EP 6
【特定班】隣で苦戦してるパーティ、俺の荷物持ってませんか?
「よし、次は『翼』いってみようか」
俺はドラゴンに向けて指を鳴らした。
『解体』。
バサッ、という音と共に、ドラゴンの背中から巨大な翼膜が綺麗に剥がれ落ちる。
飛ぶ手段を失ったドラゴンは、もはや「大きなトカゲ」だ。
地面にへたり込み、涙目で俺を見上げている。
「ごめんな。でも、その翼膜、最高級のテント素材になるんだよ。野宿するとき欲しくてさ」
俺は剥ぎ取った素材をくるくると丸め、インベントリ代わりのポケット(四次元化しつつある)にねじ込んだ。
視聴者はもう、驚くのをやめていた。
『ドラゴンがかわいそうに見えてきた』
『主、鬼畜すぎて草』
『素材剥ぎ取りRTAかな?』
『【悲報】深淵の魔龍、ただの資材置き場だった』
そんな時だ。
ボスの悲鳴に怯えたのか、あるいは騒ぎを聞きつけたのか、ボス部屋の入り口付近が騒がしくなった。
「……ん? 誰か来たのか?」
俺はスマホを向けた。
高性能なカメラ機能が、自動的にズームと補正を行う。
映し出されたのは、3人の人影だった。
「くそっ! なんだよこの『アーマード・アント』の数は!」
「剛田、ポーションがないわ! もっと出しなさいよ!」
「うるせえ! あのゴミから奪った分はもう使い切ったんだよ!」
そこには、硬い甲殻を持つ巨大アリの群れに囲まれ、必死に剣を振るう男たちの姿があった。
見覚えがある。
いや、見間違えるはずがない。
「……あれ、『銀の牙』だ」
数時間前、俺を囮にして見捨てた元パーティ。
リーダーの剛田、魔法使いのレナ、ヒーラーの健太。
彼らは本来、ボス部屋の横をすり抜けて宝箱だけ回収する予定だったはずだ。
しかし、俺がボス(ドラゴン)をいじめて悲鳴を上げさせたせいで、周囲の雑魚モンスターがパニックを起こし、彼らの退路を塞いでしまったらしい。
「あーあ。苦戦してるなぁ」
俺は他人事のように呟いた。
助ける義理はない。むしろ、俺の装備を奪った強盗だ。
その時、コメント欄の「特定班」が動いた。
『おい、今の会話聞いたか?』
『「あのゴミから奪った分」って言ったぞ』
『あいつの背負ってるリュック、安物の「Fランク用標準装備」じゃね?』
『主の言ってた「奪われた装備」ってあれか!』
『確定しました。Cランクパーティ「銀の牙」です。ギルドの登録情報と顔が一致』
『うわぁ……マジで強盗殺人未遂じゃん』
『主を囮にして、自分たちは雑魚アリに苦戦とかダサすぎwww』
一瞬にして、彼らの個人情報、過去の悪評、そして現在の無様な姿が世界中に拡散された。
同接数は20万人を超え、その全員が「証人」となった。
「……へぇ、みんな詳しいな」
俺はコメント欄を読み上げながら、冷ややかな視線を彼らに向けた。
剛田が背負っているのは、俺が3年使っていたボロボロのリュックだ。
中には、妹のために買った特売のポーションが入っていたはずだ。
それを、あいつらは雑魚戦で惜しげもなくガブ飲みしている。
「……俺のポーション、返してもらおうかな」
ふつふつと、怒りが再燃する。
ドラゴン相手には「素材」として接していた俺だが、人間相手には別の感情が湧いてきた。
俺はドラゴン(翼なし・牙なし)に背を向け、入り口の方へと歩き出した。
ドラゴンは「助かった……」という顔で安堵のため息をついているが、逃がすつもりはない。後で美味しくいただく。
「おい、そこの泥棒さんたち」
俺は声をかけた。
アリの群れに揉みくちゃにされている剛田たちが、驚いてこちらを振り返る。
「あぁ!? 誰だ……って、お前!?」
剛田が目を見開いた。
死んだはずの男が、五体満足で立っている。
しかも、背後には「手なずけられた(ように見える)」ボスドラゴンを従えて。
「九条……!? なんで生きてる!?」
「幽霊!? いや、足がある!」
彼らの動揺をよそに、俺はスマホのカメラを彼らに向けたまま、ニッコリと笑った。
「配信中ですよ、剛田さん。世界中の20万人が見てます」
『えっ?』
剛田たちの顔が青ざめる。
だが、今の彼らにとって最大の脅威は、俺でも配信でもない。
目の前の『アーマード・アント』だ。
硬い甲殻は、彼らの剣や魔法をことごとく弾き返している。
「助け……おい九条! 助けろ! 荷持ちだろ!?」
剛田が叫んだ。
この期に及んで、命令形かよ。
「助ける? ああ、もちろん」
俺は右手を掲げた。
ただし、対象は「お前たち」じゃない。
「その『硬い殻』、いい素材になりそうだから貰うよ」
俺は指を弾いた。
対象:アーマード・アントの『甲殻』のみ。
「――『解体』!」
パキンッ!!
一斉に、十数匹のアリたちの装甲が弾け飛んだ。
中から現れたのは、プヨプヨとした柔らかい中身だけの姿。
「えっ……?」
剛田たちが呆然とする。
敵の防御力がゼロになった。これなら勝てる。
だが、俺の狙いはそこじゃない。
「はい、装甲は頂きました。……あとは頑張ってくださいね」
俺は剥ぎ取った「ミスリル含有の甲殻」を回収すると、くるりと背を向けた。
防御を失ったアリたちは、羞恥と怒りで真っ赤になり、攻撃力を3倍にして暴走モードに入った。
「ギャアアアアッ!!」
「ちょ、待て! 攻撃が痛い! 防御がない分、速い!」
「九条おおおおお! 戻れええええ!!」
背後で響く絶叫。
俺はそれをBGMに、視聴者に向かってウインクした。
「さて、次はドラゴンの『お肉』を解体しますか。あっちが片付くまでの暇つぶしに」




