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ブレイク痴話喧嘩III

それから一週間が経過した。


会長は宣言通り、ロメオとジュリエッタの距離を空けるための政策を実行した。

だが、ロメオも、メンヘラのジュリエッタも、どうやら相手に不信感を抱いている様子はなかった。会えない理由がわかっているにしたって、バカップルには耐え難いはずなのに。


彼らは私が思っている以上に大人だったのだろうか?深い信頼関係で結ばれている?あるいはどこかで密会しているのかもしれない。

当然書記メガネのほうも動いてはくれないから、これは困った誤算である。



訝しく思った私は、とりあえずジュリエッタの方を尾け回してみることにした。


朝食、登校、授業に部活まで、一日中、彼女の生活をつぶさに観察した。が、やはりこれと言って怪しい行動はしていなかった。当然ロメオには会えていない。

にも関わらず、さほど辛そうにも見えなかった。


やはり、私の認識が甘かったんだろうか?

会えない時間では、彼らの愛は揺るがないのかもしれない。



夕方、これといった収穫なしに、ジュリエッタの後を尾けるが、方向は女子寄宿舎だ。彼女にしては少し早いが、多分もう帰るんだろう。


この時間なら、ロメオは既に男子寄宿舎だろう。門限後は監視の目が一段と厳しくなるから、これから密会というのも考えにくい。やはり彼女はロメオとはあわないだろうな。


寄宿舎の扉を開けるジュリエッタにため息をつく。


私の予想は外れていたんだろう。バカップルと思って舐めていた。腐っても、彼らは優秀な権力者なのだ。


これでは作戦も練り直しかもしれない。めんどうくさい。


ジュリエッタは寄宿舎内の談話室でノートを開き、何かを書き込み始めた。窓にあしらわれた飾りガラスは、覗き見には不向きであるが、たぶん今日の授業の復習だろう。


この時間帯の談話室は人がいないため、ごく稀に勉強している者がいるが、彼女もその一人だったらしい。

しばらく見ていたが、特に変わったことはしていなかった。


もうそろそろ門限だから、もう外には出られないだろう。

ここにいても時間の無駄だと思って踵を返そうとすると、刹那、嫌というほど馴染みのあるピンクブロンドが頬をかすめた。



「ジュリエッタちゃん、ごめんね、遅くなって」


ジュリエッタの向かいに一人の女子生徒がふわりと腰を下ろす。小鳥のさえずりのような可愛らしい声が室内に響く。


彼女(・・)は天使のように微笑みながら、ジュリエッタの話を聞いているようだ。先程までとはうってかわってジュリエッタの表情がくるくる変わっている。十中八九恋愛相談だろう。


たしかに、彼女(・・)のメンタルコントロールをもってすれば、メンヘラ女に会えない時間を我慢させることくらい容易いだろう。


なるほど、この女が一枚噛んでいたのか。

どこまでも私の邪魔をしやがって。階段三段踏み外して、頭を打ってくたばりやがれ。


ああ、なんと腹が立つ!


学園の天使。生徒会の女狐。クソッタレの仇敵。

そこにいたのは、生徒会庶務 クリス・マスカルポーネだった。



談話室の扉を開ける。

クリスはそれを予期していたかのように、ノーモーションでこちらを振り向いた。


「こんにちは、ハイネちゃん」


一切の動揺をみせないクリスとは対照的に、ジュリエッタは目を泳がせながら「あっ、は、ハイネさん……!」と声を裏返した。


まあ、恋愛相談中に第三者が突入してきたらこうなるのも無理はない。案の定、彼女は何が何だかわからない様子のまま、「わ、わたしっ、もう行きますね!」と、談話室から跳ねるように逃げて行った。


無言の笑顔でジュリエッタを見送るクソ女に目をやる。

真っ当じゃない笑顔は、胡散臭い会長とは似て非なる、計算された魅力的な笑顔だ。さすが見かけで権力を掴んだだけあるだろう。


ちなみにそれは客観的分析であって、私はこの笑顔を目にするたび腹パンをかましてやりたくなる。魅力などない。


が、ひとまずそれは我慢して、先程ジュリエッタが座っていた席に腰を下ろした。


「何をしているんですか」


頬杖をつきながらクリスを睨む。


「それはこっちのセリフだよ。会長と、一体何を始めたの?」


どうやら、この女狐には一部お見通しらしい。その辺の愚民どもとは違う。この分だと、たぶん副会長も何かしら勘づいていると見て良いだろう。


「あなたも嫌いでしょう、あのメガネは」

「……あはは」


一言で、どうやらクソアマは理解してくれたようだ。

女アンチの書記メガネは、クリスだって嫌っている。こいつは意外と感情的な部分があるから、たぶん邪魔する理由も大きく無くなるはずだ。


「どうせ恋愛相談を受けるならロメオの方にしてくださいよ」

「やだよー、やな女みたいじゃん」

「あなたはやな女でしょ」

「えーハイネちゃんひどーい」


くすくすと綺麗な顔で笑うクリスに、怒りを込めてため息をつく。

どうやらまだ邪魔をする気らしい。


他に邪魔する理由があるとすれば、たぶん誰にでもやさしいクリス様を貫くためだ。突然ジュリエッタの恋愛相談を投げるのはよろしくないって事なんだろう。クソ喰らえ。


仕方がない。動かないものを動かすにはなんらかの力が必要だ。私は舌打ちをして、クリスの方に向き直る。


「明日から談話室に人を呼びます」

「……しかたないなぁ」


これでジュリエッタは人目を憚りまともに恋愛相談できなくなることだろう。寄宿舎内部、この時間帯には、他に人気のない場所はない。

罰則覚悟で私室、ならば不可能ではないが、品行方正のクリスを校則違反に誘うことはできないはずだ。


クリスは本気で相談に乗ってあげたい訳じゃないのでこれで説得できたらしい。やはりクソ女だ。




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