5-1 新たな事件
長らくお待たせして申し訳ございません。
新たな章の始まりです。
今回はネットの世界の人物が何らかのトラブルで現実世界にやって来た話になります。
「えっ? これって、どういう事っ? まさか、双子っ?」
と言って目を丸くする巧実は、テーブル席の若い女性客二人を何度も見比べる。
店長の香苗だけでなく、彩も困惑した表情で若い女性客二人を何度も見比べている。
閉店前に来店した客は、大学生のような知性のある大人の雰囲気がありファッション雑誌に出てきそうな若く綺麗な女性で艶がある飴色のセミロング。
ところが、困った表情で彩が連れてきた若い女性は来店した若い女性と瓜二つ。
「私っ、目の錯覚かしら……? 巧実?」
と言って目を疑う香苗は、横並びでカウンター席に座る瓜二つの女性二人を見比べる。
着ている服装は違うが、顔立ちや髪型に加え背丈や容姿が鏡合わせのように瓜二つ。
連れてきた本人である彩も驚いた様子で、
「タク兄っ、どういう事っ? ボクが連れてきた人とお客がソックリってっ?」
と思わず言って目を丸くしながら首を痛めるくらいに何度も見比べる。
唯一の違い、若い女性客と彩が連れてきた若い女性との違いは服装のみ。
来客した若い女性は、夏らしくカジュアルな服装で体にフィットしたレギンス。
その一方、彩が連れてきた若い女性は体にフィットした白いウエットスーツのようなものを着用している。
若い女性客と彩が連れてきた若い女性は、対面すると不思議そうな顔で見つめ合う意外に言葉が出てこない。
「人って、地上に七人の自分と似ている人がいるって聞いた事が……。でも、いくらソックリでもここまでは……」
と言って驚く香苗は、見つめ合う二人の様子を伺うことしか出来ない。
しばらく、見つめ合う若い女性二人。
そのとき、若い女性客が沈黙を破るように重い口を開く。
「私っ、弟や妹なんていませんっ! 一応、兄と姉がいるけど顔すら似てませんっ!」
と思わず言う若い女性客は、目の前にいる若い女性に対して親族とは無関係だと主張。
居合わせた巧実だけでなく、香苗や彩も驚きの余りに思わず「えーっ!」と声が揃ってしまう。
さらに、彩が連れてきた若い女性の口から怯えた声で話し掛けてきた。
「一体、ここは何処……? 私、地割れに落ちて……」
意味不明の発言、彩が連れてきた若い女性は何処から来たのか謎すぎて誰もが頭が混乱するばかり状況把握が追い着かない。
そんな中、店舗のカウンター席の隅っこに置いてある古いラジオからニュースが流れる。
「次のニュースです、国家プロジェクトで開発が進められている三体のASIの内、一体のデータが消失していることが今朝の点検で確認されました。現在、関係者を総動員して消失の原因究明を試みていますが依然として原因が不明との……」
ニュースを聞いた巧実は、目を疑って彩が連れてきた若い女性を見ながら、
「もしかして、信じられないけど彩が連れてきた人って失踪中のASIっ?」
と思わず言って心当たりがあった。
当然、居合わせた彩と香苗の二人が巧実の発言を現実的にあり得ない話と、
「ちょっと、非現実的なことを言わないっ! 巧実っ、冗談だったら承知しないからっ!」
「ボク、いくらバカでメカ音痴でも常識的におかしいよ。タク兄こそ、ゲームのし過ぎで頭がっ?」
と言って真っ向から否定する。
それでも、巧実は根拠があると言わんばかりにポケットからスマホを取り出し三年前のネットニュースのアーカイブを香苗と彩の二人に見せる。
その内容は、官民一体となって開発が進められている三体のASIの公式発表の話題が掲載されていた。
三美神、三体のASI(Artificial Superintellligence:人工超知能)の俗称。
三体のASI、その一体の顔と背丈が若い女性客と完全に同じ。
その上、隣にいる彩が連れてきた若い女性の服装が失踪中のASIの衣装と同一。
唯一の違いは、青い光のラインがないだけである。
「もしかして、コスプレイヤーっ?」
と言って疑う香苗に、今まで黙っていた彩が連れてきた若い女性が重い口を開く。
「これっ、私ですけど」
その一言で、巧実だけでなく居合わせた誰もが言葉を失い彩が連れてきた若い女性とネットニュースのアーカイブを何度も見返す。
気になった巧実は、気になって彩が連れてきた若い女性に名前を聞き出す。
「しっ、失礼ですけど……。おっ、お名前は……?」
緊張しているのか、それとも禁断の領域に触れてしまうような恐怖なのか、聞き出そうとする巧実の声は震えている。
普段は活気に満ち溢れる店舗の雰囲気が、彩が連れてきた謎の若い女性に問い掛ける巧実の一言で再び緊張感が漂う静寂に包まれる。
静寂に包まれる中、彩が連れてきた若い女性は巧実の問い掛けに答える。
「ミネルバです、私」
謎の女性の一言で、ネットニュースのアーカイブを何度も見返し騒然となる。
なんと、謎の若い女性が名乗った一言で驚く巧実は思わず問い質す。
「もっ、もももっ、もしかして、あなたの仲間にユーノやクレイアと名乗るっ?」
「たっ、巧実っ! いい加減にしないと、お母さん本当に怒るわよっ!」
「タク兄っ、冗談に付き合うの止めてよっ!」
と香苗と彩の二人は、巧実が悪ふざけと思って怒った顔で注意する。
だが、謎の若い女性が頷いて間違いないと主張した瞬間、ネットニュースのアーカイブを何度も見返して本当だと確信する。
「……てっ、ことは、本物のASIっ!」
と巧実の言った瞬間、居合わせた誰もが騒然となる。
彩が連れてきた若い女性が、国家プロジェクトで開発が進められているASIの一体ミネルバに間違いないことを誰もが確信する。
「巧実が言った事って本当っ? 本当だったら大事件よっ!」
と言ってパニックになる香苗。
「でも、本当だとしても警察は信用してくれないよっ! 絶対っ!」
と言って困惑した表情を見せる彩。
そんな中、巧実の脳裏に新たな疑問が浮上する。
「彼女が、現実世界から出てきたASIのミネルバだとしよう。そうなると、ミネルバのモデルは誰っ?」
と巧実の言った疑問を聞いた瞬間、香苗と彩の二人はハッと目の覚めたような感覚の驚きの表情を見せ話し合う。
「たっ、確かに……。巧実の言う通り、モデルがいたとしても誰なのか?」
と言って香苗が不思議そうな顔で言い出すと、
「ボクも同じ事を思っていたっ! そう言えば、三体のASIのモデルって各大学のミスキャンバスから選考したことをウワサで聞いた」
と言って彩が先日に聞いたウワサ話を思い出す。
彩の証言を聞いた瞬間、巧実は話の輪に入ってこない若い女性客に目を向け、
「そう言えば、お客さん黙り込んでいるけど何か隠していないっ?」
と言って気になって問い質す。
巧実の問いに反応した香苗と彩も同様、黙り込んでいる若い女性客に疑いの目を向ける。
「水戸さん、何か隠していない?」
と言って、若い女性客の名を呼んで問い質す香苗。
すると、問い詰められた若い女性客は仕方なく正直に話した。
「実を言うと、とある研究機関からモデルの依頼を……。高額報酬に目が眩んで……」
やはり、若い女性客は隣の席に座っているASIミネルバのモデルだった。
「どおりで、顔だけでなく姿形まで一緒なのは納得できるけど……。見つけてきたボクが言うのはおかしいけど、なんでASIが現実世界に……?」
と言って、困惑した表情を見せる彩は新たな事件に巻き込まれる予感がしていた。
なぜ、若い女性客がASIミネルバのモデルになったのか?
そして、ASIミネルバが現実世界から姿を現したのは何故か?
巧実だけでなく、居合わせた香苗や彩も困惑した表情で若い女性客とAIミネルバを見比べる事しか出来ない。
三人に見つめられた若い女性客は、注目の的にされ恥ずかしそうな表情で再び黙り込んでしまう。
再び、店舗内は再び緊張感に満ち溢れる異様な静寂に包まれる。
静寂に包まれる中、ASIミネルバの証言で再び騒ぎ出す。
「私、とあるゲームを探索していると原因不明の地割れを発見して……」
「ミネルバさんっ、まさかと思って質問しますけど……。そのゲームって、ひょっとして『Gods of Sanddox(神々の砂場)』のタイトルでは……?」
と言って問い掛ける巧実は、緊張した面持ちを見せる。
巧実の質問に対して、ミネルバと名乗るASIは淡々と答える。
「はい、そのゲームタイトルに間違いありません」
その一言を聞いた瞬間、新たな頭痛の種に頭を抱える巧実。
巧実と同様、香苗や彩も驚愕と困惑が入り交じった表情でミネルバを注目する。
その時、紬久美と早希と未琴の三人が来店してきた。
「……最悪。こんな時に限って……」
と言って頭を抱える巧実。
香苗も同様、困惑した表情を崩すことなく頭を抱える巧実に指示する。
「のれん下ろして……。これ以上、巻き込まれないために……」
すると、何も言わず店先に吊してあるのれんを店内に戻し営業中の看板を仕舞う巧実。
訪れた紬久美達三人も同様に、若い女性客とASIと名乗るミネルバの二人を見て驚愕して同じ質問をする。
一体、香苗が「水戸さん」と言う若い女性客は何者なのか?
そして、自らASIと名乗るミネルバは何処から来たのか?
季節は五月の中間テスト明け、初夏を迎えようとしていた頃。
全ては、遡ること閉店三十分前に若い女性客が来店するところから始まる。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。




