表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/24

第23話 現代初体験ツアー――エルフ少女、現代の“光”に目を丸くする

例によって、タクシーで家まで帰ることにした。


後部座席で、フィーネがずっと窓の外を見ている。

街の灯りが、彼女の瞳の中で細かく揺れていた。


「……夜なのに、凄く明るいですね……」


声が小さい。けど、興味が抑えきれてない。


「それに、キラキラしてて……人も沢山います。今日は、お祭りか何かですか?」


少し間を置いて、首をかしげる。


「……それとも、ここは王都でしょうか?」


ノエルが、なぜか誇らしげに胸を張った。


「ふふん。もう! 可愛らしいわねぇ。これが現代なのよ♪」


ノエルは窓の外を指さしながら、やけに楽しそうに説明を始める。


「明るいのは“電気”のおかげ。現代のエネルギーね。

それにこの世界は、夜にモンスターも盗賊も出ない。だから人が普通に歩いてるのよ」


フィーネは、ぽかんとしたまま頷いた。


「すごいですね……夜でも明るくて、危険がないなんて……」


ノエルが、さらに張り切る。


「そう! 凄いけど、逆に気を付けないといけないこともあるのよ!

この天才天使ノエルが“先輩”として、色々と教えてあげるわね!」


「……はい。ありがとうございます……」


不安げなフィーネに、元気いっぱいで話しかけ続けるノエル。


……正直、これは天才天使だ。

俺だけだったら、タクシーの中は沈黙で気まずかったと思う。



マンション前に着いた。


フィーネは降りた瞬間、首が止まったみたいに建物を見上げる。


高い。明るい。ガラスがピカピカで、夜の光を反射して建物そのものが輝いて見える。


「……王城ですか? それとも、劇場かなにか……?」


圧倒されて、声が掠れている。


ノエルが胸を張る。


「ふふん。これが“タワーマンション”というものよ! 中も凄いわよ!」


俺は小さく咳払いした。


「……落ち着け。ここ、俺の家な」


「は、はい……」


フィーネが慌てて姿勢を正す。律儀だ。



入口の前に立つと、天井の小さなカメラがこちらを向いた。

赤い点が緑に変わり、目の前のパネルに俺の顔が映る。


枠が合う。


ピロン♪


【顔認証:OK】


ガラス扉が、音もなく開いた。


「ひぃ……!?」


フィーネが小さく跳ねる。


「……魔力を感じなかったのに、扉が勝手に開いたんですけど……」


ノエルが即座にドヤ顔。


「ふふん。これが現代の魔法“電気”よ!」


嬉しそうすぎる。説明してるだけなのに、勝ち誇ってる。


中に入ると、エントランスはホテルみたいだった。

天井が高い。床は磨かれていて、照明が柔らかい。


フィーネが声にならない息を漏らす。


「……ふぁぁ……」


そのまま、奥のゲートへ。


「フィーネ! こっちこっち!」


ノエルがゲートの手前で手招きする。


そして当たり前みたいに、自分の指をセンサーに当てた。


ピロン♪


ゲートが開き、機械音声が響く。


「お帰りなさいませ」


「ひぃっ……!?」


フィーネが反射で一歩下がる。


「……ただいま、です……! ……誰ですか? 気配がないのに、今、声が……!」


ノエルが満面の笑み。


「ふふん。声も電気の力よ! 色々と教えてあげるわね」


頼む、あんまり煽るな。フィーネの心臓がもたない。


奥へ進み、エレベーターを呼ぶ。


「1Fです」


その音声に、フィーネがビクッ!と肩を跳ねさせた。

ノエルが先に乗り込み、フィーネを招き入れる。


「大丈夫よ。食べないから」


「食べる食べないの問題じゃないと思う」


15Fのボタンを押す。


「15Fに到着しました」


扉が開いた瞬間、またフィーネがビクッ!となる。


そして――目の前に、フロアが広がった。

廊下がない。フロアに一室。


「……すごい」


ノエルが、当然の顔で言う。


「ふふん。ここがフィーネのおウチになるのよ! よろしくね!」


フィーネが、怯えたように俺を見る。


「……いいんですか? こんな王様みたいなお家で……」


「大丈夫。部屋も空いてるし、遠慮しなくていい」


「……ありがとうございます……。よろしくおねがいいたします……」


丁寧に頭を下げる。

肩がカチコチだ。緊張してるんだろう。



「もう! かたいわね!」


ノエルが手を叩いた。


「さっそく! 乾杯よ! 乾杯! 新しい仲間に乾杯よ!」


言いながら、冷蔵庫を開ける。

慣れすぎだろ。そういえば、ノエルは初日からこんなだったか。


……俺はふと気になって聞いた。


「フィーネって、何歳なんだ? 酒は飲めるのか?」


フィーネが小さく指を揃えて答える。


「……百五十才になります」


「……え」


言葉が一瞬、喉に引っかかった。


エルフ、やっぱりエルフだ。


改めて、フィーネをまじまじ見る。

細身で華奢。身長は俺の肩少し上あたり――たぶん145くらい。見た目はどう見ても十三歳前後。

少し緑がかった銀の髪が肩下まですらりと伸びていて、耳が尖っている。


顔立ちは、驚くほど整っている。

目が大きめで、どこか儚い。なのに、目尻にほんの少しだけ意思がある。

ただ……恥ずかしいのか、視線は下がりがちで、よく俯く。


ノエルが勝手にまとめる。


「じゃあ! お酒飲めるわね! お酒は二十歳以上からオッケーだし!」


「……あの……お酒は、あまり……」


フィーネが申し訳なさそうに言う。


「無理に勧めるなよ」


俺が釘を刺すと、ノエルはすぐ切り替えた。


「じゃあ! これはどう?」


赤い缶を一本取り出す。


「現代代表のジュース“コーラ”よ!」


いつ代表になったんだ。


でも、異世界人がコーラ飲む感想はちょっと気になる。


「アルコールは入ってない。試してみる? シュワシュワするけど」


「……シュワシュワ……?」


「……はい。おねがいします……」



例によって、レンジで温めるだけの料理を適当に数点選んで温めた。

テーブルに並べると、匂いだけでフィーネの目が少し丸くなる。


俺とノエルはビール。フィーネはコーラ。


「それじゃあ……新しい仲間に」


俺が音頭を取る。


「かんぱーい!」


三人の声が揃った。


ノエルが、んぐ、んぐ、んぐ、と飲む。


「ぷはーーー! やっぱり配信後のビールは最高ね!」


俺も一口飲んで――自然に、フィーネを見る。


フィーネはおずおずと、赤い缶を持ち上げ、口をつけた。


次の瞬間。


カッ!と目を見開いた。


缶をテーブルに置いて、口に両手を当て、ふるふるふるふると首を横に振る。


しばらくして、飲み込んでから必死に言う。


「く、口が……口がビリビリします……!」


舌を出して、「ひぃ……」みたいな顔。


ノエルが上機嫌に言い切る。


「これが現代の味よ! フィーネ!」


現代、怖い。


「ごめんごめん。合わなかったか」


俺は麦茶のペットボトルを開けて渡す。


「こっちはどうかな。こっちの世界のお茶だ」


「……すいません……」


いや、こっちがすいませんだ。


フィーネはおずおずと飲んで――


ぱぁ、と表情が明るくなる。


「美味しいです……! とてもすっきりしていて、優しい味がします」


「それは、良かった」


少しホッとした。


ノエルが、テンション高く叫ぶ。


「じゃあ改めて! かんぱーーーい!」


「かんぱーい」


俺とフィーネが続く。


料理も、気に入ったらしい。

フィーネは小さく「……おいしい……」と呟きながら、ひと口ごとに大事そうに噛む。

ノエルは逆に、食べるたびに解説を挟む。


「これ、塩の使い方が上手いわ」

「こっちは甘いのに重くない。ふふん」

「フィーネ、もっと食べていいのよ。徳は食卓にあるわ」


どんな徳だ。


フィーネが遠慮して箸を止めると、ノエルがすぐ皿を寄せる。

フィーネが「……ありがとうございます」と小さく言って、また食べる。

そのやり取りが、妙にあったかい。


俺はビールを置いて、息をついた。

さっきまでダンジョンで命のやり取りをしてたのに、今は台所の明かりの下で、飯を食ってる。


――こういう落差が、現代なんだろう。


フィーネの肩が、さっきより少しだけ下がっている。

怖がってるのは消えてない。けど、“ここにいていい”って思えた顔になってきた。

――それだけで、今日は十分だ。

【フォローで更新通知が届きます】

★評価・ハート・ブックマークで応援いただけると、めちゃくちゃ励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ