84 火の精霊主
地熱による水蒸気かわからないが、歩き続けると湯気の出る岩が多くなってきた。噴火とかないかな? 少しビビってきた。
やがて大岩のあるところまで来て近づいた。きっとここだな。
いつものようにロックが大岩に触れると人型の岩が出てくる。そして、その人型の肩に触れると一瞬で砂のように崩れ去っていく。
すると地下への入り口が開き、ロックを筆頭に全員で入って行く。
洞窟を進むと見慣れた円形の広場に丸い台座があった。
仲間を見渡してから、台座に上がると眩い光の環が現れ広場を照らす。光が収まるとそこには神話から出てきたような美しい女性が宙に浮いていた。
『お待ちしておりました“契約者”よ。私は火の精霊を束ねる精霊主…』
「お会いしたかったです。あなたに」
そう言うと、わかっていたかのように火の精霊主頷いて答える。
『あの子の最期を看取っていただいたようですね』
「いえ、俺が彼を滅ぼしました。なぜフレイマン達を生んだのですか?」
俺の問に苦悶の表情で火の精霊主は語った。
『……私にも若い頃がありました。あの子達には苦労をかけたと思います。あの子の最後の願いを叶えて頂いてありとうございます。“契約者”よ、私はその様子を見ていました』
「そうですか……」
見ていたのか…。それをわかってフレイマンは言ってきたのかな? 今ではわからないが。
火の精霊主は続けた。
『優しき“契約者”よ、さあ! 私の名を呼んで契約を!』
「“イグニス”お願いします!」
『ありがとう“契約者”よ』
手を差し出すとイグニスがしっかりとつかんできた。すると右腕に吸い込まれるように消えていく。
〈ああ、やっと会えましたね。皆さん〉〈良かった!〉〈……〉〈…〉もうあれだな、繁華街のざわめきぐらいに感じてきた。
台座から降り仲間達が寄ってくると、マクレイは何も言わず抱きしめてきた。は? 嬉しいけど?
モルティットとフィアも同様に抱きしめてきた。なんなの? ロックは静かに見守っている。クルールは嬉しそうだ。
「これって何? 何かあったっけ?」
マクレイの胸元で聞くと、突然離れた。耳が真っ赤だぞ、美人さん。
「ちょっとは落ち込んでるかと思ったんだよ!」
怒ってそう言うと、いつまでも抱きついているモルティットを引き剥がした。
「あんたも離れて!」
「あら? いい感じなのに…」
そうモルティットが呟く。いや、名残惜しそうにしないでください。
プンプンしているマクレイを先頭にフィアと手をつないで洞窟を出た。
それからはこの地獄谷みたいな所を抜け、涼しい山の中腹で一休みしてから麓まで降りて野営をした。
「今回は契約できて良かったね」
微笑んだモルティットが夕食時に言ってきた。
「ああ、ホッとしたよ」
返事をすると難しい顔をしてマクレイが続ける。
「まだまだ続くのかねぇ……」
「それは俺にもわからないよ、マクレイ」
「誰かさんは心配なんだよね?」
モルティットがマクレイにウインクしている。
「し、知らないね!」
そう言うとマクレイは立ち上がって少し離れた。恥ずかしがりだなぁ。かわいいけど。
するとモルティットが引っ付いてきた。
「じゃ、独り占めしよっと!」
凄い勢いでマクレイが戻ってきてモルティットを無言で引き離した。
「あら? ナオ?」
俺も逃げ出してモルティットが独りごちた。それを見ていたフィアとクルールは首を傾けている。
それからいつものように騒がしい夜が更けてく。
『……』
翌日、新たな導きがあり、目的地へ向け歩き始める。
しばらく道なき草原を移動していくと村が見えてきた。
なぜか静まりかえっていて生活感のなさそうな感じだ。マクレイを見ると片眉を上げていた。
ロックから降りてきたモルティットが俺の肩に手を置いて言ってくる。
「どうも何かありそうね?」
「そうだなぁ。一休みする予定だったけど……」
と、言いかけた所で村の方から人影が出てきた。
近づいてみると、ヒョウ顔の獣人がいて俺達を確認すると声を出してきた。
「と、止まれ! お前達は何者だ!?」
お互い話せる距離まで来ると若い獣人のようだった。慣れない手つきで槍をもっている。
何もしないように両手を上げて声をかけてみる。
「こんにちは! 俺達は旅の途中でたまたまこの村? を見かけたんで寄っただけなんだけど、お邪魔だったらこのまま素通りするから何もしないよ」
すると若い獣人は槍を下げ、心配そうに聞いてきた。
「ほ、ホントか? 何もしないんだな?」
「ああ、何もしないし、必要がなければこのまま去るよ」
そう答えると、しばらく若い獣人が下を凝視したまま考えているようで再び顔を向けてきた。
「実は、助けて欲しいんだ…。でも、あんたらをまだ信用できない!」
「そりゃ、そうだろ。突然現れた者を信用するのは難しいよ。もちろん俺達も君と同じだよ」
俺の言葉にまた考えている若い獣人。いったい何があるんだろうか? 好奇心が出てくる。
意を決した獣人が口を開いた。
「……いいだろう。とりあえず村長に会ってくれ、そしたら信じてやる」
「えー。別に会わなくてもいいけど」
踵を返そうとすると、慌てた獣人が、
「待て、待て! 会ってくれ! 頼む!」
今度はお願いしてきた。なんか切羽詰まっている感じだ。仲間を見て確認すると頷いている。
「わかった。じゃ、案内してもらってもいいか?」
「良かった~。早く会って話しを聞いてくれ。俺はウエイド。よろしくな!」
態度が変わったウエイドが名前を述べてきたので俺達も仲間を紹介する。
それから村の中に入り村長の所へ案内された。
村の中はガランとして、とても静かだ。まるで人…いや、獣人がいないかのように家だけが取り残されたような雰囲気がある。
中心にある村長の家へ招かれ、中へ入って行く。誰もいないようだ。
ウエイドは奥の部屋へ俺達を案内した。そこは寝室のようでベッドに村長と思わしき大柄な獣人が横になっていた。
「村長! 客人を連れてきた! ひょっとしたら助けてくれるかも知れない!」
ウエイドが村長へ話しかけると、横になっていた村長は顔を向けると話し始める。よく見たら熊の顔だった。
「おお! そうか! 旅の方々よ、このような恰好でスマナイ。少し話しを聞いてくれるか?」
そして村長は村に何が起きたのかを語った。
メンタットと呼ばれるこの村はある日、なんの前触れもなく村人が次々と倒れ始めたとのことだった。倒れた村人は自力では動けなくなり、医者を呼ぶにも魔物がよく出る為に村の外に出るのが難しいとの事だった。
しかし、村人の何人かは症状が出ておらず、少ない人数で倒れた獣人の世話をしたり魔物から村を守ったりしていたようだ。
「そのような訳で、この村には謎の病気が流行っていて人手が足りないのだ。非常に申し訳ないが、私達を助けてくれないだろうか?」
村長が頼んできた。確かに、見た後でほって行けるなんてできないよ。
とりあえず診断してもらおう。それから考える事にする。
「モルティット、ちょっと村長を診てもらってもいいかな?」
顔を向けるとモルティットは頷いて村長の具合を診はじめた。ウエイドは固唾を飲んで見守っている。
「そうね、これは魔法的なものでは無いようね。治療魔法を使っても一時的にしか緩和できないから期待しないで」
険しい顔をしたモルティットが報告してきた。そうなのか…。
「ありがとう。それじゃあ、医者が必要だなぁ」
腕を組んで考えていると村長が話しかけてきた。
「それでしたら、近くの町に医者がいるので呼びに行ってもらえないだろうか? もちろん紹介状はあるのだ。私が倒れる前に書いておいた物があって、それを使えば大丈夫かもしれな…い……」
村長はそう言うと真っ青になってグッタリした。ちょっとヤバい?
「モルティット!?」
「今、診る!」
素早くモルティットが詠唱を始めた。すると村長の顔色が少し良くなったが、眠っているようだ。
「ふー。なんとか症状を遅らせるのが精いっぱいね」
「何度もありがとう。モルティット」
礼を言うとモルティットが汗を拭って微笑んで応える。
このままではこの村は滅んでしまう。なんとかしないと!




