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n回目の青い春  作者: 結城 からく


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第11話 覚悟の夜

 隼人は叫びながら上体を起こす。

 そこは彼の自室だった。

 時計は深夜一時を指している。

 日付は四月十一日だった。


 叫びを聞いた隼人の母が階段を上がってくる。

 母は扉の前から声をかけた。


「隼人、大丈夫?」


「母さんっ」


 扉を開けた隼人は、母を見た途端に泣き崩れる。

 母は屈み込んで隼人の背中を撫でる。


「どうしたの?」


「うっ……あー、ごめん……悪い夢を、見て……」


 隼人は床に額を当てたまま震えていた。

 母は辛そうな顔をした後、落ち着いた声で告げる。


「ねえ、隼人」


「……何?」


「お母さんに隠し事してるでしょ」


「…………」


 隼人は床を見つめたまま黙り込む。

 ループの日々や殺された記憶がぶり返すも、それを明かすことはなかった。

 沈黙から何かを察したのか、母は苦笑する。


「言いたくないというより、言えないって感じかしらね」


「……ごめん」


「謝らないで。別に誰だって秘密の一つや二つはあるものよ」


 隼人は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。

 母は優しく微笑んで言った。


「学校休みたくなったら遠慮なく言ってね。お母さんが連絡しておくから」


「うん……ありがとう」


 母は頷いてから静かに階段を下りていく。

 袖で涙を拭いた隼人は、ゆっくりと呼吸をして部屋に戻る。


(また殺された。あいつ……吉良だっけ。日本刀を持ってた。ずっとループして人を殺してるんだ)


 隼人は扉を背にして佇む。

 冷静になるほど涙が溢れて視界が歪んでいく。

 膨らみ続ける恐怖に、彼は歯を食い縛って唸った。


(どうしよう。また来るかも。家を特定された、くそ。死にたくない。嫌だ……)


 母の生首や斬首の感覚がフラッシュバックする。

 隼人は髪をぐしゃぐしゃに掻き毟り、限界まで息を吐き出して呼吸を止めた。

 きりきりと胸が張り詰めて、また低い唸り声を洩らす。


 無言で葛藤すること暫し。

 涙で赤くなった目で、隼人は窓を睨む。

 カーテンの隙間から覗く月明かりは、涼やかで美しかった。


 髪を掻き上げた隼人は、パジャマを脱ぎ捨てて制服姿になる。

 彼の心に巣食う恐怖が別の感情に上塗りされていく。

 それは、不条理に対する激烈な怒りだった。


(なんで僕が……母さんがこんな目に遭ってるんだ。おかしいじゃないか。平穏に暮らしたいだけなのに……ッ!)


 隼人の怒りのボルテージが上がる。

 十年分のループの中で、隼人が最も激昂した瞬間であった。


「何もしなければ殺され続ける……死にたくなかったら、動くしかないんだ……」


 覚悟を決めた隼人は階段を下りる

 家の中で必要なものをリュックサックに詰め込んでスニーカーを履いた。


「――いってきます」


 一度だけ振り返った後、隼人は家を出た。

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