デタラメな攻撃
「危なかったわ……」
まさに危機一髪だった。
私はガーディアンの体にしがみつきながら、先まで立っていた場所を見つめる。
そこには――でかいクレーターができていた。
つい数秒前まで生い茂っていた緑が一瞬でなくなり、ジュージューと溶解している音が聞こえてくる。
中に貯まっている大量の強酸が今にも底を侵食し続け、その深さを広げている。
それだけにとどまらず、周囲に飛び散った強酸は、まるで自らのテリトリーを広げるかのように周辺の物体を溶かし始める。
(あの距離からブレスは届かないと考えていたが、やはりそううまくはいかないか)
事前にいくつかの可能性を想定していたおかげで、初撃はなんとか回避できた。……後一秒遅れていたら、骨も残らず溶かされたんだろうな。
この一週間、色々準備しといて功を奏した。
直撃の寸前、周囲に待機していたガーディアンゴラが私に縄代わりの蔓を巻きつけ、全力で引っ張って移動させた。
だって普通に考えて、いくら私の足が早くても、ブレスの範囲から逃げられるわけがない。
ワイバーンの件を経験した私は、万が一の場合を考えて、対古代竜にも備えたほうがいいという結論を出した。
具体的には、戦力になりそうなガーディアンタイプのマンドラゴラを十匹まで量産した。
一体一体がトロール並みの力を持っており、マンドラゴラ精神ネットワークによる連携で大抵のことは対応可能、そして普段の警備も兼ねて盆地のあちこちに配置している。
他にも死角をなくすように、最初の子達の何匹かを砕いてから加護で再生し、総数二百匹以上まで増やした。
あらゆる角度、色んなとこから敵の姿を捉え、監視する二百匹のマンドラゴラからは逃れられない。
精神ネットワークという特性上、瞬時に情報は共有され、マンドラゴラの演算能力によって最善の行動が導き出される。
さあ、これできっと大丈夫――なんてことはなかった。
(何よ、あの攻撃。ふざけてるとしか思えない)
射程、威力、速度。
その全てが私の想定を上回っている。
幸い最悪の状況を想定し、回避だけは全部振りした。……それでもギリギリだった。
(神殿時代にバケモンを間近で見たおかげで、なんとか初撃は躱せた。……アイツ基準で良かった)
もっとも、マンドラゴラの演算能力と修正能力がどんなに高くても、見たことない攻撃は躱しようがない。
私はガーディアンゴラの背中に乗りながら、ブレスを放ってから上空に飛び上がり、また旋回をし始める古代龍を睨みつける。
――襲って、こない。相変わらず私を見つめている気がするが、なぜか追撃してこない。
「……ん? 何? 先のブレスの分析が完了した?……『威力と範囲、射程から算出した結果、最大射程は五キロにも及ぶ』……冗談、だよね?」
マンドラゴラの分析を聞いて、苦笑を浮かべる。
冗談であってほしい。
つまり何か? 私が五キロ先にいても、問答無用狙い撃ちされるってわけ?
「……まずいわね。どう思う? え? いくつかの仮説を立ててみた?……連発できない? それ、私もそう思ってるとこよ」
違いがあるとすれば、私のは願望、この子達のは分析。
あんなデタラメ攻撃、連発できてたまるか。
恨みを込めた視線で見上げると――
「しかし、本当に襲って来ない……ん?……気の所為かな? アイツ、でかくなってない?……え? ポイントR1マンドラゴラより、ターゲットがポイントR3、R10を通過?……まもなくR19?要は、すごいスピードで迫ってきているってことねッ! 走りなさい!」
考える暇はない。
ガーディアンゴラを叩き、走らせる。
ズドン。
三メートル以上の巨体が、外見からはとても想像できない俊敏さで――飛んだ。
――景色が後ろへ後ろへと流れていく。
私を抱えながら、ガーディアンゴラはジャングルの中を疾走する。
髪が風に引っ張られて、乱れる。
その隙間から、背後をちらっと見る。
(――近っ)
まだ十分距離あるはずなのに、奴からのプレッシャーをひしひしと感じる。
翼を広げた黒龍は、世界樹の枝の間を縫うようにすり抜け、着実に距離を縮めている。
琥珀色の目は獲物――私を逃さんと捉え続けている
このままでは追いつかれる――。
その時。
肩に捕まっているマンドラゴラが慌てて私を叩いた。
それが合図。
ブレスが、来る。
「―――避け、」