いた。「前回もそう言ってた」
「前回より更に近い。本当に」
「どこが」
「全部が少しずつ近い」
キラが少し考えた。「——じゃあ作り方覚えとく。次の星でも、その次の星でも作れるように」
銀河丸が顔を上げた。
「ありがとう」
「礼はいい」
「いや」
「——うるさい」
ルミが一つ受け取った。かじった。「……うん、これは確かに近い気がします。おにぎりを食べたことがないですけど」
「食べたことないのによく言えるな」
「感覚です。あなたが喜んでるから」
「それは近いかどうかの話ではない」
「同じことです」
---
夜が続く。
三人が窓の外を見た。鍵が三つ、並んでいる。
残り六つ。行くべき星がある。待っている人がいる。ジゴクが動いている。
でも今夜だけは、ここにいる。
窓の外に、星が無数にある。
「きれいだな」と銀河丸がもう一度言った。
誰も返事をしなかった。でも誰も否定しなかった。
三人で外を見ていた。
また、進む。
明日から、また進む。
---




