13 合流
「さて、寝ようか? さ、ここにおいで!」
ベッドで横になっている俺は、毛布を上げ空いている隣をポンポン叩く。
「………」
と、無言で見ていたマクレイがフィアを持ち上げ、
「はいよ!」
「はイ?」
ベッドにいる俺の隣に横たえた。あれ? 予定と違うぞ! フィアはモジモジしている。
「じゃあ、寝ようかね…」
マクレイがフィアの隣に入って毛布を掛ける。
これは川の字ってやつだな。フィアが小さいのでなんとか三人でベッドに収まっている。マクレイの方を見ると背中を向けている。フィアは天を見て不動の格好だ。
「…もう寝た?」
「……」
「寝てるから声を掛けるな!」
マクレイはこちらに向き直って囁き声で怒っている。しかも、めちゃ赤紫色の目を見開いている。怒りんぼさんだね。
「…起きてんじゃん?」
「なんだよ、興奮して寝れないのかい?」
「あ、あのさ…」
「な……なんなの…?」
「…フィアって寝てるとき目をつぶっているの?」
「ワタシ? ワタシになんでスか!?」
フィアがビックリして起き上がった。マクレイがあきれた顔で見ている。
「ククク……」
しまった。笑いが漏れてしまった…。フィアが一目こちらを見て無言で寝直し、マクレイは再び背を向けてつぶやいた、
「アホらし…。ホント寝よ……」
目が覚めた。あれ? どういう状況? ここはベッドの下かな。床に寝てたようだ。むくりと立ち上がるとマクレイとフィアが荷物をまとめていた。
「やっと起きたかい。ナオ」
「おはようございマす」
「おはよう! 皆早いね!」
なぜ床に寝てたかは聞かない。聞くのが怖いのと、なんとなく想像できる…。とりあえず支度を済ませ、宿を出た。
食料を買いに城塞の中心部に近い市場へ行き保存食などを購入した。さすが交易の盛んな所らしく、いろいろな物が売られている。朝も遅いが、まだまだ多くの人が行き交っている。まだまだ回りたいところだが先を急ごう。門がある出入り口の方向へ近道をしようと人混みを避け路地裏へ足を向ける。
しばらく歩くと人が倒れているのを発見した!
慌ててそばに駆けつけてみるとみすぼらしい薄汚れた少女が息も荒く横になっていた。つい先ほど倒れたようだ。
「マクレイ!」
「ちょっとまって、見せてみな」
マクレイが少女の具合を見ている。少女は震えていて目も開けられないようだ。
「どう?」
「痣が体中にあるけど致命傷じゃないね。栄養が足りないんじゃないか?」
「そ、それじゃあ、水! 食べ物!」
慌てて水筒と干し肉を取り出す。
「ナオ、慌てすぎ! 干し肉は食べずらいから、やわらかい物がいいよ」
とりあえず、マクレイに水筒を渡し水を飲ませてもらう。少し落ち着いたようだ。フィアも心配そうに見ている。
「ここに留まっているのはマズい気がするから、少し離れた方がいいんじゃないか?」
「ああ、そうした方が良さそうだね」
マクレイは少女を抱いて立ち上がり、俺が先導して休めそうな場所を探した。
石畳の路地はソイルの地面レーダーと相性が良く、こちらへ向かって来る振動を避け、外側の城壁の近くで休む事にした。
「大丈夫でスか?」
「たぶんね。もうすぐ目を覚ますよ」
フィアの質問にマクレイが答える。ロックは通りを見張っているようだ。このまま誰かに見られると誤解や通報などがあるかもしれない……。
そこで皆を集めて、ソイルを使って石壁を自分達の周りに巡らせ偽装することにした。大きさは六畳ほどだが、少女を寝かせるスペースは確保できた。
「まったく、こんな芸当、なかなかお目にかかれないね!」
「それ、褒めてんの?」
「呆れてるのさ!」
マクレイが腰に手をあてて周囲を見ていた。フィアは少女の様子を見ている。ロックは…何もやる事無さそうだ。
「これからどうする?」
「どうするも、この子が目を覚まさないと始まらないよ。それに連れて外には出られないし…」
「外に出るのは考えがあるけど、まずは話を聞かないとね」
なんか、半信半疑の目で見られてる…。
「ナオの事だからとんでもないコトしそうだよ…」
「そんなコトないって!」
「あ、目が覚めそうでスよ!」
フィアの言葉に二人とも少女に近寄る。
すると、目を覚ました少女が目を見開く。
「う……こ…ここは!? きゃっ!!」
フィアを見てビックリしてる。マクレイが落ち着かせる。
「大丈夫だよ。あんたが倒れてたから、アタシ達が介抱したんだよ…」
「え!? あぁ、あの時、意識が無くなって……」
「思い出したかい? 路地裏であんたを発見したんだ」
「……はい。あたし…逃げてきて…それで、倒れたと思います…」
マクレイが手を握って落ち着かせる。そして淡々と経緯を大まかに語った。
少女──セルーナはこの城塞都市の近くにある村の娘で、たまたま一人で村から離れた時に人さらいにあったようだ。他にも何人かが捕らえられていて、人売りの為にこの都市に連れてこられたようだ。都市には裏口から入り、賊の拠点か売買所に向かう途中で魔導具である拘束具が何故か一斉に壊れたらしく、パニックに乗じて皆逃げたらしい。他の人はどうなったかわからないようだ。
見知らぬ道を走っているうちに倒れているところを俺達が発見したのは運が良かったのかもしれない。
マクレイが優しくセルーナの手を握った。
「なるほどね。大変だったね」
「うっ…うう……」
セルーナはマクレイに抱きつき肩を震わせ泣いている。
とりあえずマクレイに囁いて注意する。
(あまり強く抱きしめると、鎧の跡が顔につくぞ!)
(はあ? 何言ってんだい! 加減してるよ!)
「あノ、普通に聞こえてまスよ…」
フィアの言葉に二人とも黙る。なんかやらかした感があるな。セルーナは涙を拭きつつ顔を上げ、
「あっ、ありがとうございました。助けて頂いて。でも、フフッ、いい人達で良かった…」
「おう! 良かったな! 住んでいる村まで送って行くよ。道案内を頼めるかな?」
「はいっ。感謝します!!」
俺達の紹介を済ますと、とりあえずこの城塞都市から出る事にした。通行門から出るのはさすがに門番に止められそうなので他の方法にする。夜も更けるまで待って行動することにした。皆を後ろに下がらせ、城壁に手をあてる……。
「ソイル!」
すると、分厚い石とレンガで構成された城壁が音も無くロックも通れるぐらいの穴を開けた。外の月明かりが穴を照らす。
「よし! それじゃ行こう!」
「凄い……魔法使い様なんですか?」
セルーナは目を見開いて驚愕している。こう驚かれるのは久しぶりな気がする。
「魔法使いでもここまではできないよ! こいつは精霊使いなんだ」
マクレイが得意げに説明する。初めて褒められた気がする。
「精霊使い様……」
「とっとと行くぞ!」
キラキラした目で見ないでくれセルーナ。恥ずかしい…。マクレイもドヤ顔してるし…。
全員穴を抜け外に出ると元の通りに音も立てずに戻した。確認の為、周りを見渡すと少し離れた場所にボロいテントの影が見えた。
ちょうど人が近づいて来るようだ。暗くて詳細にはわからないが門番や衛兵ではないようだ。ソイルやアクアも特に警告しないのは危険がないからかな?
「おおーーい!! 突然現れたな~! そこのゴーレムは見たことあるぞーー!!」
近づいて来る人影から昨日の酒場で聞いた声が上がった。
マクレイがぎょっとしている。ああ、わかるわー。こういうのも運命的な出会いと言うのだろうか?
「こんばんはー!」
とりあえず挨拶してみる。マクレイは苦笑いしてるし、セルーナとフィアはマクレイの背中に隠れてる…。あれ、俺って人望ないんじゃ…。
知っているおっさんが手を上げながら近づいて来る。
「おおう! 酒場で会ったな! 覚えてるかな? ボランだ!」
「ああ、嫌だけど覚えてるよ。おっさん!」
苦笑いで答えるが、聞いてないようで上機嫌だ。
「ワハハハ! そうか! 考え直したんだな? わざわざ俺の所まで来なくても迎えにいったのによ!」
「違うって。この子を村まで送って行く途中なんだよ」
「ぬ! そうなのかー。残念! ところで村の名前は?」
分からないのでマクレイの後ろにいるセルーナを見ると、恐る恐る口を開く。
「アドの村です……」
「な!? なんと! 風の渓谷の近くの村じゃないか!! それなら道中だから俺も行こう!」
無駄に熱い……。しかも一緒に行くとか言い出してるし…。
ボランはいそいそとボロテントに戻って支度を始めた。マクレイを見ると、目で『置いて行け!』って語ってる…。でもこの手のタイプは追いかけてきそうだからなぁ。と、ぐだぐだしてたらボランが荷物を背負ってドタドタと戻ってきた。
「おおう! お待たせ! わざわざ悪いね~!」
「……どうせ来るんだろ? あっと、俺はナオヤ。こっちのゴーレムはロック。大きい女性はマクレイ。後ろにいる小さい魔導人形はフィア。もう一人が村まで送って行くセルーナ。…以上、よろしく」
一気に言った。皆それぞれ頷いたりしてる。
「おおーそうか! 皆、よろしく! それでは行こうか!」
何故かおっさんが先頭を元気に歩き始める。
嫌な予感しかしないが、とりあえずはセルーナを送ろう。俺達も後に続いて歩き始めた。




