手出しできぬ現状
戦場は、一日経とうとしている。
その様子は開戦時と比べ、かなり悪化していた。
倒しても倒しても、無尽蔵のように前進する大量の魔獣。
進軍を阻む落雷も、奈落のように深いクレーターも、魔神側は数に物を言わせて徐々に前線を押し上げる。
もちろん討伐隊も必死に食い止めようとするが、いかんせん数が違いすぎる。
更に量だけではなく、質の面でも上級の魔獣が現れ、討伐隊を追い詰めていた。
丸一日近く魔獣の相手をすることと、度重なる大小様々な傷による体力消耗。
常に苦戦を強いられ、劣勢下の精神疲労。
数名の人外を除き、メンバーの多くが人間ということを鑑みれば、ここまで持ちこたえたこと自体が上々の出来だと言えよう。
が、神代の過酷さを現すかのように、力なき者から容赦なく脱落していく。
一名、また一名が荒い呼吸を繰り返し、膝をつく。
これ以上動けない者は増え続け、絶望感に蝕まれる。
――ヤバくね? 戦況を見て、私は思った。
でも、どうこうできる力、ないんだ。私。
同時刻。
復活を試みる魔神の焦りも、最大に達していた。
配下の軍勢は未だに突破できずにいる。
敵のドイツもコイツも、自分が復活すれば、取るに足りない存在なのに――。
何より、手出しできぬ現状が歯がゆい。
魔獣を出し続けなければ、敵は我が貯めた力を削り、再び我を封印するだろう。
だが魔獣を出せば、配下の維持に力が必要になり、少量ではあるがそっちに吸われる。
故に、選択肢がない。
この膠着状態を打破するには――
魔神は、遠くにいる――みんなの後ろに隠れて何もしてない人間の女に目を向けた。
『ソイツを使おう』