最終話 未来の自分へ
二〇二六年、夏。
夏は、今年も変わらずやって来た。
きっと、この先も変わらない。
私が年を重ねても。
歩く速さが少しずつ遅くなっても。
鏡の中の顔が、知らない誰かに似てきても。
蝉は鳴き、
入道雲は空へ積み上がり、
夕立は街を濡らしていく。
夏は、何も知らない顔で。
何年も、何十年も、同じように。
だから、もし。
この言葉を読む頃にも、また夏が来ているのなら。
暑い暑いと苦笑いしながら、
冷えた麦茶を飲んでいるのかもしれない。
蝉の声を聞いて、
「今年もうるさいな」
なんて思っているのかもしれない。
それでいい。
昔の私も、そうだった。
あの夏は、どこにも行かなかった。
私たちが、そこを通り過ぎてきただけだ。
変わってしまったのは、
いつだって私たちのほうだった。
……そういえば。
一つだけ、書き忘れていたことがある。
これは、誰かへ宛てた手紙じゃない。
恋人でも。
家族でも。
子どもでもない。
何十年も先を生きている――私自身へ。
あの頃のことを、全部覚えていなくてもいい。
友達の顔も。
帰り道も。
スイカの種を飛ばし合った回数も。
いつか思い出せなくなる日が来るだろう。
それでも。
夏が来るたびに、
理由もなく少しだけ胸が温かくなるのなら。
きっと、あの夏は、
ちゃんと、その胸の中に残っている。
あんなに好きだった夏。
だから――
その頃にも。
まだ夏を好きでいてくれ。
――完――
――◇―― ――◇―― ――◇――
お読みいただき、ありがとうございました。




