(マンドラゴラ?)
「――何だ、コイツラは!?」
盗賊団の口封じと証拠隠滅を終えた暗殺者達は驚きの声を上げる。
目の前に突如として姿を現したその不可思議な生き物の群れは、いつの間にか自分達を取り囲んでいる。
「リーダー、これってエドルの奴が言ってた、あれか?」
「……ああ、間違いねえようだ」
部下の問いに、リーダーの男がうなずく。
エドルから聞き出した次の標的を抹殺すべく、魔境に侵入した暗殺者達。
だが標的のエリスミーラ神殿の聖女、リヴィエがいると思われる村へ近づこうとした途端、あちこちの茂みから大量の何かが飛び出し、行く手を阻む。
外見は、極めて大根に似ている。
しかし、似ても似つかない。
まず目を引いた最大の特徴は、やはり胴体の部分にある人間の両目と口を彷彿とさせる――ぽっかりと空いた空洞。
その中に眼球があるわけでもなく、牙や舌があるわけでもなく、両方ともただの空洞。
だが――――
「……見えるな」
両者が出会って三秒にも満たない短い時間、暗殺者のリーダーは確信した。
自分達の体の僅かな動きでも確実に反応し、目の部分で追ってくる。
そこに、視線を感じる。
百戦錬磨の暗殺者達は即座に本能的にわかる。
実力者故に、わかる。
自分達が日常生活の中で、何気ない体の重心移動、筋肉の動作の前兆、そういう仕草は、自身の実力を隠すためのカモフラージュ。
それを――コイツラは見破り、そこから危険の匂いを感じ取り、対応してくる。
お互い、相当の実力者ということだ。
「……エドルの奴、嘘本当についてなかったんか? 聞いてたのとは随分違うような……」
部下の一人がポツリとこぼす。
その反応も、無理はない。
なぜなら――単なる植物の魔獣とエドルから聞いていたが、眼前の実物は翼を生やしていた個体もいれば、体に蔦を纏い、腕からシュルシュルとうごめく鞭を振るっている個体も――様々な個体がいる。
「……愚痴ってもしゃーねえ。カラクリはわからんが、魔獣を従えてる話は本当だ――ライズ、真実の加護を」
リーダーは指示を出す。
部下の気持ちはわかる、が――今はコイツラを片付けるほうが優先だ。
まずは敵の正体を探る。
部下のライズは真実の神リラシアの御加護を授かっていた。彼の加護の前で、知りたいあらゆる情報は暴かれる。
その指示を聞いた部下のライズが軽くうなずき、ニィっと笑う。
「待ってたぜ。――――真実の神リラシアよぉ、すべてを暴け! さぁ、俺に見せやがれッ……!……ヘ?」
加護を発動した――はずのライズが、なぜか素っ頓狂の声を漏らした。
あまりに奇妙な反応に、リーダーは一抹の不安を覚えながらも、努めて冷静に尋ねる。
「どうしたライズ? 何が見えた?」
「……なんだよこれっ」
「ライズ?」
「こんなの、見たことねえよ…………なんだよ、はてなマークって。(マンドラゴラ?)ってなんなんだよぉおぉおお!?」
冷静さを失い、取り乱し、叫ぶライズ。
その取り乱したライズの様子を見て、冷静だった部下達はざわつき始めている。
「落ち着け! 何が見えたんだ!?」
これ以上動揺が広がらないように、リーダーはライズの肩を掴み、強引に落ち着かせようと試みる。
「……わからねえッ。種族のとこに、はてなマークついてるの初めて見た」
「はてな……マーク?」
リーダーは思い出す。
ライズが自身の加護について、説明した事がある。
色んな形で授かる真実の神リラシアの加護。
中でも、自分が授かっているのは特殊で強力なヤツ、だとライズは得意げに言った。
加護を発動した対象の知りたい情報が文字として浮かび上がると、ライズからそう説明された。
同時に、真実の神の前で隠し事はできないとも聞いていた。
つまり、偽ることは不可能。
彼曰く、一時的に真実の神リラシアの”目”を借りることができる。
対象の本名、家族構成、経歴、資産額、ありとあらゆる情報が見える。
彼は、そう断言した。
これまで一緒に多くの仕事をこなしてきた彼が、初めて”わからない”と言った。
それがどれほど驚愕なことか――本人の取り乱した姿から簡単に想像できる。
「落ち着け、見えた情報を言え」
「あ、あぁ。種族……(マンドラゴラ?)。……クソ、はてなってなんなんだよふざけやがって。……隷属は(リティ)……? 誰?」
リティ? とリーダーは首をかしげる。
ライズが読み上げる情報の中に、知らない名前が出た。
コイツラを従えているのは、リヴィエとか言う女じゃないのか?
「……ん? 何だこれは? 創造神……(リヴィエ・ソイアル)……だって?」
その情報を読み上げた瞬間、ライズの表情最高に困惑した。