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とばっちり




「……そのアルラウネクイーンというのは?」


 とりあえず、私は聞き慣れないワードに疑問を述べた。


「……これも話すと長くなるんだけどなあ……」

「話さなくていいんです! だって私はアルラウネクイーンではなく、創造主様によって生を受けた新しい命ですから」


 ルナディムードはポリポリと頭をかくが、痴女は憤慨した様子で彼を制止し、うっとりとした眼差しで私を見た。


「……お前、まさかコイツが何者か、どういう存在か……知らないのか?」


 私の困惑した表情を見て察したのか、ルナディムードは口を開き、尋ねる。


 正直にうなずく。

 だって隠しても意味がないから。


 その様子を――古代龍のルナディムードは興味深そうに眺めた後、納得顔でうなずいている。


「なるほどな――全く、とんだヤツに負けたな……だが納得だ、バルティア相手ではな――クックック」


 何故か一人で愉快に笑い出した。

 そんな中、私は頭が真っ白になり、立ち尽くしていた。


 ――バルティア、相手。……バルティア?


 その言葉に、全身が雷に貫かれたかのように、固まる。

 衝撃の数秒後に、言葉はようやく絞り出せた。


「……どう……して、それを……っ」

「クックック……あん? 何をそんなに驚いている? 植物の加護――それも世界樹まで操れる強力なヤツと言ったら、バルティアしかいないだろう」

「それは……そう、ですが……」


 自分の声が弱々しい。

 人間より賢い古代龍相手なら仕方がない、と内心ではわかっていても、想像以上に加護を知られてしまったダメージが大きい。


「黒龍、創造主様を愚弄することには許しません。謝りなさい」

「この糞女が勝手に驚いているだけだ。俺的には褒めてるつもりだがな……」


 二人の口論も耳に入らない。どこか遠い出来事のように感じる。


 そんな時間が、どれくらい続いたのだろう。


 心が落ち着きを取り戻せた頃――二人はまだ口喧嘩をしていた。


「ルナディムード、私の質問に答えてもらいます。――誓約をわかるように説明しなさい」


 私は、彼を見据えて言った。


 うん、大丈夫。落ち着いた。

 神殿の者に見つかったら処刑される異端の加護を持つ私は、本をたくさん読むことで知識を得た。

 禁忌と言われるような本を闇市でこっそり買い、読んだ。おかげでバレる前に逃げ出せた。

 神殿の本の知識がなければ、ポーションを作ることもできず、ウマとエマを助けることもできなかった。

 グラシスさんの知らせがなければ、盗賊の背後に貴族がいることに気づけず、見過ごしていたのだろう。

 ウマとエマが生きていなければ、古代龍と世界樹について知ることもなく、対策を立てなかった。


 半分は子供の頃からの習性だけど、今の私は情報の重要性を知っている。

 驚くのは、知ってからだ。


 先は明らかに動揺し、驚いていたが今はすっかり落ち着いている。

 そんな見据える私を――


「……ふーん、」


 ルナディムードはわずかに目を細め、私を見つめた後――


「……面白ぇじゃん?」


 獰猛な笑みを見せる。

 そして驚くほど、素直に答えてくれた。


「わかるように、と言ってもそもそもそんな難しくはねぇんだがな。誓約は古代龍の中で当たり前の常識。先も言ったが契約書みたいなもんさ。何かを行う時に使う。――俺とお前の場合は、決闘だな」

「……決闘?」


 気になる言葉があったので、尋ねる。


「ああ、決闘。俺はお前に勝負を挑んだ」

「……私は一方的に勝負を挑まれて……」


 そして生き延びることを考え、全力を出し尽くした末に勝利、

 ――その後――続きを、言葉として口に出す。


「――あなたが私の下僕?」

「そうだ。頭が悪いってわけじゃねぇなあ。知識がないだけか」


 ルナディムードはウンウンとうなずく。下僕なのに失礼な奴だな。


「主従の経緯はわかった。でもその誓約がわからない。説明して」

「……魔法で編まれた……そうだな……呪いみたいなもんさ。お前が死ぬまで有効さ」

「私はそんなものに承諾したことも、サインした覚えもないわ」

「ああ、ないな。俺が一方的に仕掛けた」


 ……つまり何だ? 知らないうちに一方的に誓約を仕掛けられ、生き延びたら欲しくもない下僕ゲット? 迷惑すぎる。


「……どうしてそんなモノを仕掛けた?」

「古代龍にとって儀式みたいなもんさ。俺の場合は、強敵と戦う時は賭けておく」

「――強敵? 私が?」


 こいつの目は節穴? 人間の、しかも二級聖女に強敵はないわ。


「まあ気にすんな、敵と戦う時の習慣さ」

「迷惑すぎる習慣ですね。それにどうして私を襲った?」

「戦いたいから」

「……通り魔ですか」


 私、不幸過ぎません?

 世界一、二位の神殿に狙われ、同僚のヤバい奴らに狙われ、はては古代龍に勝負を挑まれる。


「言っておくが別に無差別に勝負を挑むわけじゃねぇんだぞ。お前が相手としてふさわしいから戦った」

「あー、そうですか、良かった。なおさらタチ悪いわッ!」


 んなわけあるかっ。相手としてふさわしい? んなわけあるかっ!


「興味あったんだ。ここ――魔境――に長く生き延び、村まで作っちゃった相手が一体どんなヤツなんだって」

「…………あ」


 瞬間、脳裏には無数のピースが一瞬でよぎり、一枚のパズルが完成していく。

 体が僅かにワナワナと震え、それを抑えながら尋ねる。


「まさか……ずっと上空で見ていたのも……」

「ああ、興味持っちゃった。どんなヤツかって」

「私を見つけ、ブレス放ってきたのも……」

「ああ。珍妙な植物の魔獣を多数従えてるな、こいつで間違いないって」

「……」


 ……なんてことだ。




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