「決めた。私達は――」
獣人の王子フェロアと彼の部下達が待っている場所に着くと、リティに呼ばれてやってきたみんなはそれぞれの反応で私を出迎える。
「リヴィエお姉ちゃん?」
「呼んだの?」
毎日の農作業を中断した獣人の幼子、ウマとエマは私に抱きついてきて、上目遣いに尋ねる。
「……ジェシカに任せて大丈夫か?」
ライシェの監視役をジェシカ姉さんに任せたことについて、不安そうに口を開くグラシスさん。
「……」
ついでに、とリティにそう言われたルナディムードは、不機嫌そうに腕を組んで黙って見ていた。
「ま、大丈夫でしょう」
ウマとエマの頭を撫でながら、グラシスさんに答える。
どうやらライシェにはまだバレていないようだ、少し安心した。
察してくれたグラシスさんと同様、外部の者がいるこの状況下、普段あちこちに放し飼い――コホン、自由にさせているマンドラゴラ達は、来訪者に見つからないように隠れてなさいと女王のリティに予め指示されていた。
最悪、見つかっても動かなければただの植物にしか見えないんだから、余裕でごまかせる――と信じたい。
「リヴィエ殿、返事を――」
タイミングを見計らい、フェロアは返事を促すが、私は返事の代わりに、ウマとエマの背中を軽く押し出し、
「それは私に尋ねるのではなく、この子達に尋ねるべきです。殿下」
もっと尋ねるべき相手は、この子達と彼に告げる。
「どういうこと?」
「えーとね、こういうこと」
呼ばれて来たのはいいけど、具体内容は何一つ知らされていない二人は困惑の表情で私を見つめた。
だから、二人だけではなく、グラシスさんとルナディムードにもわかるように、かいつまんで説明する。
「うーん、難しいことはよくわからない。けど――」
エマは口を開いた。
説明を聞き終わってもまだ理解できてない表情のウマと違って、彼女は少し考えた後に、
「リヴィエお姉ちゃんと離れるのは、嫌。って…………だめ……かな?」
そう言った。
離れたくない意思表示なのか、私に抱きついたエマの手の力は、少し強くなった。同時に、ウマも本能的に何かを感じ取り、私の服をギュッと握りしめる。
エマは嫌と言った。反応からしておそらくウマも同意見だろう。
私としては、別にだめというわけではない。
だけれど――――。
私一人で決めていいことではない。
目でちらっとフェロアの様子をうかがうと、二人の答えは予想外だったのか、少し眉をひそめていた。
この子達は、獣人。
私は、人間。
私といて、いつの日か後悔をするかもしれない。――あの時ああしなきゃ良かった、と。
――同族といたほうが良かった、と。
更に、私は訳あり。
この子達が何もしなくても、とばっちりを受ける可能性がある。
この子達に、後悔してほしくないんだ、私は。
こういうの苦手だよなー、とグラシスさんは頭をポリポリとかきながらため息を漏らしていた。
ルナディムードとリティは無言で成り行きを見守っている。
場はなんとも言えない空気が漂い始め、しばらく沈黙に支配され、誰もが黙り込んでしまった。
「……名前……確かウマとエマ……だったな」
沈黙を破ったのは、獣人王子フェロアの声。
その声に、ウマとエマはビクッと小さく体を震わせて反応する。
「教えてくれぬか? なぜ、リヴィエ殿と離れたくない理由」
私に抱きつくというより、もはやしがみつく状態の二人は、遠路はるばるやってきた見知らぬ獣人に、たどたどしくも、ポツリポツリと言葉を探しながら、話し始める。
それを聞き終えたフェロアは――。
「なるほど。そなたらの理由は十分理解できた。両親をなくし、つらい日々を。――その上あえて言おう。我々と一緒に来てはくれぬか?」
ウマとエマにうなずきを見せた後に、再び二人を見据えた若い獣人王子。
「知っての通り、我々は獣人。人間から亜人と呼ばれ、迫害を受けている。人間の中で生きていくには、そなたらは幼すぎる」
そこで、フェロアは視線を二人から私に移してから、また二人に戻し――
「リヴィエ殿は味方と言うことは信じている。だが人間はすべて味方ではない。今一度、考え直してはくれぬか」
そう、幼い二人に語りかけた。
フェロアの言葉を懸命に理解しようとし、二人は考える。
やがて、長い沈黙の後に、ウマとエマはゆっくりと、恐る恐る口を開き、
「決めた。私達は――」