EP 5
フロアボス『深淵の魔龍』vs 物理法則を無視するFランク
「グルルルルッ……!!」
地響きのような咆哮が、ダンジョンの壁を震わせた。
『深淵の魔龍』。
全長20メートルを超える漆黒の巨体。その瞳は金色の光を放ち、周囲の空間すら歪めるほどの魔力を放出している。
本来なら、国家レベルの討伐隊が組まれる災害級モンスターだ。
「うわ、やっぱデカいな……」
俺はスマホを掲げたまま、少し後ずさった。
画面越しの視聴者たちは、パニック状態だ。
『逃げろおおおおお!』
『終わった。これ特級指定の「ヴォルガ」だろ?』
『Fランクが遭遇していい相手じゃねえ!』
『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ』
コメント欄が高速で流れる。
だが、俺の意識は別のところに向いていた。
(喉、乾いたな……)
緊張のせいか、口の中がカラカラだ。
飲み水はさっき剛田たちに奪われたリュックの中。手持ちはない。
ゴオオオッ!!
ドラゴンの口元に、赤い光が集束する。
ブレスだ。
数千度の熱線が、俺を蒸発させようと放たれる――寸前。
「熱っ! やめろって!」
俺は反射的に手をかざした。
熱いのは嫌いだ。
この熱エネルギー、構造さえ分解すれば無害化できるんじゃないか?
炎もまた、魔力と酸素の結合体に過ぎない。
「――『解体』!」
カッ!!
放たれた極大ブレスが、俺の手のひらの前で霧散した。
いや、正確には「変換」された。
熱エネルギーが純粋な魔力還元水へと強制的に組み替えられ、青白く輝く水球となって空中に漂う。
「あ、水だ」
俺は空中の水球を両手で掬い、ゴクゴクと飲み干した。
冷たくて美味い。
高濃度の魔力が体に染み渡り、疲労が一瞬で吹き飛ぶ。
「ぷはーっ! 生き返るぅ!」
……静寂。
ドラゴンが、口を半開きにして固まっている。
視聴者のコメントも、一瞬だけ止まった。
『…………は?』
『今、ブレス飲んだ?』
『飲んだな』
『おい、今のブレスだぞ? 岩盤を溶かす灼熱の?』
『「生き返るぅ!」じゃねえよwww』
『人間やめますか? それとも人間やめますか?』
『栄養ドリンク感覚でブレス飲む奴初めて見た』
視聴者数:10万人突破。
俺が喉を潤している隙に、我に返ったドラゴンが激昂した。
魔法が通じないなら物理だと言わんばかりに、巨大な顎を開いて噛み付いてくる。
鋭い牙の一本一本が、俺の身長ほどもある大剣のようだ。
「危ないな! そういう危ないのは没収!」
俺は迫り来る牙に向かって、再びスキルを発動した。
対象は『ドラゴンの牙』のみ。
根元から分離しろ。
「――『解体』!」
ガチンッ!!
勢いよく閉じたドラゴンの口から、悲しい音が響いた。
俺を噛み砕くはずだった牙が、全て根元からポロリと抜け落ち、俺の足元に山積みになったのだ。
ドラゴンの口の中は、老人みたいに歯抜けになっている。
「グ? グガッ!?」
ドラゴンが慌てて後退り、自分の口元を前足で触る。
情けない声が出た。
「お、これいい素材になりそうだな」
俺は足元の牙を拾い上げた。
『龍王の剛牙』。
一本で億単位の価値がある最高級素材だ。
俺はそれを「とりあえず武器代わりになるか」とブンブン振り回した。
『歯ァwwwwww』
『ドラゴン可哀想www』
『虐待だろこれ』
『ブレスは飲み水、牙はおもちゃ』
『もうこいつ一人でいいんじゃないかな』
『【速報】世界最強の解体屋、爆誕』
俺は牙を構え、震えるドラゴンに向き直る。
「よし、次は肉だ。妹に美味いもん食わせてやりたいしな」
俺の目には、もう恐怖の対象としては映っていない。
ただの巨大な「お肉の塊」だ。
お読みいただきありがとうございます!
評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。




