83 オリハルコン
新しく出てきた坑道に入り、進んで行く。
この辺りになると何故か魔物の出現する数が減ってきたようで落ち着いてきた。
しばらく歩いていくと大きく開けた空間に出たようだ。するとソイルから警告が来る。
「前方に大きな魔物がいるから気をつけて!」
「わかったよ。ナオは出ないで!」
マクレイが警戒しながら、前へ進んで行く。
すると、前方に角の生えた大きな影が見えてきた。テルバロは驚いて警告してきた。
「あ、あれはミノタウロスだぞ! あんたら大丈夫か? ヤバい時は逃げるぞ!」
それを聞いたマクレイはニヤリとして、
「ああ、そうかい。じゃ、アタシ一人でいいや」
そう言うと前方へ駆け出していく。俺は慌ててロックに指示する。
「ロック! マクレイの補佐と灯かりを!」
ランタンを掲げながらロックがマクレイの後を追っていく。俺達も進んでついていった。
ミノタウロスの吠える声と足音が聞こえ、薄明りの中、二つの影が交差していく。やがて一つの大きな影が崩れ落ちた。
しなやかな影がこちらを向く。
「まあ、こんなもんかな?」
マクレイがロックを従えて戻ってきた。テルバロは口を開けて驚いている。
「マクレイ大丈夫?」
「ああ。ま、なんともないよ」
俺が声をかけるとマクレイが両肩を上げて答えた。
「ハハハ! こりゃいいや! 怖いもん無しだ!」
テルバロが俺の肩をバンバン叩いて喜んでいる。地味に痛い…。モルティットが微笑んで俺を見ている。なんで?
それから広い空間の奥に進んで行く。
壁を調べながらテルバロが指示していく。何かを発見したようだ。
「うむ。この鉱脈はいいぞ! 奥に向かおう!」
そう言うと奥に向かい目的の壁を見つけたようだ。俺達が見守る中、道具を使って掘り始めた。
しばらく採掘をしてるのを見ていたが飽きてきた……。
横のマクレイを見ると眠たそうだ。モルティットはいつの間にか俺の横にいてニコニコしている。フィアはテルバロと一緒に採掘して、時折意見を言って相談している。あれ? いつの間に? ロックは不要になった岩などを取り除いて手伝っている。
クルールは俺の胸元にいて寝ていた…。
立ってるのも疲れたのでマクレイとモルティットと共に発掘している近くに座って待っていた。モルティットが引っ付いてマクレイが威嚇している。俺を挟んで静かな攻防をするのを止めて欲しい…。
やがて、テルバロが声を上げる。
「おお! 見ろ! やったぞ!! とうとう見つけたぞ!」
大喜びでラグビーボールぐらいの石を手に持ちやってきた。
「ナオヤ! 見ろ! これが貴重なオリハルコンだ!」
「おー! やったね! テルバロ!」
立ち上がって見に行く。それは水銀のような艶のある不思議な色合いの銀色の岩だった。
どうやら必要な量はこれだけあればいいようで、道具と採れた鉱石をしまうと俺達はここで折り返して地上へ戻って行った。
町に戻ると日が暮れて夜が始まり、明るい月が山を切り出した都市を照らしている。もうお腹もペコペコだ。
「お疲れさん! いや~、大収穫だった! これもあんたらのお陰だよ!」
満足顔のテルバロがお礼を言ってきた。
「ありがとう! ホッとしたよ成果があって」
手を差し出し握手をする。それから明日、キッタムの工房で待ち合わせの約束をして別れた。報酬もその時に渡す事になった。
近くの食堂で夜食を取った後、安めの宿屋を探して泊まった。ロックは外で待機している。
さすがにみんな疲れたのかベッドに入るとすぐに寝息を立てていた……。
翌日、朝食を取った後、宿屋を出て約束の工房に行くと、キッタムとテルバロが既にいて鉱物の分離作業をしていた。
「おー! ナオヤ! 来たか! ちょっと待ってな!」
俺達に気がついたテルバロが声をかけた。キッタムも手を上げて挨拶している。
しばらく待つと銀色の塊を持ってテルバロとキッタムが来た。
「これが精製したオリハルコンだ。どうだ? 滅多に見れないぞ?」
「へぇー。これは綺麗だね」
テルバロが見せてきたオリハルコンは不思議な色合いをしている。何というか、俺のボキャブラリーでは説明できない輝きだ。おー、なんかすごい!
「いい精製でスね。不純物が少ないノで、加工しやすそうデす」
フィアが分析して言っている。この手の事は詳しいのかな? するとテルバロはフィアに
「いや~、あんたのお陰でもあるんだな。これを見つけたのは!」
そう言ってフィアの肩を叩く。背丈が近いから楽そうだ。フィアは照れていて、頭を揺らしていた。
その後、報酬をもらったが、せっかく乗りかかった船なので最後まで付き合う事にした。
キッタムの鍛冶をテルバロと共に手伝い作品が完成するのを見届けている。
日も傾き夕暮れ時に、どうにか完成した。
それは一振りの中型の剣だった。キッタムの手にある剣は美しい輝きを発している。
「こいつは凄いねぇ。アタシも欲しくなるぐらいだよ」
マクレイが剣を見てため息をついた。買ってあげたいが、恐らくとんでもない金額だろうと想像できる出来栄えだった。
「あんたらのお陰で良い物が作れた。礼を言うよ! 例えコンテストで賞が取れなくても後悔は無い!」
「いや、素人目に見ても素晴らしい出来だよキッタム!」
キッタムの言葉に俺は褒めまくり、テルバロも笑顔で言ってきた。
「ナオヤの言う通りだ、キッタム! こいつはすげぇよ! 間違いなく賞は取れるぞ!」
苦笑いしているキッタムもまんざらでも無さそうで照れている。
素晴らしい剣を肴に話しが弾んで歓談した。
しばらくしてマクレイとモルティットが目くばせしてきたので別れの挨拶をすることに。
「俺達はここまでかな。コンテストの結果は知りたいけど、またにするよ。健闘を祈ってる!」
そう言ってキッタムとテルバロに握手を交わす。
「残念だが、お前らは旅の途中みたいだし、しょうがないな。精々坑道ではヘマしないようにするよ!」
ニヤリと笑ったテルバロが言い、
「これもテルバロとあんた達のお陰だありがとう! また近くに来たら寄ってくれ! 歓迎する!」
キッタムも笑顔で見送ってきた。
皆で別れを言い、名残惜しいが工房を後にした。
さすがに夕方を過ぎていたので、今日も泊まり明日出発することになった。
とりあえず夕食だ。昨日の食堂に再び行き、腹を満たした後は喉を潤して一休みしている。
「今回はマクレイとモルティット、フィアが大活躍だったね」
俺が言うとフィアは照れていた。マクレイはドヤ顔してるし、モルティットが笑顔で
「そうね。後、ロックも、ね」
「あ、そうだ!? 確かにね!」
意外にロックは影で活躍してたな。つい見逃していた。ごめんね、ロック。
「ま、よく考えたら俺は何もしてなかった……」
「ナオは何もしないのが一番いいんだよ」
マクレイが飲み物を傾けながら言ってくる。モルティットが続けて、
「そうね。私の側にいてくれればいいから」
そう言うとマクレイが威嚇してきた。この二人は相変わらずなようだ。もう少し平和でいたい…。
「でモ、鉱物の事が、とても参考になりまシた」
フィアが嬉しそうに語っている。その様子を見たら和んだ。
クルールは食事をまだ頬張っていて、美味しそうに目を細めていた。
ホントはアウルムを使えば望みの鉱物を取り出せるどころか、この場に出現させることも可能だった。そのような使い方をマクレイは止めたかったのかもしれない。モルティットと威嚇し合っているマクレイを見てると、一瞬目が合って微笑んだ。
いつも思うけどエスパーなの?
その後、宿に泊まり翌日ドワーフの町を出て先へ進み始めた。
ドワーフの町に来る時と同じように山を登っている。
黒竜ドウェンがいたら楽だなぁー、とか考えながらマクレイを見ると睨まれた。やっぱり思考を読み取る何かがあるのかな?
やがて目的地へ近くなってきたようだ。まだ山頂ではないようだが、岩のところどころからモクモクと煙が出ている。
地獄谷みたいな所で、温泉のような匂いがかすかにする。
この辺りには魔物がいるようでマクレイとモルティットがたまに現れると撃退していた。
しばらく進むと、魔物が出ないエリアに来たようだ。
目的地は近い。




