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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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「いよいよ始まりましたな、D様」


「フム、、、さてさてどうなる事やら。楽しみで胸が踊っておるよ。時にJJよ、、、お主、何を策しておる?」

問い掛けの内容に反して、その表情は咎める物では無く、むしろ楽しんでいる様ですらある。


「はて?、、、と、言いますと?」

対するJJは眉間に人差し指を当て、絵に描いた様な(とぼ)け顔でそう答えた。


「あの時、、、室田教授と話したあの時の事だよ。お主が壁を這う虫に何度も触れておった事、、、我が気付かなかったとでも?

あれはワザとであろう?連中に対してメッセージを送った、、、違うかな?」


「さあ?何の事やら、、、私には全く、、、」


「フッフッフッ、、、まぁ良いわ。お主のそういう所もこのゲームの余興となり花を添えよう」

Dの言葉に涼やかな笑顔で(こうべ)を垂れるJJ。

否定を続けていた言葉とは裏腹に、その態度はDの推測を肯定している様である。


「しかしJJよ、、、何やら照れの出る物だな」


「は?」


「この互いの呼び名だよ。およそ600年近くに渡る付き合いの我等がDだのJJだのと、、、

なかなかに慣れぬ物よ」

鼻の頭を掻きながら顔を歪めるとDは、手にしていた赤ワインを一息に飲み干した。


「フフッ仕方ありますまい。私はともかく、貴方様は有名人、、、部下にも一部の者にしか貴方様の正体は教えておりません。

それ故どこで聞かれるか判らぬ以上、バレぬ様こうして名を変える以外に方法は、、、」


「どうせいずれは明かす正体だ。今バレたとて痛くも痒くも無いのだがな」


「なりませぬ。人間は得体の知れぬ物に畏敬の念を抱く物、、、ミステリアスを演出する為にも今暫くの我慢を、、、」

それを聞き、鼻を鳴らしながら空のグラスに自らワインを注ぐD。


「あまり飲み過ぎになられると、、、」

JJが控え目にそれを咎める。


「まあ今は良いではないか。いずれ嫌でも暫く飲めぬ時が来る、、、それとも何か?我が酔うたならお主が寝首でも掻いてくれるかね?」


言われたJJが初めて動揺を見せ、見ていられない程に慌てながらそれに答えた。

「ま、まさかまさかっ!貴方様を滅っせる者など、今の所この世にはおりますまいてっ!

ましてや忠誠を誓った私ごときが、、、

あり得ませぬ、、、」


「フフ、、忠誠、、、ね。

まぁ良いわ。とにかくこの酒というのは人で無くなった今も止められぬ、、、習慣というのはげに恐ろしき物よな」


2人の間で常となっているらしい、駆け引きや腹の探り合い、、、それを制したDが、どこか誇らし気に、そして愉しそうにそう呟いた。


「しかしD様、何故(なにゆえ)こんな回りくどい事を?室田氏はようやく見付けた逸材、、、お会いになりたいならば、こんな試練を与えずとも普通にお迎えした方が、、、」

ようやく平静を取り戻したらしきJJが、更に平静を取り繕いながら問う。


「JJよ、、、お主も知っていよう?

我が欲深く、嫉妬深い事を。

故に長年に渡り、優れた人物を取り込んで来た!、、、自分より優れた者の存在を許せなかった!、、、その才能を我が物としたかった!

しかしだ、不死となり無数の才能を手中にした今、我はようやく気付いた!」

Dはここまで一気に捲し立てると、クールダウンするかの様に喉へとワインを流し込んだ。

そして今度は静かに口を開く。


「夢、、、それは追っているからこその夢。

しかし縛られた時点でそれは呪いになるという事に、、、我は呪われていたのだよ。

もうよい、、、もう疲れた。

生き続ける事は死ぬよりも辛く苦しい。

そんな簡単な事に気付くのに長い年月をかけてしまった、、、

しかし、それに終止符を打ってくれそうな者がようやく現れた、、、

お主の言う通り、それが室田教授だ」

ここまで言い、再びワインで舌を濡らすD。

JJは黙って続弁を待っている。


「だがしかしだ、、、我に終焉を与えるならば、それなりの人物でなければならん。

数多の試練を乗り越えて我の元へ辿り着く、それ位の能力は持っていて貰わねばな。

このゲームはその為の試金石なのだ。

もしダメならばやむを得まいよ、適した者の出現をまた数百年でも待つ、、、それだけだ」


遠い目で語るDに対し、数回頷いたJJ。

そして慇懃に腰を折ると、一言だけ答えて見せた。

「イエス ユア マジェスティ(御意のままに)」


その返答を聞き、残りのワインを飲み干すとDは、JJへと微笑みかけ

「お主の策、、、今度はどんな裏切りを見せてくれるのか、それも楽しみにしておるぞ」

そう言葉を投げ掛ける。


腰を折ったまま無言でそれを聞いていたJJ。

Dの位置からその表情は見て取れないが、床を見つめる顔は口角が上がり、それは確かに嗤っていた。

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