37 死霊使い
森をやっと抜けて見晴らしの良い草原を旅して行く。
妖精の集落から初めて外に出たクルールは知らない世界に興味津々だ。ちょっと前のフィアを思い出す。
今は、草原の丘にある古城(?)跡で野営をしている。
俺はクルールと共に文字を勉強中だ。クルールは呑み込みが早く順調に覚えている。もう少しで抜かれそう…。ま、負けないぞ!
「できまシた! どうぞ着てくだサい。クルールさン」
ファイはそう言って布をクルールの前に並べ出した。よく見ると小さな服のようだ。いつの間に作ったんだフィア…。
「へぇ~、良くできてるじゃないかい!」
いつの間にかマクレイも来てマジマジ見ている。クルールは嬉しそうに服を体に当ててる。
しかし、よく考えたらずっと裸だった…。慣れって凄いね。今じゃ何にも感じない。
新しい服に袖を通すクルール。ゆったり目の上着と下はスカートを選んだようだ。ひらひらさせながら楽しそう。と、フィアがスカートを摘まんでめくった。
「ブーー!」
吹いた! 何してんのフィアさん。クルールは特に気にした風でもなく喜んでいる。いいのか?
「下着を作るノを忘れていまシた…」
慌ててフィアは新しい布を出して裁縫し出した。スカートはだけたままだぞクルール、と、目で追っていたらマクレイに頭をつかまれた。
「ナオ? さっきから何でクルールの尻ばっかり見てんだ?」
「違うって! フィアが下着を作り忘れたんだよ!」
あれ? 力が入ってきてるぞ! 痛っ!
「あ? それじゃ…何も…」
いててて! 顔が真っ赤なマクレイにギリギリ締め上げてる!
「ナオ~! あんたって! ホントに~!」
「やめ! って、痛いって!」
その後、正座で説教された。フィアはせっせと下着を作ってクルールにはかせたようだ。
『みんなとお揃いで嬉しいなー』
クルールはまだ喜んで飛んでいる。フィアは満足そうだ。職人さんかな?
マクレイは目を細めてその様子を眺めている。俺は絶賛、正座中。そろそろ足が痺れてきた。
『はい! これー!』
クルールが頭に何か載せてきた。なんだろ? 手に取ってみると小さな花でできた輪っかがあった。
え? なんで?
『お礼だよ!』
めちゃ笑顔で言ってきた。マジか…。視界がボヤけてきた…。
『な! なんで泣いてるのー? 悪いことした?』
「ち、違うんだ! これは嬉し泣きだ! クルールって良い子だー!」
目をゴシゴシしながら言うと、妖精は照れたようにひっついてきた。
『ありがとー! ナオヤも良い子だよ!』
とかやってたら、マクレイがこちらを見て
「仲がいいねぇ。あんたたち」
怖い笑顔で言われた。と、今度はマクレイにクルールがひっついた。
『マクレイも良い子だよ!』
一瞬にしてトロけた顔になる美人さん。あれだな、何しても許される存在。それがクルール。
それから妖精はフィアとロックにもひっつきに行った。
夜も更けてきた頃、ソイルから何かが近づいて来ていると警告を受けた。
「マクレイ! 誰かが来る!」
「どっちだい?」
来る方を指さす。マクレイは剣を手が届く範囲に置き直す。フィアはクルールと一緒にマクレイの近くへ移動した。ロックを見ると姿がない…。闇に紛れて隠れているようだ。
しばらくして、焚き火の明かりが届かない暗がりから人が出てきた。
黒いローブで顔はわからない。背丈は俺と同じぐらいだ。程なく近づいて、
「こんばんは。こんな場所で野宿している人がいるとは思わなかったよ。俺はサトウ・タツミ。よかったら、しばらくこの場所にいていいかな?」
そう言い、ローブを取って頭を露わにする。黒髪だ…。絶対、同じ“転移者”だよね。これ。
「こんばんは! 俺はナオヤ。後ろにいるのは旅の仲間だ。危害がなければここにいても大丈夫!」
立ち上がって近づく。タツミは俺をしげしげ見て気がついたようだ。
「君も“転移者”かな? さっきゴーレムを見たけど、あれは君の従魔だったのか」
「ああ、同じだと思う。しかし、暗闇でも見えるのか…。それも能力なのかな? 立っているのもなんだし、火の近くに来なよ!」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらおう」
タツミは俺達とは反対側に腰を下ろした。そこで、マクレイやフィア、クルールを見て驚いたようだ。
「ずいぶんな取り合わせだな? 妖精なんて初めて見たよ」
「彼女とは最近、仲間になったんだ。何か食べる?」
「すまない。頂くよ」
タツミに焼けた肉を渡し、隣に座った。マクレイ達は警戒を解いたようだ。クルールのワクワクしてる感じが見て取れる。
「タツミは何故ここに来たんだ? 用があるみたいだけど」
食べ終わった頃を見計らって話しかける。
「そうだ。この場所に用があるんだ。しばらくしたら作業に掛かるから先に言っとくよ、俺はネクロマンサーなんだ。ここには死霊を回収しに来たんだ」
水を飲みながら答える。先ほどの探るような目つきはなくなり、くつろいでいる様子だ。
「あー、聞いたことがあるなぁー。確か幽霊みたいのを従えるんだっけ?」
「ハハハッ。面白いけど少し違うな。俺の場合は死んである程度、時間が立たないと従えないんだ。だから今は主にスケルトンとか骨になったやつを集めてる」
「へぇー凄いね! 軍隊とか作れるんじゃないの?」
「似たようなものかな。俺は傭兵団を作るつもりさ。もう少しでお披露目できそうだよ」
手をひらひらさせて二ッと笑っている。なんか凄そうだ。少し話題を変えよう。
「ところで、ウエスギカイトって知ってる?」
「聞いたことあるなぁ。あ! 確か東にある小国の勇者だろ?」
「そうそう! でも知らないのか。あまり転移者同士ってつるまないのかな?」
タツミは苦笑いをして、
「組んでる奴らもいると思うよ。ただ少ないからなぁ、こうして会えるのは希だね」
「なるほど。後は“転移者狩り”に会ってるのかもね」
「知ってるのか“転移者狩り”を。俺は会ったことがないけど、一度目をつけられると死ぬまで追い続けられるんだろ?」
「最近会ったよ。なんでも世界に危険な存在だと狙われるみたいだ。タツミも目的次第で気をつけた方がいいよ?」
「ハハ、ありがとう。おっかない奴らだな。なにも俺は世界征服なんてしないよ」
また苦笑いをしている。
それから、俺が精霊を使える事などを話した。精霊使いが少ないのは知っていたけど、この世界では精霊と契約するのはかなり偶然みたいで、精霊使いを目指しても必ずなれるものでもないみたいだ。
その代わり、魔法の様に詠唱などしなくても現象を発動することができ、規模も大きいそうだ。とりあえず精霊主の事は黙っていた。
さらに、この大陸の北にある帝国では魔導石を利用した魔法発動機が開発されていて、機械が徐々に広がりつつあるらしい。タツミもある程度の魔法は扱えるようだ。さすが一人旅をしているだけのことはある。俺とタツミが話している間、マクレイが耳に集中している様が見て取れた。後で話すから。
話が一段落した後、タツミは立ち上がり、
「それじゃ、とっととやるかな。終わってからまた話そう。同郷にはなかなか会えないからな」
そう言うと離れた場所へ行き両手を下に向け、ブツブツと何かを唱えだした。マクレイを見ると肩をすくめられた。
クルールが何故か俺の頭に乗って、タツミの様子を見ている。
やがて、タツミの両手が光ると一面の地面から白い骨の手が無数出てきた! ちょっとしたホラーだ、これ。クルールは髪を引っ張って喜んでいる。なんでも楽しめるってイイネ。
手が伸びた後に頭が出てきた。地面に伸びた手をつき、体を引き上げる。無数の骸骨が地面から出てくる様は異様だ。全身が現れ両の足で大地に立ち首を上に向けると白く輝きだした。光と共に体がかき消え、光線となってタツミの体に吸収されている……。
無数の光線が絡み合うヒモのようにタツミにつながっていき、やがて何もなくなった…。
「さすが、戦場にもなった古城跡だな。この数はちょっとビックリだ!」
こちらに戻りつつタツミが感想を漏らす。俺達は皆、驚いている。
「凄いな! 俺もビックリだよ! 一体、何体まで操れるの?」
俺の隣に再び腰を下ろして、楽しそうなクルールを見ながら
「さあな? 百体ぐらいはいけると思うよ」
「マジ! 凄すぎだ!」
「ハハハ。とは言っても長時間操るのはキツイんだ。まあ、これからだね」
タツミは謙遜しているが、凄すぎだろ。短時間でも百体以上が出てきたらひとたまりもないな。
実は俺もソイルを使いゴーレムを作って操ろうとしたことがあったが、一体を動かすのに集中しすぎて自分が動けないというダメっぷりだった。ロックがいてくれてホント良かった。
それからマクレイをちらりと見たタツミが口を開いた。
「そう言えばあのエルフって仲間なんだよな?」
「ああ、そうだよ」
「これでも傭兵をやってるからな、前に見たことがあるんだ」
「へぇ~。昔の話はしないからなぁ。あ、でも二つ名は本人の前で言わない方がいいよ。気にしてるから」
「ハハッ。面白い。その時はトロールとかゴブリンの巣を掃討する冒険者との共同作戦に駆り出されてさ、一緒に戦ったんだけど、一人だけ突出して暴れてるんだよ。ありゃ、凄すぎて誰も近寄らなかったな。戦慣れしてる傭兵が一歩引いてたからな」
「そうなんだー」
するとタツミがマジマジ俺を見て、
「なんか全然怖くないんだな? なんでだ?」
「え? いや、それぐらいは分かるから…」
「へぇー。ホントに?」
なんかニヤニヤして聞いてくる。分かってるなら聞くな!
「あー、もう! 俺が好きなの! わかった?」
すると頭の上にいたクルールがキャーキャー言いだした。聞こえるのは俺だけだって…。
「ハハハ! 面白い! さすが同じ“転移者”だな。この世界の常識は通じない」
「なんだそれ?」
「エルフに手を出すと死が訪れるって言われてるんだよ。たぶん、寿命が違うからだろうな。ま、別の意味でもナオヤは変わってるのさ」
「全然、褒められてない…」
「ハハハ。美人だから羨ましいのさ!」
その後は故郷の話しとかをして盛り上がった。タツミは意外と話し上手な方で、いろいろと教えてもらった。
タツミは学生の時にこの世界に来たようで、最初に傭兵団に入ってからずっといたが、この能力に目覚めてから退団し、一人でいるらしい。やはり、最初の関わりで“転移者”の人生が大きく変わる事を痛感した。
不思議と気が合うタツミと話し続け夜がさらに更けていった。
お読みいただきありがとうございます。
ノリノリで書いていたらストックが増えてきたので、二日に一回のペース(隔日です)で投稿いたします。
引き続き楽しんでお読みいただければ幸いです。




