04-01 新たなる扉
とある新米が下水道で大ネズミ退治をしていた時の話である。
「そっちに行ったぞ!」
戦士が剣を振る。ネズミは軽快な動きでそれをかわす。
逃げられるも、盗賊がカバーした。
「ちょっと、こっちに寄せないでよ!」
抗議である。
「炎よ!」
後衛の魔術師。杖から飛び出る火の玉。
その火の玉が鼠を燃やす。
火だるまになるも、がむしゃらに盗賊に突進していく大ネズミ。
背後からそのネズミの背を別の戦士が切りつけた。
ネズミが悲鳴を上げ、突進が止まる。
青い顔の盗賊。
「ちょっと、酷いんだから!」
と食いつく盗賊。
仲間全員でなだめる。
そして、そんな盗賊が怒り任せに近くの壁を蹴る。
途端、地下水道全体を揺るがすほどの大きな地鳴りがした。
……ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴ……!
ばらばらと壁から剥がれ落ちる漆喰。
急いで盗賊は足を引っ込め、その場を走って離れる。
もうもうと立つ白い煙。
皆、ゴホゴホと咳き込んでいる。
「ちょっと、なんだ今のは!」
「なによ一体!」
と、その壁に見えたモノ。
それは巨大な両開きの扉だった。青銅か、鉄か、はたまた謎の金属か。
遥か昔から埋まっていたと思われる、謎の大扉だったのである。
◇
「下水道の先に、未探索区域が見つかったんだと」
黄金の羊亭店主、ハーバシルの親父がジョッキを布巾で拭きながら、エール入りのジョッキを手にしていたガイアリーフに声をかける。
「それで?」
「探索してくる気はないか? なんでも、ちょっと変わった場所らしい」
依頼、と言うわけではないらしい。
「ちょっと変わった?」
「ああ。壁が崩れて大扉が現れたそうなんだが、その向こうの様子が大迷宮の様相を呈しているらしいんだ」
どちらにせよ、耳寄りな情報ではあった。
「話が見えないが」
「怪物がいて、怪物どもがお宝を持ってそこで生活をしているらしいんだが、その怪物どもが大扉の外まであふれて来てな?」
どうにも都合のいい話である。
「ふむ」
「大扉の向こうが、どうなっているのかわからないので、腕の立つ者に見てきて欲しいってわけだ」
話が見えた。探索先の難度が知りたいらしい。
「要するに、先遣隊か。で、お宝は切り取り次第」
「そういうことになる」
腕の立つ者に様子を探ってきて欲しいのだろう。
もっとも、未探索区域とやらが小規模なのであれば、ガイアリーフたちが足を運んで終わり、となる可能性すらある話だ。
「行こう。新たに表れた大扉の位置は分かるか?」
「わかる。が、結構奥だぞ?」
「そうなのか?」
意外な情報に、それは初心者お断りだな、と納得する。
「行くぞ、アリムルゥネ。腕試しだ」
「ガイアリーフ、お供します」
「当然だ。オルファにはついて来てもらわないと困る」
「ありがたい話です」
リンゴを齧っていたアリムルゥネが剣と盾を取り、書物を読んでしたオルファが杖を取る。
「では、行くか」
「はい! 師匠!」
「気を引き締めて参りましょうか」
三人は、太陽の日差しを浴びて、酒場の外に出た。
◇
「また下水道ですか? 師匠」
「そうだともアリムルゥネ。邪教徒、いないと良いな?」
ガイアリーフはアリムルゥネに話を振った。
「酒場で耳にした話によると、早速大扉の中に邪教徒が入って行って姿を見せないそうです。ガイアリーフ」
「そうなのか? そうか、残念だったな、アリムルゥネ。再戦しないといけないようだ」
アリムルゥネがうんざりした顔を見せる。
「またですか。彼ら、中途半端に腕が立って面倒なんです」
「相手もそう思っているかもしれないぞ?」
「そうでしょうか」
カカカと笑うガイアリーフ。
三人は行く。
下水道の入り口、地下遺構の入り口に向かって歩いた。
◇
大ネズミを剣で刈り取る。
ガイアリーフとアリムルゥネの役目だ。
目が血走っている。
大ネズミの後ろ脚が素早く動いた。
ガイアリーフが盾で殴る。アリムルゥネは素早く反応し、自分の盾とで挟み撃ちにした。
そして、よろっと崩れたネズミの喉目掛けてミスリルの小太刀で止めを刺す。
ネズミの大群に拳大の炎の珠が何発も打ち込まれる。
後にいたネズミどもが一斉に燃え上がり、散り散りに走り出す。
ガイアリーフとアリムルゥネの剣が冴えわたる。
恐慌に陥って飛び出したネズミのほとんどが討ち取られ、残りは逃げて行った。
薄暗い地下水道。
下水の腐った臭いが鼻を突く。
オルファの手に持つ松明を頼りに進む。
彼らの足元に長い影が三つ伸びていた。
そして、見上げるように聳え立つ、大扉を発見する。
大扉の前には、漆喰が剥がれ落ちたような跡がある。
それは大きな瓦礫となって山積みになっていた。
今、新たなる入り口がガイアリーフ、そしてアリムルゥネたちを待っていた。




