疑問点
どこをどう走ったかわからないぐらい走って、やっと立入禁止のロープまで辿り着いた。慎也は少し腐りかけた机と椅子がある場所まで走り、やっと足を止める。店が無い西か、周りにはほとんど人はいなかった。慎也はしばらく荒い息をついていたがどうにか呼吸を落ち着けて、優奈に
「大丈夫?」
と聞いた。優奈の手足はあちこちが切れ、血が滲んでいる。優奈はしばらくしてから、やっと
「・・あの人、誰?」
とだけいう。慎也は頭を抱えていたが、
「多分・・高政由希子さん・・だと思う。」
とつぶやいた。
「知り合いなんですか!?」
優奈が驚いて顔を上げる。慎也は優奈の顔を見てから、小さく首を振った。
「オレの1つ上の先輩。あの人が2年の時に急に行方不明になって・・最初はみんな誘拐とか拉致とかいろいろ騒いでたんだけど、でもだんだんそういうのって忘れられていくもんじゃん?オレも完璧忘れてたんだけど・・。あんなとこにいたんだ・・。」
慎也はそういうと綺麗にワックスで上げていた髪をクシャクシャと掻いた。額に手を当てたまま、ハァッとため息をつく。
「とにかく・・ケーサツに電話・・。」
慎也はポケットから携帯を出した。優奈は信じられないという顔で空を見上げる。ギラギラと太陽が照りつけていた。どうして、あの人は死んじゃったの?どうして、あそこにいたの・・?優奈の頭をグルグルと同じ考えが回る。しかし慎也のイライラした声で我に返った。
「マジかよ・・圏外だし・・。」
慎也が柔らかい土の上に携帯を投げる。優奈も慌てて携帯を取り出したが、同じように圏外だった。
「何だよ、これ!ここ、そんなに電波悪くないだろ!?」
そういいながら慎也が空を見上げる。待って・・。優奈は自分にしか聞こえないような声でつぶやいた。そもそも、ここはどこ・・?山に囲まれたあの小さな集落が、どうしてこんなに広いの?今更ながら気が付いた疑問点に口の中が乾いていった。