韓立VS 陸師兄(1)
バレてしまった以上、ここに隠れ続けても意味がない。
韓立は深く息を吸い込み、眩いばかりの防御障壁を纏い、両手にそれぞれ一件ずつ宝具を握りしめ、岩陰から姿を現した。
「お前か」
韓立の顔をはっきりと見定めると、「陸師兄」は驚きの声をあげた。なんと彼は韓立を覚えていたのだ。
韓立の心は、相手の驚きの声と共に、わずかに沈んだ。
この「陸師兄」はあの小山で一度顔を合わせただけ。しかもそれは混乱した戦闘の最中のことだ。それから数ヶ月も経った今、一目で彼だと見抜くなんて、この男の記憶力が桁外れに優れているか、あるいは慎重極まりなく、謀略に長けた人物であることを示していた。
どちらの場合でも、韓立にとって良い知らせとは言えない。
むしろ韓立は、この眼前の「陸師兄」が、ある意味で自分と同じ種類の人間だと薄々感じていた。同じく謀略を好み、同じく手を下す際に情け容赦がない。
特に人前での傲慢な振る舞いは、韓立の低姿勢と同じく煙幕に過ぎなかった。韓立が他人の注意を引きたくないのに対し、「陸師兄」はわざと他人に侮らせ、本性を隠しているだけなのだ。
ただし韓立は、自分が相手ほど厚かましくも、冷酷非情でもないと自負していた。彼はあくまで、独り身を全うする中庸の道を旨としているだけだった。
韓立が内心警戒を強める中、「陸師兄」もまた表情を引き締め、何かを連想したかのように、韓立を睨みつける目には殺気が剥き出しだった。
韓立はため息をついた。もとは口車に乗せてやり過ごせないかと思っていたが、相手の様子とその謀略性を見るに、もはや迂闊な余地はない。彼と自分のどちらか一方だけが、この世に生き残るのだ。無駄な話はやめて、先手を打つべきだ。
そう考えた韓立は二の句も告げず、左手を振りかざした。精鋼の環が異様な音を轟かせ、「陸師兄」めがけて直撃する。続いて右手を掲げると、青黒い瓢箪が掌に現れ、その口から五、六個の黒ずんだ球体が吐き出され、鋼環の後を追うように飛翔した。
これだけでは終わらない。空いた左手を虚空で軽く描くと、瞬く間に複数の赤い火球が出現した。袖がわずかに動き、それら火球を包み込むと、「陸師兄」めがけて猛然と振り下ろし、口の中で低く「行け」と呟いた。
たちまち、灼熱の気を伴った火球の群れが蜂の巣をつついたように四方八方に散り、様々な角度から陸師兄に襲いかかる。
この一連の攻撃で、韓立は新たな宝具を手に入れる前の、符宝を用いない攻撃手段のほぼ全てを投入した。特に最後の、複数の火球を瞬時に発射する手法は、呉風から苦労して学び取ったものだ。相手の不意を突き、一気に電光石火のうちに仕留めるためである。
実のところ、新たな宝具にまだ不慣れで、すぐに使いこなせないかも知れないと思わなければ、韓立はとっくに遠慮なくそれらを総動員していただろう。新たな宝具の威力は旧来のものより遥かに大きいのだから。
しかし韓立が攻撃に出たほぼ同時に、「陸師兄」も手をこまねいていたわけではない。両手を返すと、長さ一丈(約3メートル)ほどの青色の大旗が掌に現れた。旗は青い光をぼんやりと放ち、長い牙を剥き爪を振るう凶悪な青蛟が刺繍されている。
この時になって初めて、「陸師兄」は韓立の怒涛の攻撃を認識し、予想外の事態に腹立ちを隠せなかった。
なんと言うことだ。彼が自らの最強の宝具である青蛟旗を真っ先に掲げたのは、韓立と同様に殺しの一手を繰り出し、口封じを図るためだった。
まさか韓立が姿を現してから一言も発せず、即座に猛烈な勢いで攻め寄せてくるとは。しかもその手口は残酷無比、死ぬまで止めぬ様相を呈している。
やむなく、「陸師兄」は攻撃を仕掛ける暇もなく、青旗を右手一本で支え、左手は腰間を探り、収納袋から一枚の黄色い符を取り出した。
彼はこの高級な符箓を惜しそうに一瞥すると、歯を食いしばって体の前にふわりと投げ、急速に呪文を唱え始めた。
その刹那、韓立の鋼環が淡い黄光を放ち、まず最初に「陸師兄」の目前に迫り、まさに直撃せんとしていた。
「陸師兄」はようやく単手でその黄符を指し示し、声を張り上げた。
「風壁の術、起て!」
その喝声と共に、黄符は猛然と白く輝き、忽然として十数丈(数十メートル)もの高さの白い竜巻へと変貌し、「陸師兄」の眼前に横たわり、鋼環の進路を遮った。
「ブシュッ」という鈍い音と共に、鋼環は容赦なく竜巻の中へ突入したが、たちまち吹き飛ばされ、よろめきながら数回宙返りし、あっさりと跳ね返されてしまった。
続いて到達した球体はさらに無力で、竜巻の外側をくるくると回るばかりで、嵐の中に突入することすらできなかった。
この光景を見て韓立は顔色を変え、慌てて指を伸ばし、最後に到着した数個の火球をわずかに誘導すると、それらは二つの大きな弧を描き、器用に両側へ飛び去り、風壁を迂回して再び「陸師兄」を攻撃せんとした。
「へっ… いい身分だな!」
「陸師兄」は冷笑を漏らし、片手で極めて熟練した印を結ぶと、風壁の中央部を指さした。竜巻は即座に真っ二つに分断され、素早くそれぞれに飛翔し、再び火球を食い止めた。
「ドカドカッ」
爆裂音が数度響き、火球はこれ以上避けられず、まっすぐに衝突した。
竜巻がわずかに震えただけで、火球の群れは飲み込まれ、渦の中に消え失せた。韓立は心底から戦慄を覚えた。
この時、風壁は「陸師兄」の操作により再び一つに戻り、元の姿を取り戻した。
「取るに足らぬ小技、よくもまあ恥をさらしに来たものだ! この師弟よ、お前の名も素性も知らぬが、今夜という今夜、お前は必ず死ぬ!」
陸師兄は狂気じみた笑いをあげた。
続いて彼は両手を合わせ、再びあの青蛟旗を握りしめ、必死に振り回し始めた。
韓立はやや緊張した。相手の手強さは、彼の予想をはるかに超えていた。あれほどの猛烈な連続攻撃を、あっさりと化解されてしまったのだ。相手が振るうあの大旗には、今のところまだ異変は起きていないが、相手の険しい表情から推し量るに、この「陸師兄」の反撃は決して冗談ではない。
どうやら「符宝」を使わざるを得ないようだ。韓立は冷ややかに考えた。
しかし今の彼には、「符宝」を凝練する能力がないため、使用するたびに一定の詠唱時間を確保しなければならなかった。そうして初めて「符宝」を駆使し、敵を打ち負かすことができるのだ。そのため、自身の防御は絶対に完璧でなければならない。
そう考えながら韓立は対面を見やると、「陸師兄」が振るう青旗は次第に輝きを増し、旗面はまばゆいばかりの青光を放ち、あの青蛟をさらに凶悪なものへと変貌させていた。どうやら相手の攻撃はまさに発動せんとしている。
韓立は迷わなかった。手を招くと、鋼環が「ヒュッ」という音を立てて戻ってきて、彼の頭上数尺(数十センチ)の位置で静止し、旋回を始めた。
「長びよ」。軽やかな号令と共に、鋼環は黄色い光を迸らせ、急速に膨張した。机ほどの大きさに達した時点で巨大化は止まった。
「落ちよ」。鋼環は再び従順に真っ直ぐ降りてきて、韓立をその輪の中に囲い込み、ゆっくりと回転を始めた。巨大な環状の防御層が形成されたのだ。
韓立はこれで止めなかった。瓢箪を収めた後、新たに手に入れた盾も祭り出された。青い防御障壁の外側で数倍に拡大され、彼の目前に黒い光を放ちながら、軽く浮遊している。
こうして、韓立の身の周りには三重の防御が形成された。最外層は精鋼の巨環、中間は玄鉄飛行盾、そして最内層は最初から張り巡らされていた青い防御障壁である。




