千年霊薬
「丁老、お手数ですが、こちらをご覧いただけませんでしょうか? 未熟者ながら千年霊薬かと思われますが、確信が持てず… どうか薬齢をご鑑定いただけますと」
田掌柜は慎ましい口調でそう言うと、錦の箱を差し出した。
「千年霊草だと?」
丁老は信じがたいという表情を見せたが、それでも箱を受け取った。
「どうかご仔細に! まさか本当に千年もののオウセイシ(黄精芝)では?」
田掌柜は胸の高鳴りを抑えきれず、早口で言った。
老人は返事せず、目を細め、箱の中のものの形や色、そして細かな紋様までを凝視した。時折、箱を鼻の下に持っていき、そっと匂いを嗅いでいる。
この薬草は韓立自身が一手に育て上げたものだ。千年霊薬か否かは百も承知。だから彼は泰然として座り、老人の行動を気にも留めない。考えているのは、万宝楼といかに駆け引きするかだけだ。
田掌柜の様子は韓立とは正反対だった。老人の一挙手一投足を瞬きもせず見つめ、韓立と対面した時の落ち着きは完全に消え失せ、今や期待と焦燥が入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
ついに丁老はそっと箱を机に置いた。そして顎鬚をひねりながら、目を閉じてしばし考え込む。やがて目を開けると、確固たる口調で冷静に言った。
「掌柜、おめでとう。これは紛れもなく千年以上の黄精芝だ。しかも採掘されて間もなく、薬効が全く損なわれていない極上の千年草だ。儂が保証しよう」
田掌柜は大喜びの表情を見せ、老人を恭しく階下まで見送ると、嬉しさに我を忘れて霊草の入った箱を手に取り、何度も何度も眺め返した。
「田掌柜、そろそろ我々、取引の話をすべきでは?」
韓立は、相手が霊草の持ち主がまだ傍らに座っていることを忘れているようだと気づき、思わず声をかけた。
「おっ…ああ! まったく愚か(おろか)で…厲兄、お許しを!」
田掌柜は一瞬呆然とした後、この霊草はまだ万宝楼の物ではないとようやく思い出し、恥ずかしそうに顔を微かに赤らめた。
「はは、何てことはない! さて、貴殿はどのように取引をお考えか? 田掌柜がこれほどご満悦なら、わたくしをがっかりさせることもなかろう?」
韓立は軽く笑いながら、ほんの少し相手を煽るように言った。
その時、田掌柜の表情は平常心を取り戻した。手にしていた箱を机に戻すと、こう言った。
「厲兄が千年霊草をお持ちになれるとは、さすがに普通の修仙者ではございますまい。では、商売人としての小賢しい手管は抜きにし、公平なお値段を申し上げましょう」
そう言い、少し考え込むと、誠実な口調で続けた。
「この霊草一株で、私が厲兄にご覧に入れた錦の箱の宝物の中から、お好きな二点とお取り替えいたします。あるいは…最後の錦の箱の中身一点のみと交換いただくことも可能です。もしどれもお気に召さなければ、本楼が霊石にて必ずやご満足いただける額で買い取らせていただきます。厲兄、いかがお考えで?」
韓立はその言葉に誠意を感じた。心の中で何度か天秤にかけ、この値段は自分の想定内で納得できる範囲だと確信し、内心で七、八分承諾の意思を固めた。しかしその前に、最後の錦の箱の中身が何であるかは確認しなければならない。
だが韓立が口を開くより先に、田掌柜は機転を利かせ、最後の錦の箱の蓋を開け、ニコニコしながら韓立の前に押しやった。
「この箱の中に収まっているのは、本楼の鎮楼の宝です。ただし…兄がその価値を理解できるかどうか、ですな!」
韓立の好奇心が大きく揺さぶられた。視線を箱の中へ落とすと、思わず呆然とした。錦の箱の中には、たった一枚の符籙が置かれているだけだった。そこには金色の長い煉瓦の図柄が描かれ、金色に輝き、まるで生きているかのようだった。
その姿をはっきり見た韓立は、頭の中で思考が激しく巡った。すぐに自分が持っている、灰色の小剣が描かれたあの符籙を思い出した。まさか同じものなのか?
「符宝…か?」
韓立は深く息を吐き、確信を持てぬままに口を開いた。
田掌柜の顔に一瞬驚きの色が走り、すぐに感嘆して言った。
「なんと! 厲兄がこれをご存知だとは! 道理で言えば、この宝物を知る修仙者は極めて少ないはずなのですが。兄は実に見識が広い、恐れ入りました!」
韓立はそれを聞くと、ほろりと笑い、首を振ってため息をついた。
「それはお褒め過ぎです。わたくしも符宝の名は聞いたことがあるだけで、詳しいことはほとんど知りません。しかし田掌柜がこれをお持ちなら、きっと符宝について多少はご存知なのでしょう? どうかご教示願えませんか?」
この言葉は韓立の本心だった。彼はこの機会に「符宝」の由来と成り立ちを徹底的に知りたかった。いつまでも藪の中にいるのは御免だったのだ。
田掌柜は意外そうに韓立を見た。これは秘密にするほどのことではなく、単に知る者が少ないだけで、大事な顧客を怒らせる価値はないと判断し、快く承諾した。そして「符宝」に関する全てを、一つ一つ説明し始めた。
「符宝」というものは、実に大きな来歴を持つ。結丹期以上の修士にのみ製作可能な、奇妙な物品なのだ。
これは、法宝を練り上げた高階修士が、法宝の一部の威力を特殊な符紙に封じ込めたもの。他の修仙者にも一時的に法宝の威力を使わせる、特殊な符籙だ。符籙と法宝の両方の特性を併せ持ち、その存在を知る修仙者たちからは「偽法宝」と揶揄され、熱烈に求められている。
この「偽法宝」は非常に特殊だ。製作には結丹期以上の修士が必要だが、使用するのはどの階層の修仙者でも構わない。韓立が殺したキンコウショウジン(金光上人)のような、三、四層程度の功法の修仙者でも、それなりに使うことができる。
ただし、基築期以前の修仙者は凝煉の術を持たないため、符宝の威力を十分の一、二ほどしか発揮できない。最上級の法器と比べても、さほど優れているとは言えまい。
基築期を経た修仙者は心神凝煉法を用い、「符宝」の威力を余すところなく全て引き出せる。その威力は、真の法宝のように天地を揺るがすほどのものではないが、他のあらゆる法器の類を圧倒するには十分だ。したがって基築期以降の修士は、誰もが「符宝」を一つ欲しがる。これがあれば、争いにおいて優位に立ち、他人を見下せるからだ。
「法宝」の威力は驚異的だが、使用するたびに封じ込められた法宝の威能が消耗していく。威能が尽きれば、符宝は完全に無価値になる。したがって、如何に法宝の威能の消耗を抑えて使うかも、軽視できない問題だ。
さらに「符宝」の製作は、決して簡単なことではない。
法宝はそもそも結丹期修士だけが練り上げられるもので、数が少ない上、修士が真元にて日夜鍛錬し、威力を高め続けるものだ。簡単に人に見せるものではない。ましてやそれを使って「符宝」を作るなど、もってのほかだ。
「符宝」の製作は、法宝の威力の一部を分け与えるような、自らを損なう行為に等しい。一枚の「符宝」を作るごとに、法宝の持ち主は、失われた威能を再び練り上げ直すため、長い時間をかけねばならない。典型的な「他を利して己を損なう」行為だ。したがって、通常は結丹期以上の修士で、こんな愚行を行う者などいない。
しかし、世の中は「無常」だ。この一見愚か(おろか)に見える「符宝」の製作は、多くの高階修士が寿命の限界が近づくと、狂ったように行うことがある。ただ、子孫や後輩に、一つの大きな力を残すためだけに。
先人が遺した法宝は、長い時間をかけて練り上げられた後、他人が継承しても、新たな持ち主は法宝と心神を完全に一つにすることはできない。元の法宝の威力は大半が失われてしまう。しかもこの継承者も結丹期に達していなければならない。そうでなければ、法宝を前にしても呆然とするしかなく、少しも使えない。そう考えると、法宝をそのまま遺すより、「符宝」を製作して後輩に渡す方が、よほど適切なのだ。
ただし「符宝」の製作には、多くの制限もある。
まず、一枚の「符宝」に封じ込められる法宝の威力は、せいぜい法宝本来の威能の十分の一に過ぎない。減らすことはあっても、増やすことは不可能だ。したがって、同じ法宝から作られた「符宝」でも、威力はまちまちで、それぞれ異なっている。
次に、符宝を製作すると、法宝の威力が低下するだけでなく、法宝の持ち主も多くの元気を失う。したがって、連続して「符宝」を製作することは不可能だ。一度符宝を作るごとに、法宝の持ち主は三、五年は休養しなければ元気は回復しない。これは、真元を浪費せず、法宝を再鍛錬しない場合の話だ。さもなければ、さらに長い年月を要する。
こうした事情から、修仙界にはよくこんな光景が見られる。
寿命の限界を迎えた高階修士は、坐化(ざか:死)の準備を整え、世を去った後に遺す最も価値あるものは、往々(おうおう)にして威力が大きく減退した法宝一つと、その法宝から作られた数枚の「符宝」である。なんとも無念なことと言わざるを得ない。




