林の奥で。
再び出店に戻ると相変わらず多くの客でにぎわっていた。千沙と菜月に何から話そうか?手を繋いだこと?キスをしたこと?優奈は自分のちょっとした進展でも我が事のように喜んでくれる2人の親友の顔を思い浮べ、ますます嬉しくなった。自然と足取りも軽くなる。
「マジすごい人だねー。それにメチャメチャ暑い。」
慎也はそういいながら、片手でTシャツに風を入れた。優奈の背中にもサマーニットが汗で張りつく。ミュールをはいた足も少し痛くなってきた。
「あ、行き止まりだ。」
慎也の声に顔を上げる。前は高い竹が生えたむき出しの林で
「立入禁止」
のロープが張られていた。気が付くとあんなに多かった人もまばらになっている。
「ちょっと行ってみよ。」
まわりに人目がないことを確認し、慎也がいった。
優奈は何か少し恐そうだと思ったし、蚊がいそうで嫌だったが、せっかく雰囲気がよくなってきた慎也との仲を壊したくなくて頷いた。慎也はロープをまたぎ、後ろを振り返る。優奈もパンツが見えないようにスカートを押さえ、またいだ。竹と竹との間は人1人通れるかぐらいの隙間で優奈は慎也の後を着いていく。
「でもホントに人いっぱいいましたねぇ。」
優奈は自分が通りやすいようにと草木を除けながら進んでいる慎也に話し掛けた。
「そうだねー。でも優奈ちゃん、地元なのに1人も知り合いに会わなかったねぇ。」
慎也が手で小さな竹をはねのけながらいう。
優奈はその言葉にハッとした。
慎也が一緒にいるから少し頭が麻痺していたが、あまり足を運んだことがないとはいえ、ここは自分が14年間育ってきた地元なのだ。ましてや今は夏休み真っ最中で、しかも今日は日曜日である。なのにあんなにすれ違った人の中に知っている顔は1つもなかった・・。改めて気付かされたその事実に恐怖すら感じた。
「ね・・ねぇ、先輩、そろそろ戻りませんか?」
優奈は自分より20センチほど高い慎也の背中に話し掛けた。すると突然慎也が立ち止まる。優奈はモロに慎也の背中で鼻をぶつけ、
「どうしたんですか?」
と尋ねた。慎也は何も答えなかったが、握り締めた拳が微かに震えている。何だろう?と優奈は体を横にずらし、慎也の前に出た。慎也の視線の5メートルほど向こうに何かが横たわっている。恐る恐る近づくと、その物体は見慣れた制服を纏っていた。白いシャツに赤いネクタイ、チェックのスカート。それは優奈が着慣れた桜庭中の制服だった。ポシェットを握り締めた手がブルブルと震える。黒い物体の正体はすでに腐敗が進んだ人間だった。制服のスカートと振り乱した長い髪で辛うじて判別できるその女の顔は目があっただろう2つの穴と口にぎっしりと蝿や蛆虫が隙間なく詰まっている。手足にも数えきれないほどの虫が集っていた。
「やっ・・」
優奈が口を押さえる。
「帰ろう。」
慎也はそういうと優奈の手首を掴み、走りだした。途中何度も手足を木や草で傷つけたが、慎也は止まらない。優奈はただただ涙をこぼしながら走った。今にもあの女に足首を後ろから掴まれそうで恐かった・・。




