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04-02 闇の側からの勧誘

 両開きの扉の奥は、小動物の動きまわる音や、小さな鳴き声、水の滴る音、その他さまざまな雑多な音が混ざった形容しがたい空間となって、三人の前に広がっていた。


「照らしてくれるか」

「はい。──灯り(ライト)


 松明の灯りと共に、魔法の灯りが煌々と照らし出す。

 正面の通路ははるか向こうまで続いており、時折、通路の両側に扉がついているようだ。

 扉は開いているもの、閉じているものと様々であり、足元に積もる埃を踏んだとみられる足跡からは、いったい何人がこの中へ侵入したのかすらわからない。

 多数の人間、そして動物たちが侵入、そして出て行ったとみて間違いないだろう。

 右手にも通路は伸びており、通路の行き止まりで奥手に扉が一枚見える。

 足跡が続いており、固く閉じられていることから見ると、何者かがいる可能性が高いと思われた。

 ガイアリーフは迷わず右手の通路を選ぶ。

 そして、扉をアリムルゥネに調べさせたのである。


 ◇


 その半透明の存在は、実に軽く言ってくれた。


「人間があんまり調子乗ってくれちゃってるから、魔王様はお怒りになって大軍勢で攻めるぞー、って仰ってらっしゃるんだよね? でもでも、あんたたちが俺様にここでお金を少しばかり寄付してくれちゃうと、途端に魔王様の機嫌がよくなっちゃうかもしれない!」

「お前、言葉にして悲しくないか?」

「このラウト様がせっかく魔王様の本音を伝えてやってると言うのに聞き分けの無い人間だホント。これだから人間ってのは面倒なんだ」


 半透明の存在、それは薄汚れた革鎧に身を包んではいるものの、それなりに立派な剣を腰に刷いた男であった。

 茶髪に碧眼。人のよさそうな顔。

 どこか愛嬌のある、変な男である。

 しばらく皆がその男を注視していると、


「ほらほら、早く態度決めてくれないとさ、イシュタルがうるさいんだ。今までの連中は違ったけれど、あんたたちは充分強い。適格者だ。だから聞いている。あんたたちなら他の人間たちの役に立てる。そして、魔王様のお役にも立てる。両者両得。申し分なし!」

「意味が解らん。オルファ、わかるか?」

「魔王と通じている男、と言うのは理解できましたが。それと、私たちの実力を評価してくれているということも」

「いや、なにが言いたいのだろうな、と」


 オルファも頭を抱えてラウトと名乗る存在と話をしている。


「魔王様は街の地下に出城を作られました、と言うとお分かり?」

「なに?」

「魔王様は、この街に出城を作られ、人間と接触したがっておいでです。来る者は拒まず、去る者はちょこっと追って、その後は個別に考える。分かるか?」


 出城。それはこの迷宮か?


「わからん。わからんが、魔王は人間と交流したがっているのか?」

「人間に限らず、ほかの種族とも交流したがっておいでだと言うと、どうする?」

「俺たちが窓口である理由は?」

「実力のない人は得てして街での発言力がない」


 魔王。商人を装うなどして正面から領主と話すわけにはいかなかったのだろうか。

 ああ、異国の商人、謎の風体、聞いたことも無い名前、御用商人でもない……断られるな、うん。

 しかし、他に手がありそうなものだが。


「ああ、名声が関係するのか。アリムルゥネ、魔王が友達になりたいそうだ。──お前、なるか?」

「ふぇ? ──ぇえ!?」


 意味が飲み込めた瞬間、アリムルゥネは驚きの声を上げる。


「まあ、直ぐには無理か……迷宮を進んでみるとわかる。そのうち幹部の誰かと出会うこともあるだろう。でも、その幹部が皆俺と同じように友好的だとは思うなよ? っと、最後に忠告を残して去ることにするか。じゃあな。ええと。フォルト在住のガイアリーフとアリムルゥネとオルファ、な? 一応俺から推薦は上げておくから。じゃあな」


 と、半透明の存在は唐突にガイアリーフら三人の前から消えた。


 ◇


「なに、魔王?」

「そうとも。ハーバシル」


 ガイアリーフは迷路の入り口でラウトと名乗る男から聞いたことを黄金の羊亭の店主に話している。


「魔王の、出城。──それが迷宮だというのか」

「ああ。空間を捻じ曲げているのではないか?」


 簡単に言うが、そんな魔法聞いたこともない。


「そうだろうな。と、なると大魔法か。迷宮を作るほどの大魔法。もしくは、秘密裏に穴を掘って基地を作れるほどの金と時間……常人の発想じゃないな」

「だろう? 一体、魔王と言うのはなにを考えているのだろうな。人に会いたければ、直接訪ねてくればいいのに」

「そう簡単にもいかんのだろう」


 店主は首を捻るが、ガイアリーフには異論があるようだ。


「そうか? 魔王と名乗らなければ、誰だって相手をしてくれると思うぞ。もしくは、角があって羽根があって入れ墨をしている、とでもなっても、変身の魔法を使ったほうが早いだろうに」

「迷宮を作る手間を考えれば、実際そうだな」


 費用対効果。


「だろう?」

「なにを考えているのだろうな?」


 訳が分からない。

 それが、店主とガイアリーフの一貫した評価だった。


「悪の魔法使いは迷宮を作って最奥に閉じこもらないといけないんです」


 といった、オルファの意見が無視されたことを付け加えておく。


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