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98 ビスロットの研究所

 

 東の大陸を移動し、見覚えのある馬車道に出てきた。

「もう少しだね。この先で馬車道から外れてしばらく進むと目的地だよ」

 案内役のマクレイがマチルダに説明している。

「やっとね。でも、あなた達と別れるのは名残惜しいわね」

 マチルダが微笑んでいる。確かに短くない時間を共に過ごしているな。

 数日を賑やかに過ごし、たまに出る魔物を撃退しつつ先へ進む。

 やがて研究所の独特のシルエットが草原の中に見えてきた。



 皆で研究所の前に(たたず)む。なぜか俺が注目されている。…わかりましたよ。

 研究所の扉にあるノッカーを数回叩くと、中から物音が聞こえてきた。

「こんにちは! ビスロットさん! ナオヤです。前にフィアがお世話になった」

 するとドアが勢いよく開き、ビスロットが現れ、

「おお! 久しぶりじゃな! 元気にしてたかな? フィアさんの調子はどうだ? さ! 中に入った! 入った!」

 一方的に話され中へ案内された。あまり変わってないようで少し安心した。


 見慣れた居間へ通されるとマチルダがビスロットに声をかけた。

「お久しぶりです。教授!」

「おお! なんと! マチルダ君か! しかし君は帝都にいたのではないかね?」

 驚いたビスロットが声を上げた。

「詳しくはこれからお話します。とりあえず落ち着きませんか」

 そうマチルダが着席を勧め、全員が座ったところで経緯をビスロットに説明した。


「はー、なるほどなぁ。あのコベントとブエールが…。まあでも、君が無事でよかった!」

 話しを聞いたビスロットが感想を述べるとちょうど研究所の魔導人形が人数分のお茶を運んできた。前より賢くなったような気がする。

「それで、ビスロットさんの研究所に彼女を住まわせて欲しいと思いまして、俺が提案しました」

 続けて俺が説明するとビスロットは嬉しそうに(うなず)いた。

「なるほど、逆に願ってもない! マチルダ君は優秀だからぜひお願いしたいよ」

「ありがとうございます! 私も研究に参加させてくれて。教授!」

 マチルダがお礼を言うと、照れたビスロットが

「もう教授ではないから普通に呼んでもらってかまわんよ」

 そう言って笑った。俺も一安心だ。これで完全に肩の荷が下りた感じがする。


 その日は泊まる事になり、フィアとマクレイ、モルティットが台所に立って料理を作り、賑やかな夕食をしながら旅の話しを聞かせた。ビスロットは俺達と別れた後もこの研究所で魔導人形の性能を向上すべく研究している様だった。

 夜になり、寝室に行くと見覚えのあるバルコニーを見て思わず出てみる。

 そこにはマクレイとモルティットが手すりにもたれかかって雲の無い美しい月を見ていた。


「あら? ナオも来たのね。ふふっ、思い出の場所かな?」

 モルティットが言ってきた。マクレイは黙っている。

「ああ、ここの景色は素晴らしいよね? マクレイ?」

「え? あああ、そ、そうだね!」

 突然振られて慌てたマクレイが返答した。モルティットが(いぶか)()な顔でマクレイを見ている。このエルフは(するど)いからなぁ。

「ま、聞かないよ。でも、乗り物嫌いなマクレイディアがガマンできるのはナオのお陰ね!」

「はぁ!? ちちち、違うよ! な、なんでこんな時に! アタシは寝るよ!」

 ニヤリとしてモルティットが言うと、真っ赤になったマクレイが寝室に逃げていった…。


 それを見送って髪をかき上げると、したり顔でモルティットがこちらに向いた。何が始まるの?

「さて、と。邪魔者もいなくなったし…。この間、マチルダに相談してたでしょ?」

「え? は? ええええっと……」

 ヤバイ、予想外の質問だ。どうしよう!

「ふふっ。言わなくてもわかるよ、私の事でしょ? 何て言われたの?」

「……」

 い、言いたくない……。が、怖い笑顔で俺の言葉を待っている。この沈黙が恐ろしい…。

「こ…応えなさいって。い、言われたよ……」

 がんばって言葉を絞り出すと、めちゃイイ笑顔で引っついてきた。

「あら!? そうなんだ! じゃ、応えて!」

「だから、今は無理ってば!」

 引き離そうとするが目一杯抵抗している。今日はいつも以上だ。モルティットは何故か挑むような目つきで口を開いた。

「……知ってる? 私がなんで“氷の魔法使い”って呼ばれるのか」

「あ、あれか? 氷の魔法を使うから?」

「ふふっ。それもあるけど違うんだ。ホントは氷の様なエルフだからだよ」

「いや、全然わからん!」

 そんな見つめられて言われてもわからん! 何かを言おうとしたモルティットを(さえぎ)り声を出す。


「あーもう! モルティットの過去なんか知らないし、知っても何とも思わないよ! 今は大切な仲間だ! それで十分! わかった?」

「はい!」

 面食らったモルティットが素直に返事した。ビックリしたみたいで目を見開いている。

 が、今度は満面の笑みで抱きついてきた。ダメだって!

「ふふっ。だからだよナオ……」

 何か(つぶや)いてきつく抱きしめてきた。痛いって! 何か喜ばすこと言った?

 すると突然、マクレイが無言で戻って来てモルティットを引きはがすと、そのまま連れて部屋へ消えていった…。

「……え?」

 一人、唖然と(たたず)む。マクレイは聞いていたのか? 分からん…。

 自分の部屋に戻ると興奮したクルールがチュッチュしてきた。なぜ?


 翌日、朝食後に出発することになった。

 マチルダがひとり一人を抱きしめてきた。だめだ…泣きそう。俺の番になり抱きしめてきて耳元で(ささや)いた。

「昨夜は聞こえてたよ。なかなかやるわね」

「は?」

 感動が消し飛んで唖然とする。なぜ高評価? マチルダはすでにフィアを抱きしめていた。

 それからビスロットにもお礼を言って出発した。二人はいつまでも手を振ってくれていた。ありがとう!



 馬車道を北へ歩いて行く。

 モルティットは朝から機嫌がいいようだ。マクレイを見ると(にら)んできた…。こちらは機嫌が悪い。

 そっとマクレイの手を握ったらきつく握り返された。肩にいるクルールはにこやかにハミングをしていた。


 幾日か歩いていくと道の両側に腰の高さほどの外灯が見えてきた。

「やっと地底都市だね。ここで休むかい?」

「もちろん!」

 マクレイの問に速攻答えた。美人さんは苦笑いしている。

 巨大なサイコロのような岩が見え、巨大な門が開け放たれている。中に入ろうと門番に手を上げて挨拶すると、

「おう! おまえらか! 覚えてるよ! ようこそ!」

 笑顔で声をかけてきた。皆で手を振ると、ぎこちなく振り返してくれた。


 やがて地底都市の繁華街へ着いた。何回来ても不思議な感じのする空間だ。薄暗い中、大小様々な街灯が辺りを照らす。時間もあるので食堂で一休みすることになった。

 丁度、近くにあった店へ入り飲み物を注文する。

「ところで、どの辺まで戻る予定なの?」

 ニコニコしているモルティットが聞いてきた。最近は機嫌がいいので過ごしやすい。

「感覚としては帝都より北かな?」

「ま、まさか船とか使うんじゃないだろうね?」

 答えると、マクレイが恐る恐る聞いてきた。

「ハハハ。わからないけど、夢で見たのは雪山だった、よ……」

 言ってから気がついた。また山登りじゃん! グッタリしてきた…。

「そう! なら良かった! ほら、頑張りなよ!」

 いきなり元気になったマクレイが頭をくしゃくしゃしてきた。調子いいなぁ。

 それから雑談をして宿屋を探しに店を出た。


「おおっ! 知ってるぞ! そのゴーレムを!」

 俺達の後ろから声が聞こえる。ああ、知りすぎている人だわ、これ。

「なんか嫌な予感がするよ…」

 マクレイが(つぶや)き、モルティットが頭を傾けている。

 振り返ると探検者のボランが笑いながら手を上げ近づいてきているところだった。




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