59 竜殺し
「それでは行くか!」
朝一でドウェンが切り出した。
俺らはまだ朝食中だった。見てわかんないのかな? 謎だ。
「ちょ、ちょっと待て! 朝飯が終わったら行くよ!」
「ぬ。そうなのか。我らは朝、狩りをしてから食べるのでな。先に飯にするとは…。意外だ」
文化の違いだねって、多分、食べる量が多いからじゃないかな?
「とりあえず、少し待ってほしいけど?」
「あいわかった。終えたら呼んでくれ」
「悪いね」
「それが習慣なら仕方がない」
ドウェンはその場で横になった。けっこう良いヤツだな。遥か年上だけど。
準備が整い、黒竜に声をかける。
「ドウェン! お待たせ! いつでも行けるよ!」
「おお、そうか! では行くぞ! 覚悟はいいな?」
「ああ!」
そしてドウェンが歩き始めた。あれ?
「ドウェン! 空から行かないの?」
「うむ。奴はすぐそこだ。空より陸の方がいいだろう」
マジか! 野営中に襲われたらひとたまりもなかったよ!
「え? そんな近くにいたの? かなり無防備だね」
「奴は慢心しているのだ。お主の存在には気がついているのに何もしないのがその証拠だ」
空に飛ばなかったので、少し嬉しそうなマクレイが口を挟む。
「フン。そういうヤツは碌な死に方しないね」
「ハハッ! 如何にも!」
黒竜が笑って答える。
それから半時ほど林の中を歩いた所でドウェンが止まった。ここがそうなのか…。ホント近かった。
「もう目の前だぞ。奴は気配を消したようだ」
早い! 焦ってきた! ソイルは感知していない。
「みんな! マクレイは遊撃を! ロックは補佐して! モルティットは距離をとって! フィアも一緒に! ドウェンは出来れば至近距離で足止めして!」
急いで指示を出す。と、同時に林の奥から強烈な熱線が襲ってきた!
「全員! 散開しろっ!!」
ドウェンが叫ぶ。
と、俺達の近くの地面に熱線が当たり、辺りを吹き飛ばす!
凄まじい衝撃波が襲う!
「うぁわあああ!」
爆風で転がりながら思わず叫んだ。なんとか立ち上がると、マクレイとロックが熱線の元へ走っていくのが見えた。
やがて奥の木々を倒しながら黄金の竜が出てきた。
「奴だ! これからが本番だ! 頼むぞ“契約者”!」
ドウェンが声を上げ、黄金竜の元へ躍り出た。
すると、黄金竜はタメをつくり、再び熱線を発射するため口を開いた! 大口の中が赤く発光してくるのが見える。
そこにモルティットが魔法を行使し、無数の氷の氷柱が開いた口へ殺到していく!
黄金竜はたまらず頭を上げて熱線を発射した。空に赤い光線が一筋となって遠ざかっていく。だが、無傷のようだ。これはヤバい! 半端なく強い!
頭を振るった黄金竜が再びこちらに顔を向ける。ドウェンは距離を詰めて隙を伺っている。
「アーテル!」
黄金竜の頭部に闇が降りる。
いきなり視界と聴覚を奪われ戸惑っているようだ。そこにドウェンが襲いかかり黄金竜の翼を噛み潰した。
「アヴアアアアァァァァーーー!!」
突然の痛みに黄金竜が暴れ始める! 鋭い爪でドウェンの体を切り裂くと真っ赤な血が飛び散った。
「ソイル! シルワ!」
周りの木々や地面から枝と岩が飛び出し黄金竜を押さえ付けようとするが、怪力で押し切られそうだ。
傷ついたドウェンが一時離れようとすると、黄金竜がまた熱線を発射した。
からくも避けたドウェンだが、熱線は俺の方へ来る!
「ソイル! アクア!」
地面から次々と壁が立ち上がり激流が熱線を襲うが、押し切られ次々と壁が破壊され水が一瞬で蒸発する!
ヤバい! ここにいたら死ぬ! 慌てて逃げ始める。と、すぐ近くで爆発した!
壁と一緒に吹き飛ばされる! 微かにマクレイの叫びが聞こえた──。
………。
一瞬かわからないが気を失っていたようだ。目が覚める。
──体が重い…。早く立ち上がらないと! 奴がすぐ近くにいる!
砂や石にまみれた体を無理やり起こす。戦っている音が遠くに聞こえ、震える頭から血が滴っている。ふと、胸元を見るとクルールは気を失っているが大丈夫なようだ。良かった…。
右腕が思い通りに動かない。見ると変な方へ曲がっている……。
それを認識した途端に鋭い痛みが出てきた!
「うぉおおおおおおおおおお!!」
痛さを無視して、無理やり叫んで立ち上がる。
前を見ると体中に傷をつけたドウェンが黄金竜をなんとか押さえているようだ。マクレイとロックは足元付近で奮闘している。
「ナオヤさン!」
フィアが大声を上げながら近寄ってくる。その後ろではモルティットが無数の氷の刃を黄金竜に向け飛ばしていた。
「だ、大丈夫だ! それより、フィア、まだ弾はある?」
「ありマす。それより手当ヲ!」
フィアが介抱しようとするのを左手で制して、
「お願いだ! フィアとマクレイが頼りだ! 決着はすぐ着く!」
叫ぶ。
俺の目を見たフィアは頷くと銃を構えた。
「よし! アウルム! マクレイの剣とフィアの弾を最大に強化してくれ! ベントゥスも力添えを!」
ソイルが黄金竜を地面に引きずり込もうとして、シルワも枝を伸ばしている。さらにドウェンがなんとか止めている。今がチャンスだ!
「フィア! 撃ってくれ!」
金属音が鳴り、黄金竜の下腹部に大穴が開いた! すかさず黄金竜の足元にいたロックがマクレイを背中に持ち上げて乗せる。マクレイがそのまま首筋を駆け上がっていく。
「アヴアアアアアアァァァァーーーーー!!」
「オラァアアアアアアアーーーー!!」
バランスを崩して横たわりながら叫ぶ黄金竜の頭部に、マクレイが負けじと叫びながら剣を深々と差し込み、無理やり切り開いていく!
血しぶきを浴びながら頭の中へ剣を何度も何度も打ち込んでいく。
「アヴウウウウウウゥゥゥーーーー!!」
やがて黄金竜は絶叫と共に大量の血の海に沈み、沈黙した。……もう大丈夫かな?
安心したら、足から崩れ落ちた。体中震えてきている。
「ナオヤさン!」
フィアが慌てて介抱する。なんか目に血が入ったようで視界が真っ赤だ。
「ナオーーーー!」「ナオ!」
マクレイとモルティットが駆けてくるのが見える。傷だらけのドウェンが満足そうに呟いた。
「さすがは“契約者”だ。よもや勝てるとは思わなかったぞ」
そして記憶が途切れた──
ふと目を覚ますと、横にクルールがいた。
俺に気がつくと涙を流しながらチュッチュしてきた。
『良かった~! ナオヤって、なかなか起きないんだもの!』
「ああ、ありがと。クルール。それは大丈夫だから!」
動く左手で頭を撫でる。嬉しそうにクルールはなすがままにされていた。
そして頭を起こすと、そこは昨夜泊まった野営地だった。
「ナオ! 良かった!」
マクレイがすっ飛んできた。俺の左手をギュッと握って、めちゃ心配そうな顔をして覗き込んでいる。
「あれ? モルティットとフィアは? それにドウェンは?」
「今はたぶん宮殿にいるよ。なんでも珍しい書物がいっぱいみたい。それより、体はどう?」
「ああ、右手が動かないけど、他は大丈夫そうだ」
マクレイは微笑んで俺の右手を毛布から出す。見ると添え木に包帯でぐるぐる巻きにされていた。そりゃ、動かないわけだ。
「フフ。この腕が一番危なかったよ。でもしばらくしたら元に戻るよ」
なんか美人さんの顔が近いんですけど、赤紫色の瞳が閉じた。このままいけば…。と、クルールがマクレイにチュッチュしてきた。
「なあああ。わかったから! クルールって!」
真っ赤なマクレイが離れてクルールから逃げている。いつもの風景に安堵した。
本気で今回はヤバかった…。精霊主達には感謝してもしきれないな。〈いいえ、私達はあなたに感謝していますよ〉そうなの? でも、ありがとう。
鉛のように重い体に鞭を打ち、なんとか上半身を起こす。丁度、右手の添え木がつっかえ棒のようになって支えている。
周りを見ると、まだマクレイがクルールに追いかけられていた。ふと、影が差し顔を向けるとモルティットが近くまで来ていた所だった。
「あら! 起きたのね! 良かった!」
そう言って抱きついてきた。体が重くて動かないので逃げようがない。密着した体から良い香りがする。と、唇を奪われた。
「ふふっ。抵抗しないから好き放題できそう」
「ケガ人だから止めてくれーー!」
頑張って力の無い左腕で抵抗する。が、その手を抱えられた。
「ダメ。心配させた罰ね! これは」
「罰でも何でも、俺はマクレイが好きなの!」
「そんなの聞き飽きた!」
そう言ってモルティットがのしかかってきた。せっかく起き上がったのに、また横になっている。あー、もう!
ああ、また顔が近づいてくる…。と、顔が離れていった。
「何やってんだい! アタシがいない間に!!」
鬼のマクレイがモルティットを引きはがした。
「あら? いいとこなのに…」
「アタシら約束したよね? モルティット?」
マクレイの言葉に珍しくモルティットが冷や汗をかいている。
「そう、だったっけ? ふふっ」
とか言いながら逃げていくモルティット…。そこにフィアが来た。
「ナオヤさン! 安心しまシた!」
フィアと抱き合い俺が倒れた後の事を聞いた。
あれから三日程、寝ていたらしい。昨日かと思った、どうりで体が重いわけだ。
ケガの治療はマクレイとモルティット、それにドウェンがしてくれたようだ。ドウェンはいなかったが、仲間には改めてお礼をした。
俺が寝ている間、モルティットとフィアは宮殿にある書物を王に許可をもらって読みふけっていたようだ。マクレイとクルールはもっぱら俺の横にいたみたいで、近くにロックがいて見守っている。それと、ドウェンは傷ついた体を癒やす為に、どこかの洞窟に入っているそうだ。
お読みいただきありがとうございます。
年内の投稿はこれが最後になります。
ブックマーク、評価をしていただきありがとうございます。
淡々と投稿しておりますが、実は毎回ドキドキしてます……
来年は1月4日から投稿しますのでよろしくお願いいたします。
良いお年を!




