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34 森の精霊主

 

 次の日の朝、俺達は再び建物の外へ集められた。

 使いのエルフが言うには、ジャワルドと里の者達が来てこれから説明をするそうなので待っている。

 しばらくして、マクフェムディクとジャワルドを含め数人が連れ立って来た。その中には妹さんの姿もあった。

「皆よく聞け! 我々は“契約者”と共に精霊主の元へ行く。カレン殿は村との盟約によりしばらく保護する。モルティットとマクレイディアは契約後に決める」

 マクレイの父(マクフェムディク)が説明した。なるほど、結局決められなかった、って事? マクレイの方を見ると、苦笑いで返された。なぜかモルティットはウインクしてるし。


 それから導きに従い俺を先頭に後ろからゾロゾロ皆がついてきた。いくつもの疑いの眼差しが後ろから刺さる。なんだろう? 緊張するな。マクレイが横に来て肩に手を置いた。

「後ろは気にしない! いつも通りでいいよ!」

「ああ、ありがと」

 すると反対側にモルティットが来た。

「モテモテだねぇ、ナオは。特に一人から」

 と、後ろに目をやる。つられて、ちらりと後ろをみるとマクレイの妹さんが鋭(するど)い眼で俺を睨(にら)んでいた。怖えぇ。何もしてないのに。



 多くの人を連れ立って遠足気分になったお昼頃に目的の大木に着いた。ここから強く感じる。

 すると後ろが騒がしくなった。「ご神木が…」「森の主が…」とか聞こえる。まあ、いっか。

 するとロックが出てきて大木に触れる。木が裂ける音があちこちから聞こえ、やがて大木の幹が人型にくり抜かれて出てきた。

 周りにいるエルフの里の人達が驚いている。そしてロックが肩に触ると細かい木の粒となって崩れる。また後ろが騒がしい。

 やがて地下への入り口が開いた。すると、マクフェムディクとジャワルドが出てきた。

「ここからは我らが先に行く! いくぞ!」

 そう言って、数人のエルフを連れて中へ入っていく。マクレイが呆(あき)れて、

「まったく、しょうがないねぇ」

 と、こぼしている。

 しばらくたってから、後からついていく。

 通路の奥には見慣れた円形状の広い部屋があり、中央に丸い台座がある。今、ジャワルドが乗っているが何も起きてないようだ。


 俺達に気がついたマクフェムディクが俺に詰め寄ってきた。

「なぜ何も起きない? 我々の何が足りないのだ?」

「そう言われても…。選ばれてないから?」

 思わず後ずさる。マクレイが出てきて

「父上! やめてください!」

 間に割って入る。マクフェムディクはそんなマクレイを睨(にら)む。

「何を言っている! お前はこの人族の味方なのか?」

「…っ、そうだ! アタシはこいつの従者だ! 誰にも邪魔はさせないよ!」

 マクレイは啖呵を切って剣を抜いた!


 辺りが一瞬、静寂に包まれた。マクフェムディクは後ろに下がり驚いている。俺は彼女の肩に手を当てて、

「マクレイありがとう。でも剣を収めてくれ」

 囁(ささや)いた。

 マクレイは他のエルフ達を見渡してから剣を鞘(さや)に納(おさ)めた。そして静かな声で

「見てなよ。本当の“契約者”ってやつを」

 そう言うと俺の背中を押す。

 めちゃ注目を浴びる中、ぎこちなく台座に向かう。なんか緊張してきた。少し震える足で台に上った。


 すると、強烈な光の輪が出現し、辺りを白で包んだ。

 やがて収まるとそこには神話から出てきたような美しい女性が浮いている。

「おおおおぉぉぉ! 精霊主様が現れた!」

 後ろがうるさい。こんな騒がしい契約は初めてだ。


『お待ちしておりました、導かれる者よ。私は森の精霊を束ねる精霊主。さあ、契約を』

 まるで俺しか見えてないようで視線は真っ直ぐだ。頷いて恐る恐る手を伸ばす。

『あら、言いたい事は無いのですか?』

「はじめまして! 特にありません!」

『フフ。面白い人。でもあるでしょう?』

 森の精霊主は頬(ほほ)に手を当てて困った顔をしている。

「え? ありましたっけ?」

『そうですよ。私への名前を言いたくないのですか?』

「ああ、それ! って、えーと、“シルワ”なんかどうですか?」

 森の精霊主はニッコリ微笑んで、

『そうね、いいわ。さあ、契約を!』

 俺の伸ばした手を取る。すると手に引き込まれるように入ってきた。〈皆さんよろしくね!〉〈ようこそ! シルワ!〉〈会いたかったわ〉〈よろしく!〉

 ああ、こちらも賑やかになってきた。


 契約を終え台座を降りると周りにいたエルフ達は全員、跪(ひざまづ)いていた。マクレイとモルティット、フィアとロックは立っていたので逆に目立っている。

「えーと、皆さん、顔を上げてください。終わりましたから」

 そう言うと、マクフェムディクが立ち上がり、頭を下げてきた。

「今までのご無礼、謝罪いたします。“契約者”様! 皆も許してくだされ!」

 すると、周りにいたエルフ達も一斉に頭を下げる。

「謝罪は受けましたので大丈夫です。俺はあなたがたとは敵対してるわけではないですから」

「そうか。ありがとう」

 眉の下がったマクフェムディクは両手で固く握手をしてきた。ちょっと力が強くて痛い。ああ、親子なんだな。


 それから契約した大木に近い建物に案内され歓迎を受けた。

 豪華な食事が並び昨日までの待遇が嘘のように皆、親切にされた。こういう対応にはどうも照れくさい。

 カレンはこの里にしばらく保護されるらしく、別の施設へ案内されて行った。これで一安心かな?

 長(マクフェムディク)からは説明と謝罪があった。里では“契約者”を傷つけてはいけない掟があるようで、“契約者”が契約をする前の“導きの者”と呼ばれる精霊に導かれて来る者に関しては、“邪なる者”なら亡き者へ、“正なる者”なら見守る役目があるとか。今回の事は里にとっても千年振りとの事で、伝承や伝説の書物のみが頼りだったようだ。

 そう言われても今一ピンとこないな。精霊主達に聞いても答えてくれないし…。何かあるのだろうか?


 この“導きの者”の情報は里の巫女、マクレーナが俺の出現を予言し、殺害を進言してマクレイが向かった事は昨日、姉妹から聞いた。

 そして“契約者”になった者は敬われる存在だそうだ。他の町や村でもそうだったけど、いろんな場所に知られている存在って確かに凄(すご)いな。それが俺だとはとても思えないが…。先代の契約者に興味が出てきた。どうしたんだろうか?

 マクレイとモルティットの処遇については、お咎め無しで決着した。特にマクレイが俺の従者を名乗った事が大きかったようだ。


 俺達は横に並んでテーブルの料理に舌鼓している。

 俺から右側にマクレイとモルティット、左側にフィアがいる。ロックは外で待機だ。周りにはマクフェムディクや里の有力者たちが賑やかに食事をしている。


 すらりとした背の高い美人で赤紫色の目をしたエルフの女性がこちらにやって来て、深々と頭を下げた。

「“契約者”様、初めまして、マクレイディアの母、メディアです。この度は我が一族がお見苦しい所をお見せしました」

「は、母上!」

 まじか! マクレイがビックリしている。

「お義母さん、初めまして! 田崎直也(たざきなおや)と申します。俺に娘さんを…っぐぶ」

 鬼の形相のマクレイに口を押えられた。メディアはビックリしている。


「あら、仲がいいのね。これからも娘をよろしくお願いします」

「は、母上、違うから! ナオが勝手に言ってるの!」

 マクレイが俺の口を塞(ふさ)ぎながら反論してる。むぐぐ、これじゃあ挨拶できない!

「ふふ。ずいぶん変わったね、マクレイ。…私はあなたが生きているだけで嬉しい…」

「母上…」

 そんな感動的な会話にも入れない。いい加減、手をどかしてほしい…。お義母さんは再びお辞儀をして行ってしまった。後ろ姿が見えなくなってから手を離された。


「ぷはぁ! なにするんだよ! マクレイ!」

「はあ? なんだろうね! 何言おうとしたんだい?」

「えっ!? えっと、その、つまり、マクレイと、け、け、けぶっ!」

 少しモジモジして言おうとしたら、片手で口元をつかまれた。恐ろしい顔で。

「何? 聞こえないね?」

「ふしゅー、ふしゅー」

 もうダメだ。ほとぼり冷めるまでこの会話は無理だ。マクレイの横に座っているモルティットは腹をかかえて笑っている。

「マクレイさン。その辺デ…」

 優しいフィアが止めに入った。マクレイは俺を睨(にら)んでから手を離す。

「フン!」

 それから賑やかに宴は続いた。



 翌日、旅の支度をして、マクレイの両親や他のエルフ達に挨拶をしてから里を離れた。

 もう一度、マクレイのご両親にご報告をしたかったが、怒りの美人さんに阻止された。その間、ずっと妹さんの恐ろしく刺すような視線を浴び続けた。

 その後、カレンにもお別れを言いに行くと今までのお礼を言われた。しばらくはこの里に隠れているそうだ。早く帰れるといいな!


 それから里を出てしばらく歩いたところで、モルティットが立ち止まった。

「? どうしたんだい? モルティット?」

 マクレイが後ろを振り向く。俺達も振り返った。

「私はここまで。ちょっと里にも用があるから…」

 首をかたむけて、微笑んでる。え? なんの相談も無かったのに…


「何言ってんだよ! 仲間だろ? 手伝うよ!」

 モルティットに駆け寄ってく。

「あら? 仲間だと思ってくれたの? ふふっ。嬉しいな!」

 目の前の彼女は楽しそうに言った。

「何か不味いことがあるのか? それとも他に…」

「んー。そうね、ある意味マズいかも。でも関係ないかな」

 顎に指を立てて悩んでいる風だ。どうしたらいいかわからない。後ろのマクレイを見ると困惑してるようだ。


「ふふっ。大丈夫! また会えるよ!」

 そう言うと俺に身を寄せてきて小声で、

「マクレイディアにも言ってないけど、里の者は彼女が失敗したと思って私を使いに出したの。彼女から聞いた? 私達はあなたを暗殺するために出てきたの」

「ああ、昨日マクレイから聞いたよ。モルティットもか…。でも、今は関係ないだろ?」

 なんで皆、俺を殺したがってるんだろうか? 謎だらけ。モルティットは俺の肩に手をかけ、

「それでも仲間って思われるのは嬉しいね。ふふっ。誰かさんが羨ましいなぁ」

 肩の手に力が入り、目を閉じたモルティットの顔が急接近してきた! と、口づけをされた…


 ビックリして固まっていると、

「じゃあね! また何処かで会いましょ! マクレイディアとフィアちゃんとロックも!」

 手を振って笑顔のモルティットは来た道を戻って行った…。そんな…、嬉しいけどこんな所で…


 恐る恐る振り返ると、鬼がいた。真っ赤な鬼だ! 隣にいたフィアは固まっている。

「ま、マクレイ! 聞いてくれ! 俺からじゃないから!」

「はあ? そんなのどっちでもいいんだよ! アタシは関係ないからモルティットと行けばいいじゃない!」

 なんだかよく分からないよ。どういう怒り方なの?


「マクレイ…今のは事故だって! ホント!」

「アタシは何も見てないよ! 行くよ! フィア、ロック!」

 そう言ってズンズン歩き出した。フィアはともかくロックまでオロオロしてる。

 もう、あの美人さんは! 追いかけて走る。隣に並ぶと顔を逸らした。

「ひょっとして、妬いてるの?」

「は? なんで!? 見てないから知らないね!」

 一瞬、怖い顔をこちらに向けてまた違う方に向く。でも耳がピクピクしてるぞ。


「マクレイ?」

「ああ、もう! 知らないね!」

 真っ赤な美人さんは少し歩くスピードを上げた。

 走って追いつく。


「マクレイ!」

「知らない! 知らない!」

 またスピードを上げた! もうキツい! こっちは全速力だ。


「ま、待って! マクレイ!!」

「知らないってば!」

 マクレイは一人、走って行ってしまった…。


 いったいどこに行くんだマクレイ……。



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