EP 5
天然エルフの善意テロと、偽造純金(3日天下)
ポポロ村の喧騒から少し離れた、村外れの小道。
柔らかな木漏れ日が差し込む道を、高級なシルクのドレスをふんわりと揺らしながら歩く一人の女性がいた。
「あらあら〜。今日もお日様がポカポカで、絶好のお散歩日和ですわね♡ お花さんたちも、とっても元気そうですわ」
世界樹の森からやってきた次期女王候補の天然エルフ――ルナ・シンフォニアである。
彼女は、道端に咲く名もなき野花に向かってニコニコと話しかけたり、世界樹から授かった神託の杖(※先端が鋭利)で地面をツンツンと小突いたりしながら、極めてのんびりとしたペースで歩みを進めていた。
その、いかにも『世間知らずで、おだてに弱そうな、金持ちの箱入りお嬢様』の姿を。
茂みの陰から、ギラギラとした欲深き双眸で見つめる二つの影があった。
「……おい鮫島。見ろよあの女。着てるドレスの生地、どう見ても最高級品のシルクだぜ。おまけにあの頭の緩そうなニコニコ顔……まさに歩くATMじゃねェか」
タローマンのニッカポッカを履いた火原元が、ポポロシガレットを口に咥えながら下品な笑いを漏らす。
「ふふっ。私のマーケティング・アイ(ただの直感)も、彼女こそが『今日の最優良顧客』だと告げていますよ。……火原さん、さっそくアレをお願いします」
テカテカの青スーツを着た鮫島剛が、金メッキの時計を弄りながら指示を出した。
「おう、任せとけ。……【コピー】ッ!」
火原が、道端に落ちていた適当な木の枝と、捨てられていたルナミス新聞の古紙に触れ、魔力を流し込む。
シュゥゥゥッ……と安っぽい光が光り、そこに出現したのは、外見だけはやけに古めかしい『一本の掛け軸(巻物)』であった。
「……火原さん。いくらなんでも、これペラペラすぎません? 触った瞬間に裏の新聞記事が透けて見えそうですよ」
「うるせェな。俺のスキルじゃ、材質の複雑な構造までは再現できねェんだよ。見た目だけ古文書っぽくしたんだから、あとはお前の『ハッタリ』でカバーしろ」
「ええ、もちろん。現代のビジネスは『パッケージ(ガワ)』が全てですからね」
鮫島は、そのペラペラの掛け軸を恭しく両手で持ち、自身のユニークスキルである【ステータス偽装】を発動させた。
ピキィィィンッ!
掛け軸の表面に、黄金のホログラムが浮かび上がり、嘘八百のメタデータが上書きされる。
『アイテム名:【UR国宝級】世界樹の始祖が描いた伝説の掛け軸』
『効果1:所持者に永遠の美と健康を約束する』
『効果2:飾るだけで部屋のマイナスイオンが10000倍に』
『効果3:市場価格・金貨三万枚(※現在プレミアム価格で高騰中)』
「よし、完璧です。……さぁ、狩り(クロージング)の時間ですよ」
二人の悪徳転生者は、顔を見合わせてニヤリと笑うと、茂みの中からわざとらしく「おや、こんな所に……」と声を上げながら、ルナの歩く道へと姿を現した。
「そこのお美しいお嬢様! 少々、よろしいでしょうか?」
鮫島が、胡散臭い営業スマイルを全開にしてルナに歩み寄る。
「はひっ? 私ですか〜?」
ルナが、ふんわりとした笑顔で首を傾げた。
「ええ。実は私ども、世界中を巡って希少な美術品を取り扱う『サメジマ・アート・インベストメント』の者でして。……お嬢様の、その溢れんばかりの『美への造詣の深さ』と『高貴なオーラ』を見込んで、特別に見ていただきたい『極秘の品』があるのです」
「まぁ〜。私、芸術のことはよくわかりませんけれど……特別に見せていただけるんですの?」
ルナが、全く疑う様子もなくパチパチと瞬きをする。
「もちろんです! これからの時代、現金は目減りする一方です。価値の落ちない『現物資産』を持つことこそが、富裕層の真のリスクヘッジ……。さぁ、こちらをご覧ください!」
鮫島が、恭しく広げたペラペラの掛け軸。
その瞬間、ルナの視界に【ステータス偽装】によって作られた『世界樹の始祖が描いた〜』という黄金の文字列が飛び込んできた。
「まぁっ!?」
ルナは、両手で口元を覆い、感極まったような声を上げた。
「せ、世界樹様の始祖が描かれた……伝説の掛け軸!? こんな所で、そのような尊い御品にお目にかかれるなんて……私、感動いたしましたわ!」
(チョロい! チョロすぎるぜこの女!!)
火原と鮫島が、心の中で同時にガッツポーズを決めた。
「お目が高い! まさに『永遠の美と健康』を約束する、国宝級のマスターピースでございます。本来なら、王族の方々に金貨三万枚でお譲りする予定の品ですが……今日、ここで出会えた『ご縁』に免じて。……金貨一万枚で、お譲りしましょう!」
鮫島が、恩着せがましく大幅な値引き(ハッタリ)を提示する。
ルナミス帝国における金貨一万枚といえば、日本円にして約一億円に相当する莫大な金額である。
「金貨一万枚……っ。それは、とってもお買い得ですわね♡」
ルナは、嬉しそうにウンウンと頷いた。
「でも、どうしましょう。私、今日はお散歩のつもりだったので、お財布(現金)を持ってきていないんですの」
「……え?」
鮫島の営業スマイルがピクリと引きつる。
「あっ、そうだわ! お金がないなら、作ればいいんですわよね♡」
「……は?」
ルナは、道端に転がっていた『スイカほどの大きさの岩』をヒョイと持ち上げると、世界樹の杖でコンコンと叩き、何やら呪文を呟き始めた。
「森の精霊さんたち、少しだけお力を貸してくださいな……えいっ♡」
ポワァァァァァァン……ッ!!
その瞬間。
ルナが抱えていたただの岩石が、眩い黄金の光に包まれたかと思うと――次の瞬間には、混じり気のない『純度100%の巨大な金の塊』へと姿を変えていたのである。
「「…………ッッッ!!!??」」
火原と鮫島の目ん玉が、文字通りポロリと飛び出さんばかりに見開かれた。
「はい、どうぞ♡ これくらいあれば、金貨一万枚分くらいの重さになりますわよね?」
「ドスゥゥゥゥゥンッ!!」
ルナが笑顔で差し出した『数十キロの純金の塊』を、火原が慌てて受け止めようとして、そのあまりの重量に地面にめり込んだ。
「ぐおおおっ!? お、重ェ……っ! だが、本物だ……っ! 正真正銘、混じりっ気なしの『純金』だぞ鮫島ァァァッ!!」
元土木作業員の火原が、腕の筋肉をちぎれんばかりに膨張させながら、興奮の絶叫を上げる。
「む、無から金を生み出した……!? い、いや、これが高位貴族の錬金術……っ!!」
鮫島は、腰を抜かさんばかりに震えながら、その黄金の輝きに見入っていた。
詐欺商材の対価として、まさか道端で文字通りの『金塊』を錬成して支払う女がいるなど、彼らのちっぽけな想像力を遥かに超えていた。
「素晴らしいお取引ができて、私、とってもハッピーですわ〜♡ それでは、この掛け軸は大切にお部屋に飾らせていただきますね! ごきげんよう〜♡」
ルナは、火原が適当に丸めたペラペラの掛け軸を大事そうに胸に抱き抱え、ルンルン気分でスキップをしながらポポロ村の方へと帰っていった。
後に残されたのは、スイカ大の純金の塊を前にして、狂喜乱舞する二人の悪徳転生者。
「ギャハハハハハッ!! 見たか鮫島ァ! 一億円……いや、それ以上の価値がある純金のブロックだぜェェッ!!」
「やりましたね火原さん! 我々のビジネス・スキームが、ついに異世界経済を完全攻略しましたよ! こんなチョロい世界、他にありませんよ!!」
二人は、黄金の塊を撫で回しながら、涙を流してハイタッチを交わした。
ルチアナとリーザから巻き上げた『トイチの借用書』など、もはや鼻紙同然に思えるほどの莫大な富。
彼らはついに、転生者としての『大勝利』を確信した。
「おい鮫島! こんな大金手に入れたら、もうチマチマした詐欺なんてやってらんねェ! 今日は隣町のムーンキャピタルの高級キャバクラで、ドンペリタワーで豪遊だァァッ!」
「ええ! 最高のシャンパンで、我々の新会社設立の祝杯を上げましょう!!」
大金を手にした有頂天のコンビは、重い金塊を二人で必死に抱え上げながら、欲望の街へと足取りも軽く向かっていった。
――しかし。
彼らは知らなかった。
いや、知る由もなかったのだ。
天然エルフのルナ・シンフォニアが行使する【自然魔法・物質変換】。
それは、世界中の植物と精霊の力を借りて事象を書き換える、神の領域に等しい奇跡の魔法である。
だが、その強大すぎる力がゆえに、彼女の魔法にはある『絶対的な制約』が存在していた。
石を金に変える魔法の効果時間は、【正確に3日間(72時間)】。
3日が経過した瞬間、その金塊は世界樹の理によって、元の『路傍のただの石ころ』へと強制的に戻ってしまうという、恐るべき時限式の魔法(無自覚な偽造通貨の発行)であることを。
「お花さんたち、今日もいいお天気ですわね〜♡」
悪意ゼロ。
完全なる善意と天然によって引き起こされた、市場経済を揺るがす『時限式・純金テロ』。
詐欺師コンビの「3日天下」のカウントダウンは、彼らが意気揚々とキャバクラの扉を開けた瞬間から、静かに、そして無慈悲に刻まれ始めていたのである。
── 作者からの後書き ──
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第5話、ルナ・シンフォニアの「天然の善意テロ」が炸裂しました!(笑)
火原と鮫島の姑息な詐欺(ペラペラの掛け軸&ステータス偽装)に対して、「お金がないなら作ればいいんですわ♡」と、道端の石を純金(数十キロ)に変えてポンッと支払うルナ。
詐欺師のスケールを遥かに超える、エルフのお嬢様の規格外な金銭感覚です。
しかし、読者の皆様はお気づきの通り……ルナの魔法で作られた金は【3日間限定】です!
金貨数万枚相当の純金ブロックを手に入れ、「一生遊んで暮らせる! キャバクラで豪遊だ!」とイキり散らす火原と鮫島。彼らがこの金塊を使って派手に遊べば遊ぶほど、3日後に訪れる「絶望(無銭飲食)」のスケールは計り知れないものになります。
次回、第6話『キャバクラ豪遊と、リキ兄貴の鉄拳制裁』。
ついに3日が経過し、純金が石ころに戻る「お会計」の瞬間! そして、そこに居合わせたヤンキー聖獣の怒りの鉄拳が下ります!
読んでいただきありがとうございます。
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