23 裏切り
その時、遠くから音がしてマクレイの足元に着弾した。さらに今度は火の玉が飛んできた! なんだこれ?
「ロック、フィア! 外側の奴らを無力化してくれ! 俺はマクレイを!」
走りながら指示を飛ばす。と、マクレイが火の玉を避けながら、
「ナオ! こっちに来るな!」
と叫ぶ。でも遅いよ! 相手も剣の届きそうな範囲に入ってきた。さすがにこれはマズイ!
「ベントゥス!」
マクレイを中心に猛烈な竜巻が一瞬に起こり、剣を上げていた冒険者達を一掃した。そして遠方にいる者もロックに追撃されているのが見えた。
「ナオ! こんなくだらない事で!」
「そんな事ない! ソイル!」
吹き飛んで転がっている冒険者達の下半身を地面に埋めたところでマクレイの元にたどり着いた。
「まあ、しょうがないねぇ」
肩をすくめたマクレイは埋まってもがいている冒険者の代表に近づき質問した。
「あんたら、何でアタシを狙ったんだい?」
「狙ってねぇよ! コボルトと勘違いしたんだ!」
「凄ぇな? どうやって勘違いしたんだ? 聞いていい?」
思わずツッコミを入れてしまった。マジ、こいつら何なんだ?
下半身が埋まった状態にもかかわらず冒険者は俺を脅す。
「なんだと小僧! 何もしてないのに偉そうだな!」
「こいつは精霊使いなのさ。今やったのは全てナオだよ。わかって言ってんの?」
マクレイが凄みを効かせてる。男の顔が蒼白となった。
「な、なんだと、精霊使いだと!」
「理解したかい? アタシより全然強いんだよ」
そんな事ないですけど、美人さんの方が怖いんですけど。と、ロックが二人の冒険者を引きずり、フィアと共にやってきた。
そしてこちらに軽々放り投げる。一人はローブを着た魔法使い風な男と、折れた魔導銃を持った男だった。
「お、親方ー。助けてくれ! 両足が折れて歩けねぇー」「助けてくれぇー。何でもしますから!!」
二人同時に喋るからよくわからない事になってる。
「うっさい! 黙りな!」
マクレイが魔導銃を持った男に近づき
「あんた、理由を説明しな!」
折れているであろう変に曲がっている腕を踏みながら聞く。
「いっ、痛ぁーー! 言いますから! 言いますから!」
顔面蒼白で叫ぶ男は、何度もマクレイに向かって頷いている。
「素直な男は好きだよ。早く言いな」
「親方がコボルトだけじゃ儲けが少ないから、参加してきた冒険者の身ぐるみ剥ごうって言って俺達をそそのかしたんだ! 悪いのはコイツだ!」
早口でまくしたてて、踏まれていない手を代表の男に向ける。
「なんだと! 裏切りやがったな! てめえだってノリノリだったろ!」
親方と呼ばれた代表が言い返す。そしてギャーギャー言い合いが始まった。なんかもう面倒くさくなってきた。
「マクレイ…」
「言いたいことはわかるよ。アタシも同じだよ」
ワーワー騒がしい下半身を地面に埋まった冒険者達を見ながら二人で呆れていた。
「それじゃ、黙らせて帰る?」
「そうだね。ギルドに報告もあるしね」
それから、コボルトの住処にあったロープを使って全員一か所に縛り上げ、俺達は引き上げた。
「あ! ナオー!」
サリーが村の門にいて手を振ってる。さっきのゴタゴタですっかり忘れてた。勘弁して……。
「じゃ、アタシはギルドに報告しに行くからサリーの相手をしてなよ」
「嫌味か? わかってるくせに!」
「全然わからないねぇ? じゃあ、後でね」
ニヤニヤしながらマクレイはギルドに行ってしまった。なんか最近調子が悪い、きっとマクレイをからかってないからだ。
サリーが駆け寄ってきた。
「大丈夫だった? 魔物討伐なんでしょ?」
「おいおい、ビックボアに石を投げた子が言うか!」
「へへっ!」
照れ笑いで誤魔化している。褒めてないよ?
「マクレイにイイ女になれって言われたんだろ? 精進しないとね!」
「む、頑張ってるよ! あたし!」
頬を膨らませているサリー。嬉しい気持ちは伝わってくるけどダメです。
もうこの会話だけで疲れた。助けてフィア! ロック! と、見るといない……。マクレイを追っている後ろ姿が見えた。ロックおまえもか!
「そうか、わざわざありがと。さ、宿屋に帰ろうか?」
俺の提案に首を傾げるサリー。遊びたいのかな?
「そうなの? お疲れ?」
「ああ、もう疲れたよ」
ぐったりした顔をしていると、何か納得したのか笑顔のサリー。
「じゃあ、宿屋まで送っていくよ!」
「ありがと。…ちょっと確認だけど、俺がマクレイを好きなのわかってるよね?」
「そんなのわかってるよー。でも負けないんだ!」
え? 意味がわからん。頼むから負けてくれ。ホント。
何故か手をつないで宿屋まで帰ると入口の前でお姉さんのディナが待っていた。
「こんにちはナオヤさん。妹を迎えにきました。それにあなたにお会いしたかったので」
「こ、こんにちは! わざわざすみませんが、早く引き取って帰ってください」
もう本音ダダ漏れでスミマセン。
お姉さんは気にせず笑って優しげな視線をサリーに向けている。
「フフッ! ホント面白い人ね。なんか妹がお熱だから、どういう人かなって思って」
「こんな特徴もないダメ人間です。幻滅して帰ってください」
そう言うとサリーが袖を引っ張って抗議する。
「ナオはダメじゃないよー」
「あーもう、サリーは話すな!」
お姉さんは口に手を当てて嬉しそうだ。
「フフフ…ずいぶん仲が良いわね。よかったねサリー」
この姉妹おかしいぞ。なんなんだ。早くベッドでダウンしたいところだが、大人の対応でお姉さんを交えてお茶する事になった。
「へぇ~、そういう事があったのね。マクレイさんがライバルなのね? サリー」
「うん。ライバルっていうか、ナオがあたしを好きになればいいの!」
なんつー会話だこれ。しかも本人の前で。もうすでにお茶は飲み切ってしまった。
「お姉さんからも言ってください。他に素敵な男性がいっぱいいますから、これからの出会いを大切にしましょうよ」
「あら? それは無理ね。だって、恋って燃え上がるものなの。一度ついた火はなかなか消せないの!」
「えぇー。早く消してください。一人でいっぱいっぱいなんですから!」
やっぱり姉妹だわ。思考が似ている気がする。人の説得まるで無視。
「ま、今日は面白いお話しも聞けたし、帰りますかサリー?」
「うん。わかった」
席を立って姉妹を連れて宿屋の入り口に行く。
「それではお暇いたします。さようならナオヤさん」
「それじゃあね! ナオ!」
「ああ、じゃあな!」
姉妹の背中を見送って部屋に重い足を引きずって行く。精神的に疲れた。
部屋に入るとマクレイとフィアがいた。いつのまに?
「お帰りナオ。サリー姉妹と一緒の所を見たよ」
「声掛けてよマクレイ。逃げ出せたのに」
「フフ。そうだと思った」
「ナオヤさんが優しすぎなんデす」
そう言われても。
それからマクレイが今日起きたコボルト殲滅での出来事をギルドで説明した話しを聞いた。
あの捕らえた冒険者は、ギルドから派遣した者に調べさせる事となったそうだ。このような事件は少なからずあるらしい。世の中怖いね。とりあえず、明日また行って、報酬と捕らえた冒険者の処遇を伝えるとの事だった。
「そんな訳でこの村をでるのは明後日だねぇ」
「マジかよ。あの姉妹とあと二日……。怖えぇ!」
そんな俺をマクレイはニヤニヤして見ている。
「フフ。あんたがオロオロしてるのは面白いねぇ」
「俺はちっとも面白くない! もう寝る!」
ベッドに寝転んで毛布をかぶる。
「じゃ、アタシらも寝よっか」
「はイ。そうでスね」
マクレイ達が部屋を出ようとする時、一人だけ戻ってくる音がする。
「ナオ、ありがと。さすがにあの人数はやばかったよ」
そう言って扉を閉めた。




