100 盗賊の洞窟
黒竜が空から降りてきた。俺達は手を振って歓迎する。
「まったく、こうもよく会うと別れた気もしないな」
「久しぶり! ドウェン!」
大きな顔に抱きつくとドウェンは目を細めている。嬉しいようだ。
「今回はどういった用だ? そういえば魔人族の使者がワシに名誉を称えてきたぞ。おかしな風習だな」
「たまたま近くを通っただけなんだ。ここの近くで盗賊がアジトにしていた洞窟って知ってる?」
「ふむ、知らんな。ただ洞窟と言えば、この先の山間を抜けた湿地に大きな洞窟があったな……」
ドウェンが考えながら答えると上機嫌なボランが入ってきた。
「それだ! きっとそれだぞ! ワハハハ! 重要な情報をありがとう、黒いドラゴンよ!」
笑いながらボランが先に進んでいく。ドウェンはその後ろ姿を見ながら呟く。
「世の中広いな。面白い人族もいるものだ」
勘違いしそうなので慌てて取り繕う。ボランを基準にされても困る!
「ごめん、彼は特殊だから。参考にしないで」
「そうなのか?」
「そうだから、頼むよドウェン!」
すると黒竜は笑い始めた。
「ハハハハ。なるほどな、面白いものよ」
ついでにこの先を考え聞いてみる。
「ところで、また呼んでいいかな?」
隣のマクレイに腕をつねられた。痛て! まだ内容をいってないのに! ドウェンは苦笑いしている。
「相も変わらずだな、下心が丸出しになっておる。必要になったら呼んでくれ、力になろう! ではな!」
そう言うと黒竜は空に舞い上がり山脈に向け飛び立っていった。
「ナオ! また空から行くつもりだろ!」
マクレイが怒って迫ってくるので知らんぷりしてボランの後を追う。それを見ていたモルティットがロックに揺られながら笑っている。
「大丈夫でスよ。マクレイさン」
優しいフィアがマクレイの手を握って励ましているのが見えた。お願いしますフィアさん!
ドウェンの言葉に従い山間を抜けて進んで行く、この辺りは湿気が多いようで暖かい感じがする。
「ワハハハ! 近くなってきたぞ! だがもう夕暮れだ! ここで野営するぞ!」
ボランの宣言で野営することになった。なぜいつも何でもないところだと強気なのか?
準備をして賑やかに夕食を取った後、それぞれ過ごしていると精霊主が現れた。
『こんばんはナオヤ。私とよろしいでしょうか』
「ソイル! じゃあ、フィア、後はよろしくね」
仲間に言ってソイルと散歩に出かける。ボランはビックリして目を丸くしていた。フィアが手を振っているので俺も応える。
しばらく歩いたところで沈黙していたソイルが口を開いた。
『ナオヤ、忠告していいですか?』
「え? 何を?」
『この世界の精霊は、ほぼあなたと共にいます。次の契約の後、困難に直面するでしょう』
「な、なんか怖いなソイル…」
困難ってなんだ? よくわからない。と、ソイルが優しく抱きしめてきた。
『もし、何かあっても私はナオヤと最後まで行動を共にします。それだけは信じて』
「ずっと信じてるよ。いつも頼りきりでごめんね」
満面の笑みをしたソイルが、
『フフ。あなたに会えて良かった。あのエルフ達が羨ましいわ』
そう言って離れると手をつないで散歩を再開した。クルールはちゃっかり頭の上にいて楽しそうだ。
その後は、たわいもない会話を楽しんでソイルは消えていた。
翌日、ボランの先導で湿地帯に入り、探索していくと目的の洞窟を発見した。
「なんか、想像以上にでかいな。大丈夫かなボラン?」
「ワハハハ! これぐらいでかいと財宝もでかくて運べないかもな!」
いや、そうじゃないよボラン…。
洞窟の入り口はドラゴンがそのまま入れそうな大きさだった。絶対、何かいるよね?
山にぽっかり空いた大きな洞窟へ近づく。辺りには魔物の気配は無い。
巨大な穴は今にも何か出てきそうな雰囲気をまとって、口を開けている。ホントに大丈夫か? ボランの暴走が心配だ。
ボランが罠を確認しながら洞窟内に足を踏み込む。その後を俺達はついていく。
大きい洞窟に日の光が射し込み、ある程度までは灯り無しで進むことができた。やがて曲がり角にくると急に暗くなっていった。
明かりを点け角を曲がると広い空間に出た。ソイルに感知してもらうが一定の振動以外はないようだ。……一定の振動って何?
「おおう! 匂うぞ…お宝の匂いが」
「ボラン、余り先走りしない方がいいよ?」
奥に突っ込みそうなボランをなだめる。
慎重に進んで行くと巨大な渦を巻く置物が目の前にあった。これがお宝?
よく見ようと明かりを上に向けるとヘビのような大きな顔が見えた…。詳しく観察すると、とぐろを巻いているようだ。
「ナオ、あれはヒドラだよ。少しヤバいね」
マクレイが声を落として囁いてくる。
「なんで動かないのかな?」
「たぶん寝ているんだよ。今の内に洞窟から出た方が良さそうだよ」
心配顔のマクレイは俺の肩に手を置く。ああ、一定の振動って心臓の鼓動か…。納得。
振り向いて仲間にささやき声で指示を出す。
「皆、ここから出よう! さ、早く!」
入ってきた洞窟の明るい方へ行こうとするとフィアが暗くなっている奧を指さし、
「あノ、ボランさンが行っちゃいまシた…」
「マジで!?」
驚いて奥を見ると小さな灯りがヒドラの横を通るのが見えた。無茶するなー、あのおっさん。
とりあえず皆で洞窟の角まで下がって中の様子を見守っている。
固唾を飲んで暗闇を見つめると小さな光がウロウロしてるのがわかった。やがて光が消え、しばらくするとまた光が現れた。
「これはダメでス。見つかりまシた」
フィアが囁いて教えてくれた。
「え? どういう事?」
言葉の意味を聞こうとすると暗闇の奥から咆哮が響く!
「ヴォオオオオオオオォォォ!!」
あ、わかった! ダメだこれ!
暗闇の中、小さな光がすごい勢いで上下してこちらに近づいてくる。ボランがめちゃ必死で走ってる姿が頭に浮かんだ。
「ナオ! 逃げるよ!」
「え? でも、ボランが!」
「ほっといても大丈夫。ああいう人間は運がいいから!」
マクレイが声を上げ、疑問を挟むとモルティットがウインクして言ってきた。
「あーもう! わかった! 皆、逃げよう!」
仲間が一斉に洞窟の出口へ向かい、マクレイがフィアをロックがモルティットを抱えて走る。俺も遅れないように全力疾走する。
大きな洞窟を出てしばらく離れた所で足を止め振り返る。と、ボランが躓きながらも走って来るのが見えた。
「ボラーーーン! がんばれーーー!」
叫んで手を振ると、必死な形相のボランが迫って来る。
丁度、俺達の所との中間にボランがさしかかった時、洞窟から巨大な三つ首がニョキっと出てきた。
やがて三つ首が一つの体につながり、その巨体を現す。でかい! 怖えぇええ!
ヒドラは周りを見渡し俺を発見すると三つ首の頭をこちらに向けた。え?
「ナオってさ、いつもこうだよね?」
ニヤリとしたモルティットが俺の肩を叩いた。どうして?
と、一つの頭の口が開き火炎を飛ばしてきた!
「アクア!」
怒涛の水流を火炎に当て消化しつつヒドラに浴びせると、巨体が後退し三つ首がそれぞれ水流から逃げている。
「ヴォオオオオオオオオ!」
咆哮が辺りを震わせ、ビリビリ振動する。
このまま終わりじゃないよね?




