60 山脈を越えて
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
それから一週間ほど竜の国に留まり、俺の体力の回復に努めた。
右腕が使えないため、食事は不慣れな左手とフィアに手伝ってもらう。
とりあえず歩く分には支障の無いぐらいには回復できたので王の元へ行くことになった。
久しぶりに仲間達と宮殿へ行く。洞窟の通路を進み白い竜の元までやって来くるとそこにはドウェンもいて、すっかり体は治っているようだ。
「久しいな。体は良くなったかな“契約者”よ」
竜王が頭を巡らせ語りかける。
「ありがとうございます。だいぶ良くなりました」
「遅くなったが、この度の討伐、誠に感謝する。種族を代表して礼を言おう」
「全ては精霊主、そして仲間とドウェンのお陰です。王様」
ちらりと後ろを振り向くと仲間全員がサムズアップしていた。ドウェンもか!
すると竜王が笑い出した。
「ファファファ。なるほどな、従者に言われた通りだな。して、お主の要望には応えようぞ。ドウェンが連れていくだろう」
「ありがとうございます」
「此度の戦は既にドラゴンの中で語り草になっておる。お主らは気づかなかったが、あの場の周りには国中のドラゴンが集まっておったでの」
王がでかい顔でウインクした。見てたのか…。少し恥ずかしくなってきた。
「旅の途中で寄ることがあれば、顔を出せ。お主らには大きな借りができた。それではまたな、ナオヤよ」
王が話し終わり頭を戻そうとした時に、モルティットが前に出た。
「王よ! もしよろしければ、私をしばらくこの国へ置いてもらえないでしょうか?」
「ふむ。魔法使いのエルフか、勉強熱心だな。よかろう、許可しよう」
「ありがとうございます!」
「ファファファ。麗しいエルフが仲間の為に。美しい心だ。後はドウェンよ、頼んだぞ」
王がドウェンに向くと黒竜が頷く。どういう事だ? モルティット?
「畏まりました、王よ! さ、行くぞ」
ドウェンが歩き出し、俺達はついて行った。
「モルティット! ここで何をするんだ?」
宮殿から外に出たところで、モルティットに聞く。
「ふふっ。心配してる? そう、やる事があるんだ」
「どういう事だい?」
マクレイも心配して聞いてきた。
「もう! マクレイディアまで! ここには失われたと言われるエルフの魔術書が沢山あるの。この機会を逃したら、私は今のままで終わっちゃうから」
「え? 十分だろ?」
すると、モルティットが俺の片方の頬をつまんできた。
「全然足りない! あの黄金竜の時、私は何もできなかった!」
「え~。すごく、役に立ってたよ!」
すると、もう片方の頬をつまむ。
「ふふっ、ありがと。でも決めたんだ」
モルティットはつまんだ両方の頬を引っ張り始めた。地味に痛いんですけど、エルフさん。
「その辺にしなよ、モルティット。ますます変な顔になるよ」
「……そうね」
マクレイが助けてくれた。そんなに変な顔じゃないと思う。たぶん。ふと、クルールを見ると、自分の頬を引っ張っていた。
それから野営地へ戻り、出発の準備をした。
モルティットが見守る中、ドウェンの背中に嫌がるマクレイを無理やり連れて乗り込む。
「それじゃあ、用が済んだら合流するから気をつけてね!」
モルティットが手を挙げながら声をかける。
「ああ、またな!」
「頑張ってくだサい!」
俺とフィアが答え、クルールは手を振っている。
「ま、いつでも里に帰っていいよ?」
「ふふっ。マクレイディアも知ってるでしょ?」
マクレイとモルティットは言い合いをしている。
「では、まいるぞ!」
ドウェンがそう言うと空に飛び上がった。手を振るモルティットが小さくなる…。
青ざめ震えているマクレイをフィアと二人で抱き、ベントゥスを使い風を弱める。
雪に覆われた山脈を越えてゆく。
目指すは東だ。
やがて平原に出ると、ドウェンが高度を下げ、ゆっくりと降りていく。
「ここでお別れだな。“契約者”たちよ」
「ああ、ドウェン。いろいろありがとう!」
「ハハッ! 礼を言うのはこちらだ。では元気でな!」
俺たちを降ろしてそう言うと、ドウェンは素早く上空に昇り竜の国へ目指して翼をはためかせた。
「はぁ。ここからは徒歩か…」
気落ちしていると元気になったマクレイが肩を叩いた。
「病み上がりなんだから、鍛えないとね!」
ずいぶん嬉しそうですね。
「さ、行きましょウ」
フィアが先を指さした。
道なき草原を歩いて行く。
まだ右腕は完治していないが、添え木は外して、少しずつリハビリを始めている。
やがて丘を登ると前が開けてきた。
そこには緑がかった青が一面に視界に入る、海だ。ふと磯の匂いが風に乗ってやってきた。
「何もないねぇ。ホントにこの先かい?」
「たぶんね。もう少し行ってみよう」
マクレイが額に手で庇を作って海の先を見ている。クルールは初めて見る海に興奮しているようだ。フィアは慣れたのか静かに佇んでいる。
丘を下り前へ進む。クルールは楽しそうにキョロキョロして海を見ながら飛んでいた。
やがて海岸沿いに出た。何もない海が眼前に広がる…。でも、導きはまだ先のようだ。
「ひょっとしてだけど、海の中かな?」
「ありうるねぇ。ナオと行くところは普通じゃないからね」
マクレイが笑いながら答える。
「ワタシは潜れまセん。沈んでサビが出来てしまいマす。…怖いデす」
俺の左手をフィアが両手で握って少し震えている。可愛いなぁ。これは。
とりあえず、何も思いつかないので海岸から少し離れた所で野営することにした。
夕食も終わり、右腕のリハビリをしているとマクレイが来た。
「どうだい? 右腕は」
「ああ、軽くつかめるようになったけど、まだ力が入らないかな?」
「もう少しだね。良かった!」
俺の右手を取って嬉しそうなマクレイ。これは、あれか!
「はぁああえぇ!」
元気な左手を使って押し倒す。また変な声が出た。
「マクレイ。俺が、って痛いです!」
頭わしづかみされた。めちゃ痛いっ!
「なんでナオはいつもそうなんだ! アタシにも限度があるんだよ!」
「ごめんなさい。マクレイさん。痛いです!」
既に怒っている。いつも限度ないじゃん。あ痛たたたた!
「はぁ。しょうがないねぇ」
「だったら、この手を放してください!」
「イヤだね!」
「もウ! すぐこれデす! いい加減にしてくだサい!」
今度は両手を上げたフィアが怒ってきた。クルールが楽しそうに回りをフラフラ飛んでいる。ロックは見張りの位置からこちらを観察してるようだ。
こうして騒がしい夜が更けていった。
次回投稿は1月6日になります。
それから隔日ごとの投稿になります。




