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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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楓の憤怒

Dの出現により世界は変わりつつある。

とは言え、その全てが一変した訳では無く、今まで通りに社会は確実に動いている。

サービスエリアのレストランも長距離ドライバーやカップルで溢れており、その事実を実感させる。


室田一行も思い思いの食券を買い、喧騒に紛れるようにテーブルについた。

それは普通に生活する者ならば他愛の無い日常なのかも知れない。

しかし死と隣り合わせの人生を歩む楓にとっては、こんな事でも一大イベントなのだろう、余程嬉しいらしく子供の様にはしゃいでいる。


「カレー♪カレー♪カツカレー♪」

身体を揺らしながら口ずさむ彼女をメンバーは皆、苦笑しながらも温かく見つめていた。

しかしそれはメンバーだけの話であり、周囲の者達は好奇と敵意の視線を容赦無くぶつけている。


「しかし、マシンナーズも普通の食事が出来るんだな、、、」

そんな中で有働が素朴な疑問を口にした。


「当たり前でしょ、外骨格や筋肉は強化されてても、内臓は殆ど自前だもん。まあ、、、内臓まで機械化されてる連中も多いんだけどね、、、」

申し訳なさそうに、そして少し寂しそうに答えた楓。

それを受けた有働が、しまったという表情でゆるりとニコライを見る。


「イヤ・おれモ・ナイぞう・ハ・ジまえ・ダ、、、おそラク・ほか・ノ・レンちゅう・ヲ・オモい・だしタ・ノ・だろウ、、、ホンらい・カエで・は・やさシイ・からナ、、、」


「ちょっと!本来って何よ、本来ってっ!!」

褒めたつもりが失言だった事に気付き、ニコライが身を固くする。


「まあ、何んにせよ一緒に食事が出来るのは喜ばしい事った。俺達が飯食ってる横で、兄弟だけがハイオクをゴクゴク飲み出したらどうしようかと思ったぜっ!」


ゴンッ!と鈍い音が響き、有働が頭を抱える。

そんなやり取りを横目に、ヤコブが何やら思い出した様に内ポケットへと手をやった。

取り出したのは2通の封筒。

車内で室田から手渡された物である。


先程目を通した大きい方は再びポケットにしまい、小さい方の中身に目を走らせる。

「、、、e、、って何だ?」

顎に手をやり眉間に皺を寄せたヤコブ。


「Dの正体のヒントらしいんじゃが、ワシ等なりの解釈としては、、、」

室田が説明しようとしたその時、ニコライが小声で呟いた。


「どうヤラ・めし・ハ・おあズケ・に・なりソウ・だ」

ニコライはテーブルについてからも、スコープ・モードに切り換えた目で停めた車を監視していた。

そして今しがた、複数の男達が車の中を確認したのを、そしてこちらへ向かって来るのをキャッチしたのだ。


「飯が食えん?どういう意味じゃ?」

そう問う室田に、顎で入り口を指し示すニコライ。

それに誘われ皆の視線が入り口へと向いた。

すると見るからに堅気では無い風貌の男達が7名、レストランに入って来たのが見える。


「しもたぁ、、、迂闊じゃった、、、淡路島は神戸・蟹淵(かにぶち)組の本拠地じゃったのぅ、、、犯罪者は全てCランクに位置付けるっちゅうDの言葉を忘れておったわ。

こりゃあちぃとばかし厄介な事になりそうじゃな、、、」

そう言って室田が唇を噛んだ時には、ニコライ、楓、ヤコブの3名がテーブル下で銃を手にしていた。

7名の輩は真っ直ぐに室田達のテーブルへと向かって来る。


「室田教授、、、ですね?」

リーダーらしき男が腰を折りながら慇懃に問う。


「もう教授では無いが、如何にもワシが室田じゃ。そういうお前さん達は神戸・蟹淵組の者と見受けたが、、、ビンゴかの?」


「これは失礼しました。御察しの通りです。私は若頭を務めさせて頂いてます、板尾 光司と申す者、、、つきましてはこの場では何んですので、ここは何も言わずに我々に御同行願えれば、、、と」

穏やかな物言いに反し、底冷えしそうなその目付きは、見る者に十分過ぎるほど嫌悪感を与える。


「ハッ!!殺されると判ってて、おめおめとついて行くバカが居ると思うか?」

テーブル上にあった爪楊枝を口で遊ばせながら有働が毒づいた。

すると先までが嘘の様に板尾が凄む。


「三下は黙ぁっとれいっ!!」


「おほっ♪言うねぇチンピラ風情が♪」


この言葉に部下の一人がいきり立つ。

「もっぺん言うてみぃやワレッ!!」

喚きながら歩みを進めた刹那、小さいながらも鋭い風を切る音と共に、その男が顔を抑えて踞った!


「がぁっ!、、、目が、目がぁ~~っ!!」

見ると、叫ぶ男の目からは小枝が生えている。

有働が口にしていた爪楊枝を吹き刺したのだった。


思いもせぬ出来事に筋者達が呆気に取られ、その内にニコライとヤコブが動く。

板尾が気付いた時には、米噛みへと両側から銃口を突き付けられていた。

そして残りの者達が妙な動きをせぬ様にと、銃を向けた楓が制している。


「形勢逆転だなぁオイッ!?オタク等の大将の頭がスイカみたいになるのを見るか、大人しく引き下がるか、、、ご注文はどっち?」

愉しそうに言う有働の口には、新たに爪楊枝がくわえられていた。

先の事もある、、、そんな姿を見せられては極道共も下手に動けない。


しかしである、、、どこの世界にも空気を読めぬ人間というのは居るもので、一人のチンピラが腰元へ忍ばせた銃へとソロリと手を動かした。

(ヒュン!ボトリ、、、ビチャッ!!)

3つの効果音がほぼ同時に重なる。


「え、、、?」

動こうとしたチンピラが、己の足元に目をやると、そこには何やら見覚えのある物が落ちていた。

(??)

更に目を凝らしその正体に気付くと、途端に熱と痛みが男を襲うっ!!


「み、耳ぃ~~っ!お、俺の耳ぃ~~っ!!」

あるべき物が無くなった場所に手を当て、気が狂った様に喚き散らす男。

その手の隙間からは脈打つ様に血が湧き出ていた。


「あら、、、ごめん。手が滑ったみたい」

抑揚無く楓が呟いた。

右手のハンドガンで男達を制しながら、左手で抜いたナイフで男の耳を削ぎ飛ばしたのだ。

そして機械の様なその口調のまま、更に男達へと告げる。


「言っとくけど、アンタ達のせいで今の私、メチャクチャ機嫌悪いから。なんたって楽しみだったカツカレーが食べれないんだからね、、、食べ物の恨みは怖いって事、その身体に教えてあげようか?」


ニコリともしないのは勿論、声を大きく荒げるでも無い、、、

その様は下手に凄むよりも数段恐ろしい。


ここでようやく室田が立ち上がり、板尾へと歩み寄る。そして耳元へと口を寄せるとこう囁いた。

「お主の希望は叶いそうじゃな、、、ただし同行するのはお前さんの方じゃが、、、な」

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