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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第二卷: 煉気編一初めて世間に·血色禁地
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黄楓谷

跪拝きはい: ひざまずいて礼拝れいはいすること。門派内での上下関係を象徴する重要な礼儀。


元婴出竅えいようしゅっしょう: 元婴期修士が、自身の元婴を体外に放出すること。強力な術法行使や遠隔探索などが可能となる。


神遊万里しんゆうばんり: 元婴や元神げんしんを飛翔させ、遠く離れた地の様子を探る神通力じんつうりき


葉姓イェーの老人は韓立カンリとの取引を終えると、彼を法器ほうきに乗せ、議事大殿ぎじだいでんへ向けて飛んだ。黄楓谷こうふうこくの掌门、鐘霊道ショウレイドウへの報告のためだ。


間もなく、韓立は数十メートルの高さを誇る巨大な石造の大殿の前に立った。入口を警護する数名の黄楓谷弟子を好奇の眼差しで眺める。彼らの法力は韓立より遥かに厚く、少なくとも基礎功法十層以上の実力があるようだった。韓立は内心で舌を巻き、この門派もんぱの実力に改めて畏敬いけいの念を抱いた。


先ほど葉姓の老人とここに着いた時、老人は韓立に「殿外でんがいで待て」と命じ、自分だけが中へ入っていった。その結果、韓立はぽつんと一人、大殿の外で待たされるという気まずい状況に置かれ、内心でしばらく愚痴ぐちをこぼした。


幸い、しばらくすると白衣はくいの中年男が中から現れた。彼は韓立の前に直行し、冷たく言い放つ:

「**付いて来い。掌门がお呼びだ**」


そう言うと、韓立の反応など全く顧みず、独りで引き返していった。韓立は内心で苦笑した。どうやら自分という煉気期九層れんきききゅうそうの修仙者など、相手の眼中には全くないらしい。まともに話す気すらなさそうだ!


心の中ではこの男に強い不満を抱いたが、韓立はここでの自分の立場をよく理解していた。大人しくその後に続き、大殿の中へ入っていった。


弟子が警護する三つの大門をくぐり抜けてようやく、韓立は黄楓谷の掌门・鐘霊道に謁見えっけんした。三筋の長い顎鬚あごひげを蓄えた中年の男である。


大広間の両側には、様々な衣装をまとった十数名の人物が着座していた。韓立が入ってくると、彼らは一瞬韓立を眺めたが、その平凡な容姿に特に興味も示さず、すぐに目をそらした。葉姓の老人と王师弟ワンシーティもその中に座っている。


小友しょうゆうは韓立というのかね?」鐘掌门は落ち着いた口調で尋ねた。

「はい、弟子でしの韓立でございます。掌门にお目通り(めどおり)でき、光栄こうえいに存じます!」韓立は誠実そうに見える態度で前に進み出て、恭しく跪拝きはいしようとした。

礼儀れいぎは構わん!小友が昇仙令しょうせんれいを持って来た以上、本掌门ほんしょうれい先人せんじんたちが定めた規矩きく遵守じゅんしゅし、小友を門下もんかに迎え入れる」

鐘霊道は春風しゅんぷうのような穏やかな笑みを浮かべ、そでを軽く払った。


すると韓立は、今まさに頭を下げようとした体が、無形むけいの柔らかな力で軽く支えられ、これ以上跪拝できないことに気づいた。内心驚き、この掌门への畏敬の念をさらに強めた。


道理どうりから言えば、小友は本門に加入する他に、築基丹ちっきたんを服用する資格もある。しかしそれ以前に、葉师弟イェーシーティから聞いた話では…小友はその築基丹を放棄し、他人に譲ったという。これは真実か?」

鐘掌门は無駄を省き、彼を呼び出した目的を直接口にした。


「はい、掌门!弟子は自身の資質ししつおとっていると考え、この築基丹を服用するのはあまりにも勿体もったいない行為です。それほど貴重な物は、より必要とする师兄シーシオンにお譲りすべきだと存じます!」


この言葉を口にした時も、韓立の心にはまだにぶい痛みが残っていた。なんと言ってもこれは築基丹だ!彼がおやつ代わりにポリポリ食べられるような、ありふれた丹薬などではない!

この一粒が修仙界に流れれば、血の雨を降らす争いが起こるのは必定ひつじょうだ!例の神秘の小瓶しょうびんを頼りにしているとはいえ、築基丹のような霊丹れいやくを完全に模造もぞうできる自信は、韓立にはほとんどなかった。この言葉は、心にもない台詞せりふ以外の何物でもなかった。


韓立の心は激しく未練みれんに駆られていたが、表面上は非常に従順じゅうじゅんで恭しい様子を見せ、広間のほとんどの者を満足させた。


「よかろう!韓小友にそのような度量どりょうがあるとは、本掌门も大いに喜ばしい。しかし小友、どうかご安心あれ。本掌门も小友が無駄な犠牲ぎせいを払うままにはせん」

そう言うと鐘霊道は、葉姓の老人の方へ向き直った。


「葉师弟!韓小友が譲り渡したこの築基丹一粒は、そなたの孫弟子まごでしに服用させるがよい。しかし师弟は、小友の損失そんしつを十分に補償ほしょうせねばならん。必ずや本人を満足させるように!」鐘霊道はおごそかに言い渡した。


「はっはっ!掌门、どうかご安心を!必ずや韓师侄カンシーティを満足させてみせます!」

老人は事態がまさに思惑通りに進み、順調に決着したことに有頂天うちょうてんになり、声を弾ませて承諾した。


鐘霊道は老人の様子を見て、顎鬚あごひげでながらほほえんだ。この難題なんだいが、かくも容易よういに双方にとって良い形で解決したことに、鐘掌门も胸を撫で下ろした。


「築基丹の件はこれで決着けっちゃくとした。韓小友は本日より本門の弟子である。王师弟、韓师侄の住居じゅうきょを手配し、ついでに本谷の門規もんきを説明せよ。まずは伝功弟子でんこうでしについて修行させよ。もし傑出けっしゅつした働きがあれば、その時改めて抜擢ばってきする!」鐘霊道はすきのない言葉で、王师弟に指示を下した。

承知しょうちいたしました、掌门!」王师弟は背筋を伸ばして立ち上がり、めいを受けた。


こうして王师叔おうししゅくはすぐに韓立を連れて殿外でんがいへ向かい、黄楓谷の大小さまざまな規則や、常識的な事柄について説明し始めた。韓立は道中、一言も聞き漏らすまいと集中して耳を傾け、黄楓谷について多かれ少なかれ初歩的な理解を得た。


黄楓谷の権力構造と弟子階級かいきゅう


黄楓谷の弟子は上下合わせて一万人以上。そのうち煉気期れんききの弟子が90%以上を占め、築基期ちっききの弟子はわずか数百人。彼らこそが黄楓谷の中核ちゅうかく戦力である。


さらにその上の結丹期けったんき高手こうしゅに至っては、わずか数名。彼らは基本的に年中閉関へいかんしており、谷内の事務じむには関与しない。黄楓谷の存亡に関わる重大事態でもない限り、鐘掌门本人ですら、容易たやすくは彼らの顔をおがめない。


谷内唯一の元婴期えいようき修士は、鐘掌门らにとっての师叔祖ししゅくそにあたる人物。九百歳を超える高齢こうれいで、その法力は測り知れず、道術どうじゅつ玄妙げんみょう。さらに元婴を出竅しゅっしょうさせ、神遊しんゆう万里ばんりするという、まさに生きる陸地りくち神仙しんせんである。ただしこの老人はすでに谷内にはおらず、越国えっこく国内にもいない。他国を周遊しゅうゆうしており、いつ谷に戻るかは誰も知らない。


谷内の煉気期弟子がこれほど多い以上、当然全員が築基丹を服用できるわけではない!最も優秀ゆうしゅうで、資質に恵まれた弟子だけが、この栄誉えいよよくする。


そのため十年ごとに、谷内三十歳以下の弟子たちによる熾烈しれつ選抜せんばつが行われる。その競争の激しさは、外界の昇仙大会しょうせんたいかいにもおとらない。基本的に基礎功法を十一層、あるいは十二層まで修めた、真の修仙の奇才きさいだけが、ここから頭角とうかくを現し、築基丹服用の資格を得られる。


かくして厳選された数百名の最良さいりょうの弟子たちでさえ、築基丹服用後に築基を突破し築基期に入れる者は、わずか二、三十人に過ぎない。他の者はせいぜい法力が少し進歩し、基礎功法を頂点ちょうてんまできわめるのが関の山で、煉気期にとどまる。


こうして自然と、谷内の弟子は三つの階層かいそう区分くぶんされることとなった。


最下層:執事弟子しつじでし

築基丹を一度も服用したことのない弟子たち。谷内で最も数が多く、法力も最も浅い層。普段は最も多くの雑務ざつむをこなし、修行時間は最も少ない。谷内での地位も最低。ただしその呼称だけは「執事弟子」と威勢いせいが良い。

中層:領事弟子りょうじでし

築基丹は服用したが、築基期には到達しなかった弟子たち。基礎功法はほぼ頂点に達しており、法力は執事弟子より遥かに上。一部の簡単な中級功法すら使えるため、多数の執事弟子を統率とうそつ・管理する職責しょくせきを担う。普段は「領事弟子」と呼ばれる。

上層:築基期弟子

築基期に到達した弟子たち。天の寵児ちょうじとも言える彼らこそが、真の修仙者と呼べる存在。修仙の道を踏みしめた真の修士しゅうしである。

築基に成功すると、太岳山脈たいがくさんみゃく全体の中で霊気れいきが豊富な場所を選び、独自の洞府どうふを構えることが許される。一切の雑務から解放され、修行に専念できる。さらに毎年、各種の希少材料きしょうざいりょうと大量の霊石れいせきが支給され、修行の加速かそくを支援される。彼らの唯一の義務は、本門が大敵に遭遇そうぐうした際に力を貸し、命令にそむかないことである。


黄楓谷にはこれらの弟子の他に、門派の実権じっけん掌握しょうあくする各種の管事かんじがいる。


これらの管事は、築基期に入った後、ある程度修行を積みながらも、結丹期への望みが薄いとさとった弟子たちの中から現れる。自ら進んでさらなる修行を放棄ほうきし、谷内の雑多ざったな事務の管理を引き受ける者たちである。葉姓の老人や、あの大殿で会議に参加していた十数名が、まさにこの管事たちだった。


厳密げんみつに言えば、鐘霊道という掌门自身も、高級管事こうきゅうかんじの一人に過ぎない。ただ彼が担当するのは、門派全体の統合計画とうごうけいかくであり、他の管事たちの管事という立場だ。


門派の存亡を真に決定するのは、俗事ぞくじかえりみない結丹期以上の修士たちである。彼らの存在があるからこそ、邪魔外道じゃまげどうも黄楓谷に手出しできず、七大仙派しちだいせんぱの一つとして今日まで屹立きつりつしているのだ。そうでなければ、七大仙派の一角である黄楓谷など、法力高深ほうりょくこうしん妖人ようじんたちに、とっくに何度も殲滅せんめつされていただろう。


もちろん、以上の内容は全て王师叔の言葉そのままではなく、彼の話の端々(はしばし)や、韓立が巧みに引き出した情報から、韓立自身がひそかにまとめ上げたものだった。


これにより韓立は、自分が置かれた環境かんきょうと地位を明確に認識し、今後他の同門どうもんと接する上で、少なからぬ助けとなる見通しを得たのだった。


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