38 ブルークの町
次の日、タツミは妖精が見たいと言って大森林に向かって行き、俺達と別れた。また会いたい人が増えたな。
「ずいぶん盛り上がってたね。同郷なのかい?」
マクレイが聞いてきた。ずっと聞き耳立ててたでしょ?
「ああ、年も近かったし、話しも弾んだよ」
「へぇ。良かったね。ナオにも同郷がいるって」
「そうだけど、マクレイ達もいるし寂しくはないよ?」
なぜか面食らったマクレイは背を向け、フィアは俺の手を握り、クルールは頭の上で跳ねてロックはサムズアップしてる…。
荷物をまとめ、古城跡を離れ導きの方角へ歩いて行く。
進んでいくと整備された道へ出た、とりあえず道なりに進む。
途中、行商の馬車とすれ違うことが何度かあった。御者と中にいた商人が窓からこちらをガン見していたのが印象的だった。
自分で言うのも変だが、バラエティに溢れる一行なので誰が注目されたのかがわからない。強いて言うと全員か?
道沿いに野営して行く。魔物も出ないので安全な道のようだ。
幾日か道沿いに進み野営して夜の事、ソイルが警告を発してきた。
振動を感じてみると、複数で散開しつつこちらに向かってくるようだ。近くの雑木林から来るようなのでシルワに様子を聞くと、武装した身なりの汚い男達がいるとのこと。
ベントゥスに彼らの声を届けてくれるようにお願いする。さっそく話を聞くと、紛れもなく俺達を狙った盗賊のようだ。
どうする? 知らせると血の雨が降りそうだし、盗賊はまだ雑木林にいる…。
しかたがない、シルワにお願いして木に縛り付けてもらった。
……
……取りこぼしは無いようだ。これで安心かな?
「ぎゃーーーー!!」「ひぇーーーー!」「ああああぁーーーー!!」
叫び声が遠くから聞こえてきた…。道沿いは開けているから良く聞こえる…。
俺の後ろでドサっと荷物を落とす音がした。恐る恐る振り向くとマクレイがこちらに向かって来る。
「今のはナオだね! 何したんだい?」
怒っているようだ。叫び声を聞いただけで俺が原因だって分かる美人さんはエスパーかな?
「ま、マクレイ。ゴメン、先に言えばよかったんだけど…」
「ああ? 何をだい? 早く話しな!」
両肩をつかまれた。もう逃げられない。上から睨んでるマクレイを怖々見上げながら、
「えっと、そこの雑木林に盗賊がいたから…全員、木に捕らえた…感じかな?」
「本当かい!? ちょっと見てくる!」
驚いてそう言うと雑木林に向かって走って行く。めちゃくちゃ足が早いですね。もう小さな後ろ姿しか見えない。すると、フィアがクルールと一緒にこちらに来た。
「どうしたんでスか?」
「いや、ちょっと、盗賊を捕まえたんで…マクレイが確認しに、行った」
歯切れも悪く答える。クルールはよく分からないが楽しそうにクルクル回っている。
「いつのマに…。ナオヤさンは凄いでスね」
と、フィアが言う間に、マクレイが息も上がらず平然として戻ってきた。
「確認したよ! 凄いね! アタシには感知できなかった。てっきり、またナオが無茶苦茶やったかと思ったよ…」
ほっとしているようだ。俺もほっとしている。もう少し評価を変えていただけると嬉しいけど。
「はー良かった。怒られると思った」
「は? アタシはそんなに短気じゃないよ!」
怒ったマクレイが言ってきた。もろ短気だよね。
「そうだね。今も怒ってないよね?」
ニヤニヤしてからかう。
「む! む! あぁーーもう!」
髪をくしゃくしゃして焚き火の方へ逃げて横になった。
それからしばらくは、へそを曲げたマクレイは口を聞いてくれなかった。ホント怒りっぽいなぁ。
道沿いを旅してやがて町が見えてきた。
石造りの壁の奥に鉄でできた塔のような物が見える。これまでとは違う趣の町のようだ。
近づくと大きな鉄の門が開いている。人の出入りは多くはなさそうだが、まばらに見えている。門番はいたが、この町も外敵からの見張りのようで、通行する際には何もなかった。
門をくぐり抜け町に入る。今歩いている道が大通りのようで、いろいろな形をした建物が並んでいる。奥には遠くから見えた鉄塔がそびえていた。
「なかなか面白い町だね!」
辺りを見渡して感想を述べる。
すると一人の男が寄ってきた。三十代ぐらいだろうか、身なりも良いおじさんのようで、しげしげと俺の頭を見ると聞いてきた。
「ちょ、ちょっと、そこにいるのは妖精かな?」
「え? ああ、頭の上にいるのはそうだよ」
そうすると周りの人々が近づいてくる。なんか騒がしくなってきた。だんだんと人が集まり、皆が指をさし囁き合っている。
「妖精だ!」「初めて見た!」「ちっちゃいね!」「かわいー!!」
ザワザワしだした。なんかヤバい気がしてきた…。すると頭上から、
『ナオヤ~! なんか怖いよー』
クルールが怯えているようだ。慌てて両手でそっとクルールを包み、
「逃げるぞ!」
マクレイを見て声をかけ、走り出す。
よくわかない路地をいくつか走り抜けて後ろを振り返る。マクレイ達以外はついてきてないようだ。ほっと一安心して足を止めた。
「ナオ。大丈夫かい?」
マクレイが声をかけてきた。
「ああ、大丈夫。でも、クルールがいると目立つなぁ。どうしようか?」
手を開き妖精を見せる。クルールは怯え、キョロキョロして周りを確認している。
「そうねぇ。じゃあ、ここならどうだい?」
そう言うと俺の手からクルールを摘まみ、マクレイの胸元のネックレスを出して服の下に頭を出して入れた。
「どうだい? 苦しくないかい?」
クルールに囁く。頭だけ出したクルールは満足そうに頷いている。ちょうど顔の下にネックレスがあるのでうまく誤魔化せるかもしれない。妖精に顔を近づけ話しかける。
「よかったね! クルール。これで安心だ。でも、あまり大勢の人前では姿を見せない方がいいよ」
『うん。わかったー。人族の多い所はここにいるね!』
妖精と話している時に気がついた。この位置って、もろ胸をガン見だ。でも鎧の上からだから全然嬉しくない。あ、頭つかまれた。
「ナオ? なんか違うところ見てないかい?」
「ち、違うんだマクレイ! 今、クルールと話してたところで…」
痛たた。なんでこう、わかるんだ! なんとか話しを逸らさないと。
「それにあのネックレス! ずっとつけてくれて嬉しいな!」
はっとしたマクレイが頭から手を放し後ろを向いた。
「フン!」
耳がピクピクしてるぞ。と、そこで気がついた。背を向けているマクレイの肩をつかみ前に向かせる。
「な!」
振り向かせビックリしているが、かまわず見る。美人さんの顔の下にかわいい顔…。これは…。
「今度は何! なんだそのだらしない顔は!」
「いや、二人揃ってるとかわいさ倍増だ!」
「はあ? ちょっと!」
手を振りほどいて、また後ろを向いた。クルールがキャーキャー言って楽しそうだ。
「もウ! ナオヤさン! いい加減にしてくだサい!」
フィアが怒ってきた。…すみません。
それから宿屋を探して歩きだす。
この町では鉄の門を備えた店などがあり、訪れた町の中ではかなり高い技術があるようだ。よく見たら街灯みたいなものもあった。地域によって文化度っていうか、技術度の差がある気がする。意外にちぐはぐな世界なのか? “転移者”のせいなのか? わからん。
街を見回り宿を探す。なかなか高級そうな宿屋が並んでいる。どこに入るか迷っていると後ろから声をかけられた。
「おおっ! その後ろ姿のゴーレムは知ってるぞ!!」
全員が振り返るとそこにはボランがいた…。
「ぼ、ボランのおっさん! なんでここに?」
「おおー! 坊主! 久しぶりだな! 元気にしてたか? ここにはお宝探しで来ているんだ!」
マクレイがため息をつき、
「ああ…嫌な予感がするよ…」
そんな美人さんをスルーして近づいてきたボランは俺の肩を叩く。
「ハッハッハ! 丁度良いところで出会ったな! これぞ運命! さ! ちょっと落ち着いてから話しだ!」
「ちょっ、え?」
そのまま俺の肩をつかんで食堂へ連れていかれる。後ろを見るとマクレイ達が嫌々来るのが見れた。
飲み物を注文して落ち着いた頃、ボランが話しはじめる。
「おっし! じゃあ、いいかな? この町はブルークと言ってこの辺りでは大きいほうだ。それで、この町から二日ほど南に行ったところに湿原というか沼地があって、そこにお宝が眠っているとの情報を得た! どうだ? ワクワクしてきたろう?」
「いや、全然ワクワクしないし、情報があやふやすぎるよボラン…」
ビックリして答える。久しぶりだけど相変わらずだ、このオッサン。しかし、ボランは気にした風もなく、
「でだ。お宝の場所を確定するため、だいたい調べた。そこである地点まで絞れたが、ここからは現地に行って調べる必要がある!」
「あー、なんとなくわかってきた…」
「おおっ! わかったか! そうだ! ここは一緒に行って調べよう! 俺も運が向いてきたぞ!」
なんか前にも聞いたセリフが出たぞ。決定事項みたいに言ってるよ、このおっさん。
マクレイを見るとまるで聞いていないようにフィアと話している。クルールはキョロキョロしてるな。ロックは店の前で待ってるし。
う~ん。どうしよう?




