85 アムロイの町
村長の寝室から居間へ移動し、とりあえずここを拠点として使わせてもらうことにした。
ウエイドは村長が書いた紹介状を持っていたので預かり、俺達が分担して行くことを話し合って決める。
「すまないけど、モルティットは村に残って倒れた村人を診て欲しい。フィアはモルティットを手伝って。外のロックは村の護衛になってもらって、俺とマクレイで町へ行くよ。あと、クルールは…」
と、クルールを見るとフルフル首を振って涙目で見ている。ああ、もう。しょうがいない。
「クルールも一緒に町に行こう」
そう言うと嬉しそうに頷いている。
「ま、しょうがないね。しっかり診とくね」
「ワタシも頑張りマす」
モルティットはため息をつきながら、フィアは両手に拳を作ってそれぞれ述べた。
「まあ、順当な感じだね」
マクレイのお墨付きが出ました。
「ウエイドはモルティットを手伝ってくれ。あと、動ける村人もモルティットの指示に従って欲しいけどいいかな?」
「ああ、分かった。ありがとう! 行きずりなのにこんなに親切にしてもらって」
ウエイドは頭を下げて感謝してきた。
「困ったらお互い様さ。ね!」
そう微笑むと、ウエイドはキョトンとしていたが笑って返してくれた。
病状が不明なので、準備が出来次第、出発する。
ロックには説明して村を守ってもらうようお願いした。よろしくね、ロック。
「さ、行くよ!」
マクレイから声がかかった。さあ、行きますか!
モルティットとフィア、ロックや獣人達に手を振って町へ向かって歩き出す。
町はアムロイと言ってこの村から一山越えた所にあるようだ。また、山か……。
村から離れて行くほど魔物が出るようになってきた。ソイルの警告とマクレイが撃退して先を急ぐ。クルールは俺の胸元で珍しい景色を見て楽しんでいた。
目指す山のふもと辺りで日が沈んできた。この辺りで野営かな。
「先にナオが寝てな。アタシが見張るよ」
マクレイが言ってきた。よく考えたら二人で旅するのは出会った頃以来だ。いや、待て! すでにロックがいたじゃないか。って事は初めて? なんかドキドキしてきた。あ、クルールがいたよ…。
「いや、二人で寝よう。ここはソイルにお願いして…」
そう言う間にソイルが俺の希望した通りの岩の家を作ってくれた。マクレイは唖然としている。
「どうかな?」
マクレイに聞くと気を取り直したのか呆れた態度になった。
「これじゃあ、町も作れそうだねぇ。つくづく凄いね、精霊主様は……」
関心しているようだ。さすがだねソイル。〈いいえ、たいした事ではありませんよ〉
とりあえず、岩の家の中に入り寝る準備をした。
「さ、ここにおいで」
「……」
俺の横をポンポンしたが、マクレイは黙って反対側に横になった。耳がピクピクしてるぞ。
近寄ろうとすると威嚇してきたので、悔しいがそのままクルールと寝た。
翌日は朝から山を登り、グッタリしながらなんとかマクレイについていって反対側に下りた所で夕方になった。
ソイルに再び岩の家を作成してもらい、中に入って、速攻寝転ぶ。
「あー、疲れた……。ごめん、足を引っ張ってるな、俺」
マクレイが横に腰を下ろし、俺の頭をくしゃくしゃした。
「あんまり焦んないで、ナオ。十分頑張ってるのは知ってるさ」
微笑んでる美人さんを見ていたら、体が勝手に反応していつのまにか抱きしめていた。
いつもは嫌がるのに、彼女もギュッとしてきた。心臓が高速でドキドキだ。相手の鼓動も早鐘のように感じる。
マクレイが耳元で囁いてきた。
「なんでアタシなんだい?」
「マクレイディアだから……他の誰でもない」
そう答えると、どちらともなく唇を重ねる…。情熱的で頭が真っ白になってきた。とてつもなく愛おしさが襲ってくる……。
そっと、マクレイを寝かせ顔を見ると、魅惑的な赤紫色の目が誘うように見つめてくる。が、突然、俺の顔に手を当ててきた。
「ダメ……」
「え!? なんで? すごく盛り上がってる所ですけど?」
真っ赤な顔をしたマクレイが囁いた。
「ク…」
「く?」
目線を横に移動して続きを言う。
「クルールが見てるよ……」
ハッとして横を見ると、食い入るようにクルールが両手を握って熱視線を送っている。
ああああああ! 忘れてたあああああ! すごく恥ずかしい!!
ガバッとマクレイから離れ、正座で後ろを向いた。違う意味で心臓が張り裂けそう。
「ご、ごごごゴメン! 気がつかなかった!」
「ああああアタシも同じだから、いいい、いいよ…」
ちらっと後ろを見ると、同じように背を向けているマクレイがいた。耳が湯気がでそうなくらい真っ赤だ。
それから、ぎこちなく軽く食事をして昨夜と同じくお互い離れて寝た。今回は二人の恥ずかしさが距離を広げていた……。
クルールは興奮してチュッチュしてきた。いろいろ思い出すから早く寝てください、妖精さん…。
翌朝、目が覚めるとマクレイは居なかった。外かな? 寝ているクルールにそっと毛布をかけて家から出る。
朝日がキラキラと木々を照らしている中、マクレイが佇んでいた。
「おはよー」
声をかけると振り向いた。日の光で全身が輝いているようだ。改めて美しさに息を飲んだ。現実かな?
「おはよう、ナオ!」
マクレイが返事をしながらこちらに来た。
「早いね! 俺は余り眠れなかったよ」
はっ! 言ってから気がついた。しまった、マクレイの顔が真っ赤だ。
スタスタ俺の前へ来るといきなり唇を奪われた。あれ? 怒られると思った。
「いいかい、昨日は何もなかった! わかった?」
「は!? 今のは?」
すると、はにかんで
「…口封じだよ」
なんだと! そんな可愛い口封じがあるのか! もうダメだ! 世の中どうでもいい!
「はぇあああああ!?」
無理やり押し倒すと、いつもの変な声が出た。
「マクレイ! 俺がってああああああ!」
投げ飛ばされた! 痛たああ! 腰打った!
「な、何してんだよ!」
マクレイがハアハアしながら怒っている。…なにが違うのか?
それから怒られながら準備して町へ向かって行った。
プリプリしてるマクレイの後について移動している。いつになったら機嫌が直るのか? 乙女心がわからん。
日が真上に近づく頃、町が見えてきた。
クルールはニコニコしている。嬉しい事でもあったのかな?
やがてアムロイの町の門まで来て、簡単な検問をされ中に入った。獣人の町らしく、どこに目を向けても獣人がいる。当たり前か。
逆に俺達が珍しいのか注目を浴びている。横にいたマクレイが小突いてきた。あ! 呆けている場合じゃなかった。
近くにいる獣人に医者の場所を聞き、お礼を言って先を急いだ。
「はあ? こんなもん読まされても俺じゃどうにもならんよ? まずは領主様に言わないと!」
そう言って、パンダ顔の獣人の医者がメンタット村の村長の手紙を突っ返してきた。
せっかく案内してもらった治療院に来たのにこの仕打ち。ヒドイ。
「……わかりました。すみませんお忙しい中。失礼します」
少し不貞腐れてスゴスゴと出て行った。その間、マクレイは無言だった。少しは助けて!
しょうがないので領主様の住居を通行中の獣人から聞き出し、その場所へ向かった。
領主様は町の中心部にある大きな邸宅に住んでいるようだ。マクレイと二人、大きな門に近づく。
そして、邸宅の門にいる衛兵へ声をかけ、領主様に会いたいと言付けてもらった。その際に、村長の手紙も届けてもらう。
しばらく待っていると、先ほど言付けをお願いした衛兵が戻ってきた。
「胡散臭いが、領主様はお会いになるそうだ。いいか? 絶対に変な事するなよ? 俺の生活が懸かってんだからな?」
「ああ、本当にありがとう! 助かったよ! 村に帰ったら絶対に言うよ“領主様の門番はとっても心が広くて優しい方”だとね!」
そう言うと門番は少し嬉しそうにしてる。もう、めちゃ持ち上げて良い気分にさせた。
隣にいたマクレイは苦笑いしていた。




