12 城塞都市
蜃気楼がゆらゆらと背が高く大きな城壁を写している。
荒野にぐるりと巨大な壁で囲った城塞都市が揺らいでいる。さすがに何も無い荒野を一週間程進み続けたので精神的に疲弊している。導きがなければとっくに諦めているな。
今は先ほどから見えている城塞都市へ向かって歩いている。宿屋のベッドで寝ることが疲れた精神を奮い立たせる原動力となっている。
ぐったり歩いているとマクレイの叱咤が飛んできた。
「ナオ! もう少しだよ!」
「もう無理。おぶって!」
「はあ? 何言ってんだい! 尻を蹴っ飛ばすよ!」
鬼の形相で怒っている。なんでこんなに元気なんだ。しかたないので後ろを振り向きロックを見る。
「じゃあ、ロック?」
「ヴ! ヴ!」
「何故だ…ロック…。…じゃあ、フィ……は無理か」
ロックに断られ、フィアをちらりと見るがどう考えても無理。
そんな俺をフィアが励ます。
「ナオヤさン…がんばりましょウよ」
既に原動力は無くなった…。今は歩く屍のよう…。
城壁に向かって進むとやがて他所から伸びている道に出た。踏み固められた道は歩きやすく行進のスピードが上がる。
近づくにつれ城壁の巨大さが見て取れた。多少元気になり、見上げるほどの距離に来ると城壁に相応しいこれまた巨大な門が重厚感たっぷり取り付けてあった。
通常の出入り口はその横にある小さな門のようだ。そこには交易の要所らしくいろいろな荷物を積んだ機械式や木製の馬車が列をなして並んでいるのが見える。
「はぁ~、凄いね! こんな馬車なんて初めて見た!」
「ワタシもデす!」
俺とフィアは初めて見る物や人に興奮している。マクレイはニヤッと笑うと、
「ハハッ! これで驚いていたんじゃ、中に入ったらもっとビビッちまうぞ!」
「マクレイは知ってるの?」
「この城塞都市はガバンボリーって有名な所さ! 来たのは初めてだけど、噂には聞いてるよ!」
「なぁんだ、耳年増か……」
怒りのマクレイに急に耳を引っ張られた! めちゃくちゃ痛てー!
「ああん。今、何て言った?」
「いえ、違います。引っ張ると痛いから! 痛いっ!」
「へぇ、痛いんだ! このまま伸ばしてアタシの仲間になれば?」
「もう! やめてくだサい!! いつもこうなんだカら!」
フィアに怒られた。マクレイは口笛吹いて誤魔化してる…。
そうこうしている内に中に入る列に加わった。列と言っても五組ぐらいだが、門番らしき武装した男達が荷物の内容を調べたりしている。なかなか厳重なようだ。馬車に積まれている様々な荷物は穀物や野菜類、家畜類や機械など多岐に渡っているようで見飽きない。
やがて俺達の番になった。門番は二人いて、肩にライフルのような魔導銃を掛け腰に剣を帯びた格好をしている。チェックを担当しているようだ。門番は俺達をチラリと見て、
「お前達は…このゴーレムは従魔か? それと魔導人形の持ち主はお前か?」
なんと! フィアに失礼な!! 何言っているんだ?
「ちょっと!……」
「ああ、悪いね。このゴーレムと魔導人形はこいつの持ち物なんだよ! これはアタシのギルドカード! こいつで証明できるだろ?」
マクレイが横から割って入った。何故って顔をしてマクレイを見ると、ウインクで合図してきた。
「む、それでは少し待て!」
カードを受け取った門番は怪訝そうな顔をしつつ奥へ引っ込んでいった。
その後ろ姿を見送ってマクレイに文句を言う。
「マクレイ! なんで止めたんだ?」
「止めないとややっこしいだろ? ナオはさ」
ヤレヤレな仕草で答える。なんか悔しい。
「ワタシは気にしてせンよ?」
そう言ってフィアが手を握ってきた。優しいなぁ。泣けてきた…。さらに何かに気がついたマクレイが、
「それに忘れてたけど、フィアみたいな魔導人形はめったにいないから気をつけたほうがいいかもね」
「それ! 早く言って!」
しばらくして門番が戻ってきた。
「このカードは本物だな確認した。荷物はゴーレムにある分だけだな? 中で騒ぎを起こすなよ! 行っていいぞ!」
意外にすんなり通れた。そう言えば最初にいた町、アルルには門番とかいなかったな。辺境だからかな?
門番を後に城壁内に入る。
そこは広場になっていて左右に道が延びている。どちらも露店が立ち並んでいてとても賑やかな所だった。
「ふぁあー、すげー! 都会って感じだね! あれは何かな?」
「ナオ! あんまりキョロキョロしない!」
あちこち見ていたらマクレイにたしなめられる。
「そんな事言っても、マクレイも初めてでしょ? 楽しまなきゃ!」
「そういう意味じゃなくて、あまり目立つと目をつけられるよ!」
「ああ、そういう事…か。でもマクレイがいれば安心だけど?」
「あーもう! 自分の身はちゃんと守りなよ? とりあえずギルドに行くよ。金を稼がないとね」
と言う訳で、通行人に場所を聞きギルドへ向かう。
ギルドは一見酒場かと見間違う作りになっていたが中は意外と広く、銀行のように受付がいくつもあった。
マクレイは受付の一つに行き、いままで狩った魔物の牙や皮など売れそうな物を見てもらている。俺とフィアとロックは絶賛待機中だ。
周りを観察していたフィアが聞いてくる。
「ナオヤさん、ここはどういった所でスか?」
「ああ、フィアは知らないのか。ここは冒険者ギルドって言って冒険者の組合所なんだ。ここの会員になると、魔物の部位や貴金属類を買い取ってもらえたり、ギルドから金を借りたりできるんだ。って、受け売りだけど」
「他にもギルドはあるんでスか?」
「あるみたいだね。詳しくはわからないけど……」
フィアの質問に口ごもる。人に教えるほどこの世界のことは知らないし。
「あ、マクレイさンが来ましタよ」
フィアが気がつくと受付が終わったマクレイがこちらに来た。
「まったくシケてんねぇ。思ったよりも安かったよ」
そういって金の入った小袋を見せた。俺には十分多いように見える。
「ついでにフィアもナオの所有って事で登録しといたよ。ほら、カード返すよ」
俺のカードを渡された後、ギルドを出て宿屋に向かう。念願のベッドまでもう少しだ。
宿屋はギルドの近くに多くあった。よりどり選べるかと思いきや、値段が高い…。皆で相談して一部屋に泊まる事になったが、ロックは馬小屋で待機となった。ゴメンねロック。
「ナオ! 振り向いたら殺す!」
部屋の隅で壁を見ている俺。後ろではマクレイが体を濡れタオルで拭いている音がする。外で待たせるとか他にも方法があろうに…こんな据え膳……策を巡らし、さりげなく小銭を落とす。
「あ、お金を落とした…。拾わないと」
と、振り向こうとしたら、頭を掴まれた。後ろからマクレイが耳元で、
「言ったよな、アタシは。振り向くなって!」
「ち、違うんだ! 誤解だ! たまたま小銭が落ちたんだ!」
「わざとらしく落としてるのを見てたんだよ…。どうしてナオは分かり易いんだ…?」
「え? 丸わかり?」
やばい、美人さんが怖い…。全て見られていた……。
「まあ、着替えたから見ても大丈夫だけどね!」
「ふざけんな! もう一回脱げ!」
あ、景色が流れた。今、床の上に投げ出されている。すごい速さでぶん殴られた! 痛てぇ!
「その辺にしてくだサい! ナオヤさんはあやまってくだサい!」
フィアに論された。正座でマクレイに謝る。
「ゴメン…」
「フン!」
体をリフレッシュした後は食事をするため外に出て、値段が手頃な酒場に行き一通り頼んで頬張る。久々のまともな食事は美味かった。
その後はマクレイが盾をご所望だったので、武器屋に行き小さい丸い盾を購入する。魔導銃も売っていたが、余りにも高い料金だったので諦めた。その代わりフィアの魔導銃に合う魔石をいくつか買った。弾はフィアが加工できるので必要ないそうだ。
店を出た後は様々な露天などを見て回り、服などを購入した。そうしている内に日が暮れ、長い影が地面を隠しはじめる。
夕食を取るため昼に入った安い酒場で再び席に着き、注文した飲み物と食べ物が手元に並べられ食べ始める。
「ぷはー。久しぶりに飲んだ! うめー」
「ナオは酒が飲めるんだね?」
俺が久々の酒を堪能していると関心したようにマクレイが聞いてくる。
「一応、飲める年だからね! って、この世界は違うの?」
「別に酒を飲むのに年は関係ないねー。あまり小さいと親が止めるぐらいだねぇ」
「へー。マクレイはあまり飲まないんだね?」
「アタシは弱いんだよ。すぐ眠くなるから飲まないね」
「マジで? じ、じゃ! 一杯ぐらい飲もうよ! 寝たら抱いて送るから!」
めちゃくちゃ冷たい目でマクレイが俺を見る。
「ナオ! ワザとやってるでしょ?」
「また始まりまシた……」
フィアは一緒のテーブルに着いているが食事をしないので、魔石に何かをしていた。
食事も終わりしばらく雑談していたところ、
「ちょっと失礼! おたくら冒険者だろ? 俺はボランっていう探検者さ! 話を聞いてもらっていいかな?」
と三〇代後半ぐらいの髭を生やしたおっさんが割り込んできた。ずいぶんラフな格好をしている。
「“探検者”って、聞いたことが無いねぇ…」
マクレイがそう呟くと、それを聞いたボランが気をよくして、
「そりゃそうだ! 俺しか言ってないからな! いいか! “探検者”とはな、未知なる秘境や洞窟、はたまた密林の中にあるお宝を探すハンターなんだよ!」
ボランは椅子に足を乗せ握り拳を天井に突き出す格好で力説してる。冒険者と何が違うんだ…わからん。たぶん関わるとダメな気がする…。
呆れたマクレイが手をヒラヒラさせる。
「あっ、そう。他を当たって…」
「いや! 待て! まだ話は終わってないぞ! いいか! この都市の南に風の渓谷って所があるんだが、そこにお宝が眠っているって噂だ。そこで一緒に行ってくれる者を探している訳だ! どうだ? お宝は山分けだぞ! 参加は今のうちだ! どうだ!?」
圧倒的な迫力に俺達はドン引きだ。それに人を雇う金が無いからこんな所で誘っている感じがする。
「アタシらは参加しないから、余所を当たってくれよ……」
メチャ冷めた目をしたマクレイが低い声で応対する。怖えぇ。普段の怒っている顔の方がまだいいかもしれない。さすがにボランはビビッたのか、
「そ、そうか! 残念だが、次の機会に会おう!」
とか言って別のテーブルにそそくさと向かって行った。マクレイはフーっと息を吐き、俺とフィアの方を見る。
「長居しすぎたね! 帰って寝ようか?」
俺達は無言で頷き、皆そのまま宿屋に直行した。




