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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第二卷: 煉気編一初めて世間に·血色禁地
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俗世を断ち、仙縁を抱け一煉気編・起

古びた街道を、一台の馬車が東へと向かって駆けていた。


車内には韓立と曲魂の二人が乗っている。四輪の幌馬車は内部が広いが、今は彼らだけの貸し切りだ。韓立が銀貨三両を払い、一時的に馬車全体を借り切ったからである。


木製の車体は外見がかなり傷み、古ぼけて見えたが、中は意外にきれいに整えられていた。そして車を引く二頭の馬は壮年期で、たくましく駆け、車を驚くほど速く引いていく。


韓立がこの車を選んだのは、まさにこの二点ゆえだった。通常、この手の馬車が何日も走り回って稼げるのは、せいぜい銀貨一両程度に過ぎないことを思えば、三両は破格の大金なのである。


御者は、ごく普通の浅黒く痩せた中年男で、口数が少なかった。韓立が話しかけない限り、決して余計なことは言わない。この点も韓立は気に入っている。


何しろ連れの曲魂は異常なほどの巨体で、顔を隠すように深く被った頭巾の姿は神秘的に映る。おしゃべりな御者に根掘り葉掘り尋ねられたら、言い訳するのも厄介だからだ。


韓立の肩には、黄色い羽根の「**雲翅鳥**(うんしちょう)」が止まっていた。霊性豊かな小さな生き物は、目を半分閉じて休んでいるようだ。


車内の反対側に座る曲魂の肩には大きな包みが担がれている。中身は着替えの服のほか、金銀や瓶や壺など、ずっしりと重い物ばかりだった。


一方、墨大夫から渡された**法器**(ほうほう)や手紙、書物などの小さな品々は、極めて重要であるため、紛失を恐れた韓立が肌身離さず持ち歩いている。


韓立は車内で静かに座り、木製の車輪の「きしきし」という音に耳を傾けていた。表情は平然としており、七玄門を離れたことによる哀愁など微塵も見せない。


唯一、心にわずかな未練を抱いているとすれば、それは親友・厲飛雨のことだけだった。だが、おそらく相手は自分の置き手紙と、彼のために調合した**秘薬**(ひやく)を受け取っているはずだ。この薬が効いて、友人が少しでも長く人生を謳歌できることを願うばかりである。


そう考えながら、韓立は背筋を伸ばして車体の壁にもたれ、仮眠を始めた。馬車の目的地は、御者にすでに伝えてある。彼が生まれた、山あいの小さな村だ。


不可能だと分かっていても、目を開けたらすぐに両親や兄弟姉妹の顔が見られることを願わずにはいられなかった。


両親の下を離れて、もう何年も経つ。彼らの面影さえ、記憶の中でぼんやりとしてしまっている。だからこそ、故郷を遠く離れる前に、自分の目で両親の姿を確かめなければならない。そうしなければ、安心して去ることなど永遠にできないのだ。


「妹はどうしているだろう…今は十六、七で、もう大人の娘になっているはずだ。前回、家からの手紙で、彼女の縁談が決まり、結納も済んだと聞いたような…」

うとうとと眠りに落ちる直前、韓立の脳裏に小柄で痩せた小さな影が浮かんだ。その小さな主はいつも彼の後をついて回り、甘えた声で「四哥哥シーグーグー」「四哥哥」と呼び続けていたあの頃を。


「時の流れは本当に早いものだ…」


韓立はついに、あたたかな気持ちに包まれながら深い眠りについた。この眠りは非常に安定しており、非常に心地よい。まるで幼い頃、そばで両親が見守り、蚊を追い払ってくれていたあの夜のように、なんとも甘美な眠りだった。


---


五日後、黄土の道を進んだ韓立は、ついに懐かしさに胸が詰まるほどの小さな村を遠くに見た。


低い泥の壁、一列に積まれた藁の山、そしてデコボコの小道――かつて韓立の魂が揺さぶられるほど懐かしく思い描いたすべてが、今、目の前に現実のものとして現れた。


韓立は心の高ぶりを抑え、御者に村の外れで馬車を停めさせた。曲魂も車内に残す。彼自身は村の入口へと足を速めた。村に近づけば近づくほど、胸の鼓動は激しさを増していく。


この抑えきれない感情を、韓立は久しく味わっていなかった!


韓立は一歩一歩、村の中へと踏み入れた。


村の入口で祝祭のような楽器の音が聞こえ、小道を進むも村民の姿はどこにもない。


韓立の心が動いた。この光景と音は幼い頃よく知ったもの──明らかに婚礼の儀で、村人たちは皆祝いに行っているのだ。


精神を集中させ、**霊識**(れいしき)を周囲に解き放つ。村の老若男女が一箇所に集まっているのが感知されたが、その場所があまりにも見覚えのある自宅の場所ではないか!


韓立は心底驚いた。


「まさか…?」微かな予感が頭をよぎる。


足を速め家屋を幾軒か抜け、角を曲がると視界が開けた。


数百の村民が土塀の庭前に群がっていた。


庭内の瓦葺き家屋は周囲より格段に立派。至る所に「囍」の字が躍り、楽隊が賑やかに奏でている。


村民たちは立ち・蹲り・地面に座り込み、三々五々に固まっていた。囁き合う者、議論する者、羨望の眼差しで庭を覗く者。子供たちが大人の周りを駆け回る光景。


見慣れた情景に韓立は一瞬恍惚とした。まるで過去に戻り、子供たちと無邪気にはしゃいでいるかのようだった。


「韓家の四姫は福持ちよ!相手は町の**秀才**(しゅうさい)様だとか」

「**正室**(せいしつ)として嫁ぐんだって!」

「**嫁入り道具**(よめいりどうぐ)に**雪花銀**(せっかぎん)が何十両も!」

「羨ましい限り!」

…………


村女たちの噂話が韓立を現実に引き戻した。


「四姫…妹か!今日が妹の婚礼だと?」言い知れぬ感情が渦巻く。


無意識に近くの大木の陰に身を隠し、庭門を凝視する韓立。


その時、遠くから叫び声が響く。

「**花嫁の輿**(はなよめのこし)が来たぞ!」


村民たちが騒然となる中、木製の門が「きいっ」と開いた。十数人の男女に囲まれ、真紅の嫁衣裳をまとった少女が現れる。年は十六、七歳。うつむき加減で頬を染めていた。


韓立は目を見開く。少女の顔に幼い妹の面影を探すが、眉目のかすかな印象以外、もはや重なるものはなかった。


「…『**女大十八変**(じょだいじゅうはっぺん)』か」苦笑いすると、視線を周囲へ移した。

「あの肥えた男は三叔父。相変わらずだ」

「黒い大男は長兄・韓鉄。隣の女は**嫂**(あによめ)だろう」


呟きながら親族を確認していく視線が、二人の白髪の老人で固まった。


木陰に立ち尽くす韓立の表情が複雑に歪む。喜びと躊躇い、そして茫然。


両親の老いは想像を超えていた。修行に出た時、母の髪は漆黒だったのに今は白く、父の背筋はかつての面影なく曲がっていた。


思考が停止し、その後の光景は記憶にない。


我に返った時、妹は紅い絹に彩られた**彩車**(さいしゃ)に乗り、青毛の馬に跨った書生に連れられて遠ざかっていた。


韓立は彩車を強く見据え、群衆の中の両親を一瞥すると、静かに目を閉じた。


両親と肉親の面影を魂に刻みつけると、彼は振り返った。顔に鋼の決意が走り、村口へと**大股**(おおまた)で歩き出した。


この村口を出れば、彼らとの縁はこの世で終わる。


**長春功**(ちょうしゅんこう)を修め、**修仙者**(しゅうせんしゃ)の道を知った時から、凡人とは違う道を歩むと悟っていた。


待ち受けるが禍福吉凶いずれであれ、この選択だけは決して悔いはない!


---

**雲翅鳥**(うんしちょう)

霊性を持つ鳥。黄色い羽根と空を飛ぶ能力を持つ。


**法器**(ほうほう)

修仙者が使用する特殊な道具や武器。霊力や仙力を増幅・制御する力を持つ。


**秘薬**(ひやく)

特殊な材料と技法で調合された薬剤。通常、強力な効果(体力増強、治癒、修行補助など)を持つが、調合は難しく、入手困難。


**霊識**(れいしき)

修仙者の精神感覚。周囲の状況を超感覚的に把握する能力。

**秀才**(しゅうさい)

科挙初級試験合格者。知識階級の地位を得る。

**正室**(せいしつ)

正式な正妻。側室と区別される。

**雪花銀**(せっかぎん)

最高純度の銀貨。当時の高額通貨。

**花嫁の輿**(はなよめのこし)

花嫁を乗せた装飾輿。婚礼の象徴。

**女大十八変**(じょだいじゅうはっぺん)

「娘は成長で大きく変わる」の諺。

**嫂**(あによめ)

兄嫁の意。

**彩車**(さいしゃ)

婚礼用の装飾車両。

**大股**(おおまた)

決意を示す力強い歩み。

**長春功**(ちょうしゅんこう)

不老長春を目指す修仙基礎功法。

**修仙者**(しゅうせんしゃ)

仙人を目指す修行者。俗世との訣別が宿命。

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