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第28話 制覇動画の違和感――横浜ダンジョンに残った空白

あれから三日。


その三日のあいだ、俺たちは少しだけ戦いを休んでいた。


フィーネをこの世界に慣れさせるためだ。


いきなり全部を理解しろと言っても無理がある。

店、食べ物、家電、テレビ、ネット。

この世界は情報量が多すぎる。


だからまずは、知ってもらうことから始めた。



意外だったのは――というか、想像以上だったのは、ノエルがやたら面倒見がよかったことだ。


「いい? これがテレビ。こっちはネット。現代人は、この二つでかなりのことを済ませるのよ!」


「……てれび……は、動く少し厚めの板で……ねっと……は、見えない情報の道……でしょうか……?」


「だいたい合ってるわ!」


リビングでは、ノエル先生の現代講座が毎日のように開かれていた。


テレビ番組を見ながら、ニュースの仕組みを教える。

動画サイトを見ながら、検索の仕方を教える。

冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、ドライヤー、掃除機――ひとつひとつ使い方を見せて、フィーネが恐る恐る触る。


「ほら、このボタンで温めるの!」


「……あ、あたたかくなりました……!」


「こっちは洗濯機。服を洗ってくれる偉大な箱よ」


「……箱が……服を……?」


「現代はそういう世界なのよ」


ノエルは終始、嬉しそうだった。

教えることそのものが楽しいらしい。

しかも意外と説明がうまい。


フィーネもフィーネで、真面目に聞く。

分からないことはすぐ聞く。

覚えたことはきちんと繰り返す。


「……この世界は……便利です……でも、少しだけ……忙しいです……」


「それは正しい感想ね!」


ノエルが満足げに頷く。


正直、助かった。

俺一人じゃこうはいかなかったと思う。



そのあいだ、俺は次の行動をどうするか考えていた。


ソファに座って、他のグループのダンジョン配信を見たり、まとめサイトを回ったりする。

攻略情報、戦術、罠、ドロップ、最近の相場。


色々見ているうちに、ふと思った。


――そういえば、あの横浜ダンジョン、結局どうなったんだ?


数日前、俺たちが入った新ダンジョン。

途中でフィーネを保護して、そのまま離脱したあそこだ。


検索してみる。


すると、すぐに出てきた。


【横浜ダンジョン制覇! 最速攻略配信まとめ】


「お」


サムネイルには、見覚えのない配信パーティ。

タイトルも強い。再生数もかなり回ってる。


俺は動画を開いて、早送りしながら要所を追った。


どうやら八階らしい。


画面には、大きな両開きの扉。

その前で、リーダーらしき男がカメラに向かって説明していた。


『ここが最後の部屋、ボス部屋です!』


テンションが高い。

まあ、分かる。そこまで来たら上がるよな。


扉の前で陣形確認。

後衛が準備を始める。

前衛三人は中央、左右に散って立つ。


いい形だ。

後衛を守りつつ、包囲気味に圧をかけるつもりなんだろう。


リーダーが合図する。


『行きます!』


扉が開く。


部屋の奥にいたのは、巨大な牛頭のモンスターだった。


黒い顔。

鋭い角。

分厚い上半身。

二本の脚で立ち、大きな斧を手にしている。


「ミノタウロス」


いや、違うな。


「アステリオスか」


ミノタウロスより、明らかに格上だ。


部屋に入った瞬間、後衛が一斉にバフ魔法を飛ばす。

前衛三人が予定通り、中央と左右から距離を詰める。


戦いは十分ほど続いた。


さすがに強い。

斧の一撃が重い。

何度か前衛がまともに食らって、体勢を崩す場面もある。


でも、連携は取れていた。


正面で引きつける。

側面から削る。

後衛が回復と補助を回す。


焦らず、崩れず、少しずつ削っていく。


最後は、左右からの連携攻撃でアステリオスが膝をつき、そのまま崩れ落ちた。


『やったあああああ!!』


画面の向こうで、パーティ全員が歓声を上げる。


「分かるよ」


思わず小さく呟く。


あれは嬉しい。

間違いなく嬉しいやつだ。



討伐後、部屋の奥に台座が現れた。

その上には宝箱がひとつ。


おお、と思った次の瞬間。

前に出たのは、シーフかレンジャーらしき男だった。


そいつが宝箱の前でしゃがみ込み、慎重に調べ始める。


『罠ありますね』


やっぱりあるか。


蓋をほんの数ミリだけ開ける。

そこから細い器具を差し込み、箱の中を探るように動かしていく。


手慣れてる。

ちゃんと分かってる動きだ。


しばらくして、男が額の汗を拭った。


『解除できました』


おおーっ、と周りが沸く。


リーダーが前に出る。


『それじゃ、いきます! 3、2、1――オープン!』


蓋が開く。


中に入っていたのは――金貨の袋。

リンゴサイズの魔石が三つ。

それと、短剣が一本。


『うおおおおお!!』

『でかい!』

『魔石やば!』


パーティは大喜びだ。


その場でアプリの簡易鑑定が始まる。

ひとつ結果が出るたびに、また歓声が上がる。


魔石、金貨、短剣。


合計で、七千万円ほど。


十分すぎる大金だ。

普通に考えれば、大当たりだろう。


パーティは大興奮のまま、感想や解説をしばらく話して、動画は終わった。



でも――。


「なんか、引っかかるな」


俺は動画を止めたまま、少し考える。


七千万円。

それは大金だ。


間違いなく大金だし、あのパーティが喜ぶのも当然だ。


でも、最後にしては物足りなくないか?


俺が四階までで見つけたもの。

《王呼の鐘》と《衣透視》の魔導書。


あの二つだけで、三億の価値があった。


もちろん、道中に良いアイテムが隠されていることも多い。

それでも、どうしても違和感が残る。


“制覇報酬”としては、妙に地味だ。


何かが抜けてる気がする。



俺は、そのままダンジョンのマップを探した。


攻略済みダンジョンの情報は、すぐに市場に出る。

動画、記事、配信切り抜き、そして地図。


見つけたのはこれだった。


【横浜ダンジョン1~8Fコンプ】50万円


「五十万か」


攻略済み扱いになったせいか、値段は下がっているらしい。


いや、下がって五十万って感覚もだいぶおかしいんだけどな。


三日前までなら高いと思ったはずなのに、今は“安いかも”って思ってしまう。

価値観がバグりそうだ。


でも、買う価値はある。


俺は迷わず購入した。



表示されたマップを、ひと通り確認する。


一階。

二階。

三階。


ここまでは普通だ。

探索済みの区画が埋まっている。


そして四階。


「おかしい」


画面を拡大する。


東側の区画。

四分の一くらいが、ぽっかり空白になっていた。


不自然に、そこだけ情報がない。


ちょうど、俺が毒のトラップにかかった宝箱のある部屋――あの部屋の東側だ。


一階から三階までは、ちゃんと対応する位置に通路や部屋がある。

なのに、四階以降その区域だけ何もない。


「隠し区画か?」


そう考えるのが自然だった。


俺はそのまま、関連動画も漁った。


案の定、同じように考えたパーティは何組かいたらしい。


『ここ、絶対あるだろ』

『四階変なんだよな』

『宝箱部屋の壁、怪しくね?』


例の毒罠の宝箱がある部屋を調べている動画もあった。

壁を調べる。

壁を叩く。

床を調べる。


でも、見つけられていない。


「なるほどな」


見つけ方が、普通じゃないのかもしれない。


あるいは、罠解除や回路解析が必要なのか。


その瞬間、頭の中でフィーネの顔が浮かんだ。


『……罠感知と、罠解除、魔力回路の解析も……少し』


「行ってみるか」


独り言みたいに呟いたところで、背後から明るい声が飛んできた。


「何に行くの?」


振り向くと、ノエルとフィーネがリビングの入口に立っていた。


ノエルは当然のようにこちらへ歩いてきて、ソファの背に身を乗り出す。

フィーネはその少し後ろで、おずおずと画面を見た。


「横浜ダンジョンだ」


俺が画面を指す。


「攻略動画は出た。でも、四階以降に空白区画が残ってる」


ノエルの目が、すっと輝いた。


「オッケー。何かありそうなのね!」


早いな、話が。


フィーネも画面を見てから、小さく頷いた。


「……はい。頑張ります……」


快諾だった。


頼もしい。



その夜も、フィーネは特等席で寝た。

俺の横が落ち着くと言われると、普通に嬉しい。


俺は天井を見ながら、明日の動きを頭の中で整理した。


攻略済みのダンジョン。

空白の四階。

見つかっていない隠し区画。

そして、うちにはノエルとフィーネがいる。


――今なら、見つけられるかもしれない。



次の日。


俺たちはタクシーで、再び横浜ダンジョンへ向かった。


現地は前よりずっと落ち着いていた。

人はいる。けど、“新ダンジョン祭り”みたいな熱狂はもうない。


受付に進む。


係員が事務的に言った。


「入ダン料金は、お一人五万円です」


「安っ」


思わず声が出た。


数日前は三十万だった。

もちろん五万だって十分高い。

高いんだけど――三十万を見たあとだと、安く感じてしまう。


「攻略済みとなりましたので、料金を改定しております。現在はモンスターの発生頻度も低下しております」


なるほど。

だからか。


ノエルが横で肩を揺らす。


「感覚が壊れてるわね」


「自覚はある」


三人分を払う。


ゲートの向こうに、見慣れたダンジョンの入口が口を開けていた。


「よし。行くか」


「もちろんよ!」


「……はい……」


俺たちは、もう一度横浜ダンジョンへ足を踏み入れた。

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