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後編

 いくら妖といえど、多勢に無勢では敵わなかった。

 激しい戦いの最中も子を守った妖狐は、妖封じの札に気が付かなかった。あっという間に妖力を封じられる。


 刃を何本も突き立てられた妖狐は地面に伏し、取り囲む人間を見つめ、心の底から困惑していた。


「何故? 妾がこんな目に遭わねばならんのだ? 妾はただ、人の子を愛しただけなのに……」


 ドクドクと血が流れ、地面に吸収されていく。彼女は訳がわからず、己に憎悪を向ける人間達に問いかけた。


「のう……人間や。人を慈しみ、愛し……育てた。病気も治したし、飯も……やった。それの、何がいけないのだ?」


 大きな咳をして、地面に血を吐き出す。


「……普通の人間も皆、そうやって生きているのだろう? ……妾と何が違うのじゃ」


 その問いに誰も答えない。その代わりに憎しみの目を向けられる。


「……何故、怒る……? 分からぬ。人間は……分か……ら…………」


 彼女は最後まで困惑し、理解する事はできない。

 人間と妖狐の 理(ことわり)は最後まで交わる事が無かった。


 誰もが知る美しい人喰い妖狐は、人を深く愛し、人を理解する事なく、冷たい土の上で息絶える。


 彼女の洞窟には、人の骨は一本も落ちていなかった。



 *



 ところ変わって、別の土地。

 少し開けた山の中。ひっそりとしながらも活気に溢れた市場には、人と妖が入り混じっている。

 そんな不思議な市場の片隅で、通りすがりの旅人達が、狐の噂話をしていた。


「聞いたかい?西の国の人喰い狐が討伐されたって」

「あぁ、あの子供を喰らうとか……ついに天罰が下ったのかい」

「それがな?噂によると、子供は誰一人喰われてなくて、しかも病気やら怪我が綺麗さっぱり消えてたとか」

「へぇ。狐のお遊びか、神仏の奇跡かねぇ。なんにせよ、めでたい事だな」

「そうそう、例の庄屋さんは大庄屋になって、気を良くして攫われた子供ら全員に馳走を振舞ったとか」


 めでたい、めでたいと旅人は笑い、酒を飲む。

 そんな彼らの話を遠くから聞き耳を立てる、一人の幼い少女がいた。

 少女は人の耳ではない、白く大きな狐耳を声の方に向け、ふわふわの大きなしっぽをだらんと力なく垂らす。

 そして、白い髪を手で隠しながら、隣を歩く父を見上げた。


「妖狐が討伐されたんだって。私と同じ…………白い狐」


 すると、父は眉を下げて、白髪を隠す少女の手を取り、歩き出す。


「同じ狐でも、お前は半分は人間。全くの別物だよ」

「でも……」


 昼の日差しが強まり、辺りが白っぽく染まる。少女の髪が光を反射し、父は眩しそうに目を細めながら、優しく微笑みかけた。


「お前はとっても美人で可愛くて、皆に寄り添える優しい子だ」

「じゃあ、私は……父さんの自慢の子?」


 照れ臭そうに、そう尋ねた少女。いつも父から言われている言葉を、今日は自分から尋ねてみたのだ。

 父はそれを肯定する様に優しく頷く。妖狐の噂話を聞いたときは難しい顔をして俯いていた父だが、それはもうすっかり消え失せていた。


「父さん、今日のお夕飯はなに?」

「そうだなぁ……今日は、うどんにしよう。お揚げを乗せた、きつねうどんがいい」

「おあげ! 楽しみだね!」


 少女は無邪気に笑い、二人は手を繋ぎながら白い光の中を歩いて行った。


 おわり

これにて短編完結。

 10月ごろに、新しい和風ものの連載を始めたいと思います!よろしくお願いします。

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