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35 妖精

 

 エルフの里から数日、まだ東を目指している。新たな導きがあったからだ。

 モルティットと別れて四人でいると、荒野の旅を思い出す。だが、ここは森の中。エルフの領地を抜けたがまだまだ続きそう。さすが大森林と言われる訳だ。


 今、小さな泉のほとりで休んでいる。火照った体に冷たい水が染みて気持がいい。木漏れ日の中、木の根元に横になってると眠くなってきた。………。痛て! 何かが腹に当たった。

「ほら! そんな所で寝てると体に悪いよ!」

 体を起こすとマクレイが足で俺を踏んでいる。モルティットの一件以来、当たりがきついんですけど。美人さん。

「踏んでるから! 足どけて!」

「へぇ~、今、気がついたんだ?」

 足をグリグリしだした。お腹に刺さってるから!

「まだ怒ってんの?」

「な、なんの話しだい? お、怒ってないし!」

 顔が赤くなってきてますよ、マクレイさん。後、足に力が入ってきてるから!

「もウ! お二人ともやめてくだサい!」

 フィアに両手を挙げながら怒られた。


 とりあえず、休みがてらにお昼にする。

 干し肉をほお張った時、泉の上に羽の生えた小さな人がフワフワ漂っていたのが見えた。

「マクレイ。あれ!」

 丁度、食べ物を口に入れようとしていたマクレイに指し示す。

「あ? ああ、あれは妖精だね。ここら辺は妖精達が多いんだ」

「あれが妖精かぁ。初めて見た。異世界だなーやっぱり」

 ちょっと感動した。この世界で初めて神秘的ともいえる光景に出くわしたかも。


「ナオは初めてなんだ?」

「ああ、初めて!」

「ワタシもデす!」

 フィアも初めてらしく、とても興味深そうに見ている。

「フフッ。アタシも子供の頃はよく見に来たねぇ」

 昔を思い出したのか遠い目をしながら微笑んでいる。マクレイの子供時代かー。さぞワンパクな気がした。

「きっとマクレイは見に来たんじゃなくて、捕まえに来たんだろ?」

「そ、そんな事はしないよ! 家に連れて行こうとしただけ!」

 慌てて否定している。そんなに手を振ってると手に持っている食料が飛んでいくぞ。

「プッ。一緒じゃないの? かわいいなぁ」

「はぁ? ち、違うよ! って、何言ってんの?」

 小突かれた。耳がピクピクしてる。あ、見張っているロックを忘れてた。

「ロックに気をつけるように言わないと!」

 と、ロックの方を見ると両肩と頭に妖精が何人かいて、くつろいでいるようだった…。

「ロック。…そのままでいいか」

「ありゃ(すご)いね。妖精に好かれているみたいだね」

 マクレイも関心している。元々自然の岩からできているからだろうか? わからん。

 食事も終わった頃、ロックが動き出し、ビックリした妖精達は飛び立っていった。



 しばらく森の中を進んで行くと(かすみ)がかかって、だんだん霧が濃くなってきた。

「ナオ! あんまり離れるんじゃないよ!」

 マクレイが注意してきた。すでにフィアと手をつないでいる。俺も手を出すと、

「は? 近くにいればいいの!」

 と、耳をピクピクしながら手を叩かれた。前はしたのに…。


 歩くほどに霧が濃くなってきた。まるでミルクの中をいるようだ。

 ふと横を見るとマクレイとフィアの姿が消えていた……。当然、ロックも。


「マクレーーイ! フィアーー! ロックーーー!」


 叫んだが返事が無い…。ど、どうしよう!

 一人でいると寂しい…。〈私達がいますよ〉ソイルに励まされた。

 この霧は晴れるかな? 〈この霧は魔法的な感じがしますね〉なるほど。と言ってもどうしようもない。

 ベントゥスなら霧を取り除けるかな? 〈残念ですがこれは無理です。ごめんなさい。お役に立てなくて〉いや、いいんだ。ありがとう。


 方向感覚も無く、あてどなく歩く。時間の感覚も無い感じだ。

 とりあえず、休もうと木の根を探していると草にまぎれて小さな人が倒れているのが見えた。

 こ、これは…。背中に羽がある…妖精だ。

 隣にしゃがんで観察してみたる。金色の長い髪をしたすっぽんぽんのかわいい女性の妖精。羽は四枚ある内、一枚が傷ついていた。上から落ちたのかもしれない。


 そっと指で肩を突っついてみた。

 ぴくりと少し動いたようだ。良かったー、生きている! ささやきで声をかける。

「大丈夫? 聞こえるかな?」

 と、妖精はビックリして起き上がった。俺を見て怯え、逃げようと空に飛ぼうとしてジャンプしたが、そのまま地面に落ちた…。

「ほら、ケガしてるから! これで体を拭けば?」

 (ささや)いて、ハンカチとして使っている布を差し出す。恐る恐る手を伸ばして(つか)むとサッと体を包んだ。やばい、かわいい…。なんだこれ? 歩くお人形かな? って、うちには本物の魔導人形がいたよ。


 アクアに水の玉を作ってもらい妖精の前に出す。

 最初は警戒して丸い水玉をしげしげ見てたが、指を入れて危険がないか確認していいる。指に付いた水を舐めて、安全だとわかると口をつけて飲み始めた。

 は~、良かった。一安心かな?


 水を飲んで安心したのか、近寄って来る。広げた手を下に出すと、おずおずと乗りこんできた。とりあえず、目線が合うところまで手を持ち上げて(ささや)いた。

「こんにちは。俺はナオヤっていうんだ。言葉はわかるかな? 君の名前は?」

 妖精はすごく頷いてニッコリした。これはだめかもしれない。メロメロだ。


 そして必死な身振りを始めた。お腹が空いていると解釈して妖精を膝の上に乗せ、リュックから干し肉を取り出し小さく千切って渡す。

 妖精は不思議な顔して受け取り、匂いを嗅ぎ少しかじって、しばらくほっぺを膨らませてモグモグしている。

 あ、喉につまった! 慌ててアクアに水玉を作ってもらう。すると勢いよく飲み始めた。なんか見てるだけで癒されるなぁ。

 落ち着いてホッとしている。と、なぜか怒って俺の足を蹴り始めた。な、何故?

 また、身振りをし始めた。うーん。あれかな? ゼスチャークイズ?

「えーと、家に置いてきた昼飯が気になる?」

 また蹴られた。今度はゆっくりと身振りを始めた。違うのか…

 森の向こうを指さし、大きく身振りをする。とりあえず向こうなのかな? 手のひらを差し出すと乗ってきた。

 妖精を肩に置き指された方角へ歩き始める。



 肩に乗った妖精は楽しくハミングしている。なんかすっかり警戒心が無くなってるな。

 ハミングを聞きながら森の中を歩いていると視界が開けてきた。

 前方に何か模様が見えてきた。近づきよく見てみると、まるで蜘蛛の巣のような糸が木の間を張り巡らされ何人もの妖精が絡まっているようだ。肩にいた妖精が震え、俺の髪につかまって後ろに隠れた。

 彼らを助けてほしいのかな?


 恐る恐る糸を触ると、とても粘ついている。人間でも捕らえられたら辛そうだ。と、糸から振動が伝わってきた。

 ふと上を見ると巨大な蜘蛛がいた…。複数ある目がこちらを見ている気がする。怖えぇ。

 目を離さずそっと後ずさる。大蜘蛛は音もなく糸の下まで降りてきた。全体が見えると大きさは人ほどありそうだ。

 こちらを警戒しつつ、とらえた妖精を糸で巻き始めた。俺の頭にいる妖精が髪を引っ張り蜘蛛を指さす。

 わかった。穏便にすませたいけど、その時はその時だ!


「ベントゥス!」

 ゴッ! 風が次々と糸を切り裂いた! 糸から落ちた妖精達を優しい風が抱いて大蜘蛛から遠ざける。

 大蜘蛛はなすすべなく下に落ち、オロオロしている。どこかへ行って欲しいという思いも空しく、俺に気がついたようだ。物凄い速さで向かって来た。

 あわわわ! やばい! 避けようとして逃げるが、さすが蜘蛛! 八本足は伊達じゃなく機敏に向かってくる。頭の妖精が無茶苦茶髪の毛をひっぱっている。地味に痛い。


「ソイル!」

 大蜘蛛がいる地面ごと急な高さで持ち上げると、垂直の土壁をこちらに向かって機敏に降りてきた! 鳥肌もんで怖くなってきた!

 本格的に身の危険を感じる! あわわ…。いい考えが思いつかない…。

 その場から逃げ、走り続けて巨木のところまで来ると後ろを振り返る。しかし、何もいなかった…。


 頭の後ろにいる妖精が肩に来て身振りをしている。ん? 上? つられて見ると大蜘蛛が木を伝って迫ってくる!

「シルワ!」

 降りてくる大蜘蛛に木の枝が一斉に襲い、避けられつつも一本また一本と大蜘蛛を串刺しにしていくが、尚もこちらに来る。

 やがて木の幹に枝で縫われた状態になった大蜘蛛はしばらくして動かなくなった…。ほっ。精霊主のみんなありがとう! 助かった!


 ベントゥスが助けた妖精達の所へ戻ると何人かは目を覚ましたようで、解放されて喜んでいる。俺の肩に座っている妖精も嬉しそうだ。さらに他からも妖精達が集まってきた。

 すると、綺麗な顔立ちで豪華な服を着た男の子がどこからかやって来た。子供の周りには色とりどりの妖精がフワフワと飛んでいる。なんだろう?


「ようこそ、“契約者”様。ここは妖精の集会場……」

 子供が落ち着いた渋い声で話してくる。これはちょっとビックリだ。

「こんにちは! 妖精の皆さん! 俺はナオヤと申します。あなたは?」

「すまない、名を告げるのを忘れていた。私は妖精王ヘルリオーネ。…申し訳ない、あなたの力を借りたくて幻惑の魔法を使い大蜘蛛を退治してもらった」

「あの霧は君が出したのか! (すご)いね!」

「これは、これは! お褒め頂きありがとう!」

 俺に褒められて妖精王ヘルリオーネは嬉しそうだ。


「でも、どうして自分たちで対処できないんだ?」

「妖精達は非力で私も攻撃的な魔法を知らないのだ。最近、大蜘蛛が集会所に住み着き皆が迷惑していたので、折よく近くを通った“契約者”様をここにお招きした次第なんだ」

「あー、そうなんだ……」

 なんか上手く利用されただけだな、俺。ま、目の保養になったからいいかな?


「勝手な行いに腹を立てたかと思ったが、いやはや、“契約者”様は懐が深い。お礼にこれをお収めください」

 そう言うとヘルリオーネはネックレスのようなものを差し出した。

「これは“妖精の羽”と言って、妖精達の鱗粉を固めたものだ。道中に役立ててほしい」

「ありがとう!」

 受け取ったものの、どのように使うのだろうか? 謎だ。


 それからヘルリオーネに魔法を解除してもらって、マクレイ達の所へ案内してもらった。

 心配してるかな? と言うか、ちゃんと会えるのだろうか?



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