24 港町
「ナオー! 朝だよー!」
はっ! 目が覚めた! デジャヴ?
ガバッと跳ね起きるとそこにサリーと姉のディナがいた。
「おはようございますナオヤさん。妹から聞きましたよ、精霊使い様だったなんて。人を見る目があるのはさすが私の妹です」
「お姉ちゃん、ダメだからね!」
鋭い視線を姉に向けるサリー。
「あら? どうして? 私にもチャンスがあるもしれないじゃない」
「だからダメー!」
「それを選ぶのはナオヤさんですよ、サリー」
この姉妹、朝っぱらから人の部屋で何やってんの? 頭が回らずボケーと見てたら、
「ああ、すみません。皆さん下でお待ちですよ。さ、サリーも一緒に行きましょう」
俺の視線に気がついた姉に勝手に仕切られ、一緒に下の階にある食堂へ行った。
「おはよう、ナオ。良い目覚めだったようだね!」
「おはようございマす」
「おはよう、マクレイ、フィア。最悪の目覚めだった」
ニヤニヤしているマクレイのいるテーブルの席に着く。その隣にサリー、ディナの順に座る。ってなんでだ?
「な、なんでサリーとお姉さんがいるの?」
「あら、ディナと呼んでください。それに朝食をご一緒させていただきます」
なんで言いきってんの? すごい苦手なタイプだ、これ。
「ま、マクレイ助けて!」
「は? アタシは知らないね。自分で頑張りなよナオ! あと、ギルドの用事はフィアとロックも連れていくから、今日は仲良く過ごせば?」
にやけながら答えるマクレイ。なんかいつもの仕返しをされてるみたいだ。
「鬼か? 鬼だ!」
「どっちでもいいよ。ほら、朝飯が来たよ」
運ばれてきた朝食を口に入れる。
俺の横では姉妹とマクレイが雑談している。なんだか味がしない。きっと薄味なんだろ。塩が貴重だもんな。ハハハ…
それから今日は一日中、姉妹と過ごした。長いデートだこれ。さんざん村のあちこちに連れ回され、エミリやトリディの家に再び訪れたりした。その時トリディがそっと俺の耳にサリーは惚れっぽいから気をつけてと忠告してきた。ありがとう、でも、もう遅いんだ。早く知りたかった…。
夜ベッドでグッタリしていた所にマクレイが来て報酬と捕らえた冒険者達の顛末を教えてくれた。昨日、マクレイから報告を受けたギルドは早速現地へ人と馬車を送り状況を確認したそうだ。俺達の話しの裏付けがとれたので報酬の他にも支払われたそうだ。捕まった冒険者は全て盗賊として、ギルド追放そして牢屋にいれられたそうだ。まあ、これで一安心かな。
語り終わり、マクレイが部屋を出るとき足を止める。
「そういえば、あんたら村中で見かけたよ。ずいぶん楽しそうだったじゃないか」
「もしそう見えるんだったら医者に行ってください。マクレイさん…」
うなだれて答えると扉の影にいるマクレイが口元を上げる。
「フフ。モテる男は辛いねぇ。それじゃ、おやすみ! ナオ」
次の日、不思議とサリーとディナは朝に現れなかった。
旅立ちの準備をした俺達は、ノドリの村の門に向かう前にエミリとトリディに挨拶をしていったが、サリーは家にも居なかったので両親へ言付けして後にした。
村の門に近づくと人影が二つ見える。
こちらに気がついて手を振っているサリーとディナがすでに待っていた。
「見送りに来てたんだ。ありがと、サリー、ディナ」
「そうだよ。次に来たときにナオを後悔させるんだ!」
「フフ。妹に負けないくらい素敵な姉になってますけどね」
何を争っているんだこの姉妹。最後までこれだとお別れな気分じゃないなぁ。と、サリーが
「ナオ。こっちに来てしゃがんで」
「なに? 何かするのか?」
警戒して聞く。
「何もしないよー。いいから」
しょうが無いのでしゃがんでサリーと目線を合わせる。すると、サリーがゴソゴソとポケットから何かを出した。
「はい、これ、旅先であたしの事、思い出してね」
「これは!? ありがとう……」
それは小さな丸い板だった、俺より上手な字でサリーと刻んであり、紐を通す穴が空いていた。何だと…作ったのか……。
受け取った俺を見てサリーはビックリしている。
「え? ナオ泣いてるの?」
「ハハ、泣いてる訳ないじゃない、これは…そう、ゴミが入ったんだ…」
俺の言い訳をまるで聞いていないサリーは笑顔で聞いてくる。
「ふーん。あたしを好きになった?」
「なるわけないだろ。俺はこうゆうのに弱いんだ」
「へー。良いこと聞いた!」
と、サリーが抱きついてきた。
「ありがと、ナオ。寂しいよー!」
「泣くなサリー、俺も泣くだろ」
二人して泣いてる。子供か! 一人は子供だった!
かなり強く抱きしめらられていたが、そっと外して立ち上がる。ディナが寄ってきて両手を広げ、
「フフ。ナオヤさん、さ、次は私も」
「いや、しないし!」
門の先を見るとマクレイ達が待っていた。ええ?! もうそこまで移動したの? この場で待つという選択肢はなかったのか……。
「…サリー、ディナ。じゃあな!」
「……いつか必ず会うよ! それまで、じゃあね! ナオ!」
「ナオヤさん、またよろしくね!」
最後、変じゃない? 号泣しているサリーとニコニコしているディアを背にマクレイ達の元へ進む。
「もう、お別れは済んだのかい?」
腕を組んだマクレイが聞いてくる。その横にはフィアとロックがいる。
「ああ、大丈夫だ」
「ホント、泣き虫だよね、ナオ」
「泣いてないだろ! これは汗だ!」
「無理してまスよ。意地っ張りでスね」
「ヴ」
門に佇む二つの影に手を振って先へ続く道を歩き始めた。
道は主要道路のようで、無数の馬車によって踏み固められているため歩き易くなっていた。
ノドリの村から数日ほどの場所を今、歩いている。この道沿いに進むと港町に出るようだ。
人通りもあり、周辺を定期的に警備兵か請け負った冒険者が見回っているようで魔物の姿もいない。かなり安全なルートなので安心して移動している。
やがて丘を通る道から海が見え、港町らしき風景が目に入ってきた。
「はー、海かぁー。初めてだなー!」
「ナオって海は初めてかい? しょっぱいからゴクゴク飲むなよ?」
マクレイが優しく教えてくれる。そこまで知らないと思われているのかな?
「違うって、この世界の海って事! 塩辛いのは知ってるから!」
「ワタシは初めてデす! 大きくてキラキラしてマす!」
フィアは両手を広げて、海の大きさを測っている。無邪気だねー。
「フィアは錆びるから海に入ったらダメだよ?」
「えっ! 海って錆びるんでスか? 怖い!」
今度は身体を両手で包んでいる。なにこれ、萌えキャラ?
「ハハハ! かわいいなーフィアは」
「……今度はフィアかい? 節操なさすぎだよ、ナオ!」
「はあ? 何言ってるのこの美人さんは? 俺はずーーーーっと一人だけなの!」
俺より背の高いマクレイを睨む。美人さんは耳をピクピクさせて横を向いた。どうだこの恥ずかしい攻撃は! お互いダメージは必須だ。俺だって顔真っ赤だ。
「ナオヤさン。わかってますカら……」
フィアが俺の手を取る。なんて良い子なんだ。誰かにこの優しい素直回路を取り付けたい。
そうこうしているうちに港町が見えてきた。街の奥に船の帆が重なって見える。大きな港みたいだ。
進むうちに風が海の臭いを運んできた。今までに無い新鮮な感じだ。何か少し違うことをしたくなるような感覚を覚える。町に着いたら考えよう。
町に近づくにつれ、人や馬車とすれ違うことが多くなった。城塞都市は交易の中心だとすると、ここは玄関口にあたるのかな? どちらにせよ活気ある雰囲気が気分を向上させてくれる。
町にはすんなり入ることが出来た。
ここの門番は魔物の警護のみで、人々や荷物のチェックはしていないようだ。この場所で商品は止まらず、国内外の取引が多い為だろう。
定期航路があるか確認するため、船着き場へ行きギルドを訪れる。
ギルドで話を聞き、次の船は三日後に出るとの事だった。とりあえず予約を入れ、近くの宿屋を探しに歩いている。
「あー。ここで三日かぁ。不安でしょうがない」
「あの姉妹が追っかけてくるかもね。また賑やかになりそうだよ」
ニヤリとマクレイが顔を向ける。
「ヤメテ! そんな恐ろしい…」
「フフ。からかいがいが無いねぇ。怯えちゃって」
「マクレイさンも。追い打ちしてまスね」
そんなことをしつつ街中を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「マクレイディア? あなたなの?」
全員振り返るとそこには、背は俺ぐらいで腕以外はローブに包まれている白い肌の女性がいた。顔はローブの影でよく見えないが美人っぽい雰囲気。
マクレイは目を見開いて、かなり驚いている。
「あ、あんたは、モルティット……」
「やっぱり! マクレイディア! 久しぶりね! 聞いた話だとどこかでにっ…ぶっ!」
相手の話を遮ってマクレイがモルティットの口を塞いだ。そして、耳元に小声で囁いている。なに? なんか後ろめたい事でもあるのかな? やがてマクレイが手を離した。
「……わかった。でも、雰囲気変わった?」
「変わってないよ! そ、そうだ、彼女は同郷のモルティット。このダメ男がナオ、魔導人形がフィア、ゴーレムがロック」
それぞれを紹介していく。だが納得いかない! 片手を上げて抗議する。
「ちょっと待て。なんで紹介で“ダメ男”ってつくんだ?」
「悪い! とっさで、つい……」
慌てているマクレイは、なんか居心地悪そうだ。この人は友達じゃないのかな?
ローブの影でよく見ないがモルティットは楽しそうにしている。
「ふふっ。面白い人族ね。ナオだっけ? ちゃんと紹介してよ、マクレイディア?」
「いや、十分だよ!」
「ま、こんな所でも何だし、少し話しをしない?」
何故か俺を見て提案してきた。何これ、モテ期かな?
マクレイが間に入り焦って答える。
「な、なんでナオに聞いてるんだい? とりあえず今は宿を探してる所だよ」
「あら、それなら紹介してもいいよ」
「よ、よし! とりあえずそこに行こう! さっ、早く!」
アタフタしてマクレイはモルティットを先導させ歩き始める。
俺はフィアと顔を合わせて後をついて行った。




