七十一話『わーかってますもんっ!』
最深部の地下室はあっさりと開かれた。
ハイドラが鍵を鍵穴に差し込んで捻って、はい終わり。琥珀的には、これだけ厳重に守っているのだから、それこそもう一捻りのある解錠の仕方を所望したかった。
「ハイドラ様。それで、ここには何があるのですか?」
せめて地下室の内部には期待したいところ。でないと街の保安機関による追っ手に遭遇する危険を冒してまでここへ訪れた自分が報われない。
「商談で手に入れた物を管理しているだけだ」
「……それだけですか?」
「……そうだな」
ハイドラはそう言って、中へ入って行く。そしてそこはコンクリートの壁に囲われた何の変哲もない部屋だった。
失望する琥珀。
ただその中で唯一、目についた物は、部屋の奥にある四つの巨大な金庫だった。
ハイドラがそれに歩み寄っていくと、一つずつ順に解錠していく。そして内3つの金庫の解錠を済ませた所で、大きな扉を開けていった。
「琥珀。これを運んでくれ」
左の金庫から順に、魔宝石の詰められた袋。魔法防壁発生装置。そしてロジックベンセンとの商談で手に入れた万能薬だった。
そしてそこに、琥珀に一つの疑問が浮かぶ。
「誰が万能薬をここへ運んだのですか?」
考えれば考えるほど疑問だ。
ハイドラが屋敷に戻るタイミングなど無かったはず。となれば、ここへ万能薬を運んだ人物は別に居る事になる。
そして薄々、予想がつき始めた頃だった。
「私よ」
その問いに答えたのは、やはりと言うか、予想通り元メイド長ロゼだった。
しかしそこで怪訝に思う事がある。
「やっぱりですか。ロ……ゼは……色々と……特別なんですね」
契約を交わす事なく従者として働き、自分には知る事も許され無かった地下室へ入る事も許されているロゼ。
そんなロゼとハイドラの特別な関係が疑問だった。
「ハイドラ様とロゼは……どんな関係なのですか……? 琥珀は気になります……」
別に二人が特別な関係だったとして、思う事など何も無いが、これから二人と付き合っていくに置いて、知っていて損は無いと思う。
何故なら、それによって対応が変わるからだ。
無意識にうつ向いてしまう琥珀に、ハイドラは淡々と答えた。
「メイド長とは……いやロゼと呼んだ方が良いか。……そうだな、ロゼとの関係はただの主と従者だ。契約こそ結んでいないが、お前と変わらん」
「でも私には無い特権があるじゃないですか……」
続く琥珀の問いに、ハイドラはさも当たり前のように答える。
「そりゃそうだろう。メイド歴が違うのだからな。ここで働いて数ヵ月のお前と、何年も働いているロゼの権利が同じなのであれば、それこそ今度はロゼが疑問に思うだろ。それにメイド長にまで任されていたんだぞ? 階級が違えば、職権も違うに決まっているだろう」
実に当たり前の事だった。反論の余地もない。にも関わらず、それにこじつけて特別な関係だとかほざいていた自分が今となっては恥ずかしくて仕方が無い。
その羞恥からか、頬を少し染める琥珀が、腕で口元を隠すようにして言った。
「わー……かってますもん」
「変な奴だな……。さっさと運んでくれよ」
「わーかってますもんっ!」
琥珀が魔宝石の入った袋へ駆け寄り、それを担ぐ。
そしてそこで続けた。
「って言うか! 今ならハイドラ様の方が力、強いじゃないですか!」
「俺は主だ。そうだろう?」
「……ぐぬぬ。分かってますよ! 分かってて聞いたんです! さっきのも分かってて聞いたんです!」
「なんだって?」
「もう何も無いです! 早く行きますよ!」




