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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
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「転勤するみたいね」

自分のデスクに戻るとキャシーが声をかけてくる。わたしは声を発さず、頷いた。

「寂しくなるわ」

言葉と裏腹の笑顔にわたしは何も言わない。

彼女に悪気があるわけではなく、単に興味が薄いだけのことだというのはよく分かっている。

「コロニー2145」

「本当!?」

「ええ。本当よ。最っ悪」

「そうかしら?ほら、あそこにはおいしいパンがあるって聞いたことあるわよ」

「おいしいパン?」

「何でも有名なパン屋があるって」

「…へえ」

そこでわたしはようやく転勤先となるコロニー2145への興味が微かにも萌芽した。しかし体は未だ無気力状態が続いており、だらしなく座り込んでいた。

「選別」

言葉とともにわたしのデスクに置かれるコーラ。

見上げると傍にミラが立っており、相変わらず華奢な体で見下ろすようにわたしを見ながらも無表情。次に肩ほどまである金髪を微かに揺らして去っていく。

あまり話をしたことのない同僚だけれど、彼女が良い人であるのは知っている。

‥多分。

「で、どうするの?」

キャシーがにやけ顔で訊いてくる?

「どうするって、何が?」

「どうもこうもないわよ。彼氏はどうするかって訊いてるの?」

「彼氏?」

「ええ。あんたが付き合ってる男は、ここに居るんでしょ?どうするのよ」

「ああ、それなら…」

ため息ひとつ。どうでもいいことなので。

「もう別れたわよ」

「そうなの!」

ゴシップ好きよろしく、一目して「驚いた!」といった表情を見せるキャシー。

「だから未練はないわよ」

はっきりとわたしは言う。嘘だ。

「そうだったの。でも仲良かったのにねえ」

「そうでもないわよ。実際、クソ野郎だったし」

「へえどんなところが?」

「それは…」

言いかけて口を噤んだ。別れたとはいえ、元彼氏の悪口をまくし立てる気にはならなかった。それは一種の自己否定にもつながるだろうから。

「夜の生活が原因?」

キャシーは歪な笑みを備えて訊いてくる。

「ええそうかもね」

適当な返事。

「やっぱりね!そうだと思った。だって…」

彼女の言葉にもはや耳を貸さず。

わたしは荷物のまとめに取り掛かる。

まず最初に荷物として詰め込んだのは、わたしのため息だろうけど。



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