第12話 人斬り
午前七時半。
吉良太一は中島家のインターホンを押した。
少し待つと、玄関から隼人の母が姿を見せる。
「えっと、あなたは……」
「はじめまして。隼人君のクラスメートの吉良です。隼人君と一緒に登校する約束をしていたのですが」
吉良は平然と嘘の用件を告げる。
母は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんない。隼人は今いないの。深夜に出かけたみたいで……」
「行き先に心当たりはありますか」
「それがさっぱり。この半年はまったく出かけていなかったし……」
隼人の母は不安に満ちた顔になる。
吉良は笑い出したい気持ちを抑え、真剣な顔で応じた。
「わかりました。学校で隼人君を探してみますね」
「ありがとうね、吉良君」
「いえいえ。では失礼します」
吉良は一礼してから踵を返す。
その途端、作り笑いを消して真顔になった。
彼は住宅街を進みながら唇を噛む。
(逃げたか。斬首のショックで寝込んでいると思ったが……)
吉良は背中の竹刀袋の重みを意識する。
その中には、実家の日本刀が入っていた。
己の内で燻ぶる衝動に気付き、吉良は舌なめずりをする。
(久々の新しい獲物だ。絶対に逃さない)
吉良太一はループに巻き込まれた人間の一人だった。
およそ十年間、彼は四月十一日に留まり、ひたすら人間を斬り殺している。
いくら殺しても、いくら死んでも一日ごとにリセットされる世界は、歪んだ欲望を持つ吉良にとってまさに理想郷であった。
(他の連中は翌日に進んだが、僕は違う。ここで永遠に人を斬ることだけが望みだ)
吉良は己の衝動を肯定し、その解消にどこまでも前向きだった。
ループの原因や解決方法など端から興味がなく、むしろ現状維持を強く望んでいる。
(目標達成で明日に逃げるつもりなら、校長に会いたいはずだ。学校を探せば見つかる可能性が高い)
十年分の経験により、吉良は四月十一日の校長の行動を把握していた。
所用で県外に出向いている校長は、午後の昼食時に出勤してくる。
つまり最速で目標をこなすには、昼まで学校で待機する必要があった。
(深夜に動き出したって意味がないのにね。慌てていたのかな)
吉良の歩みに迷いはない。
獲物を追い詰める期待感に彼は酔い痴れていた。
「何百回でも斬ってあげるよ、中島隼人」
不敵な笑みを湛えて、吉良は学校に向かう。




