表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

勇者の花嫁

異世界トリップものです。勇者×女子大生。

 前略


 お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ついでに最後まで私には懐いてくれなかった飼い猫のミーシャ。

 お元気ですか?

 私は元気です―――一応、身体だけは。


 私は今、アディヨーシャという国のとあるでっかいお屋敷で生活しています。

 衣食住に不自由はありません。

 この屋敷の主人は身分だけはやたらと高いので――ついでに態度もでかいです――その彼に保護されている形の私は他の人から見たら恵まれた生活を送っていると思われます。

 

 この国では日本と同じように四季があって、今は春のようです。

 花が咲く季節になったと屋敷の執事のオーフェンさんが言っておりましたから。

 現にこの屋敷の庭には色とりどりの花が咲いています。

 庭師が丹精込めて咲かせた花から、この屋敷の主人に仕えている魔術師が自分の趣味で本来ならこの国では咲かないハズの南国の花を魔法で咲かせたものまで。

 それはもう色とりどりと。

 ちなみに魔法で咲かせた南国の花の中には馬鹿みたいに大きいラフレシアやショクダイオオコンニャクみたいな強烈な臭いのするものもあって、屋敷中の顰蹙ひんしゅくをかっていたようですが――――。

 あ、ご心配なく。

 その魔法使いが責任持って消臭の魔法を掛けたみたいなので、今は臭くないです。


 ところで私、魔法のことについて書きましたっけ?

 

 ―――あああ、魔法どころかこの国、いや世界のことすら説明してないですね、私!


 聞いたこともないアディヨーシャという国とか。

 魔法とか魔術師とか。

 ファンタジーでちょっと痛い感じの単語が出てきて、私の頭の中身について疑ったかもしれませんね、皆。

 

 でも!

 正気です。

 残念ながら妄想や夢の話ではないです。

 正気じゃなかったら、妄想の中の出来事だったらどんなによかったことか!

 この世界に召還されて、何度も思いました。

 これは夢。現実じゃない。妄想で、そのうち覚めるんだと。

 でも現実でした。


 そう。

 ここは異世界です。

 まるでファンタジーの世界なのです。

 剣と魔法と、魔王と勇者の世界なのです。


 あああ、正気を疑わないで下さい!

 本当なんだから!


 あの日のことを覚えてますか、お母さん。

 大学に入ってすぐの日曜日です。

 あの日、高校の時の友達と花見に行くって言って出かけましたよね、私。

 待ち合わせは元高校の近くにあった公園―――あそこに桜が植えられていたから―――でした。工場地帯で日曜ともなると閑散となるからあの公園は穴場だったのです。

 いつもより早く家から出た私は一番乗りで公園に着きました。今はいつものようにギリギリに出かければよかったと心底後悔してますが。

 待ち合わせの一番大きな桜の木の下でボンヤリ空を見上げていた時です。

 足元が突然光ったのは。

 え?と思って見下ろすと、私を中心に幾重にも重なった円とその間に描かれた光の文字―――あとで分かったことだけど、それは召還の魔法陣でした―――が地面に浮き出て「なんだろこれ?」と思う間もなくいきなり視界が闇に閉ざされました。

 で、気がついた時には金髪の超絶美形が目の前にいたのです。


 金髪美形の名はアレクセル・ラフィーナ・エル・ディロス。

 長いので私はアレクと呼んでいます。

 否。

 愛称で呼ぶことを許してやると偉そうに言われて、内心「ケッ」と思いながら使ってます。


 彼がこの屋敷の主で、この国の有力な貴族の一人であり、この世界の―――勇者です。


 ええと、どうして彼が勇者なのか簡単に説明しますと―――。

 ここ近年、魔族の勢いがすさまじく、その頂点に立つ魔王の存在はこの世界の人間にとって大変脅威だったそうです。

 その魔王を討つ為に神がこの地に誕生させた――という神託があったらしい―――唯一光の魔法が扱えるという勇者が彼、アレクで。

 その期待に応えて彼は仲間と一緒に魔族討伐の旅に出かけ―――見事魔王を討ち取ったそうです。 


 ああああ。痛い子だと思わないで!

 生暖かい目で見ないで!

 私もあまりのベタな設定にそんな世界に召還された自分が恥ずかしかったくらいなんだから!

 

 だけどこれも本当の事、らしい。


 らしいというのは本人も言ったし、誰もが彼を勇者だ、英雄だ、神子だと言うから。

 私は実際には彼の勇者としての戦いぶりを見たわけではないのです。

 でも、まぁ、いろいろありまして、彼の実力は不本意ながら認めざるを得ないわけで……。


 とにかく、魔方陣によってこの世界に飛ばされた私の目の前にいたのが彼だったのです。


 ここまで説明して、なぜ私が召還されたか不思議に思うでしょう?

 だって異世界トリップは魔王と魔族の脅威に晒された世界を救うため、他力本願よろしく勇者を異世界から召還するというのが定番。

 だけどこの世界の人たちは自前の勇者で脅威を退けたわけでしょう?

 魔王を失い、勇者の圧倒的な力の前に魔族は壊滅寸前になり、今は平和そのもののこの世界で、異世界から人を召還する理由が分からない。

 しかも、つい先日まで高校生やってた平凡な大学生の私をですよ?

 これは何かの間違いか、勘違い――いや、人違いに違いないと喚く私に金髪碧眼超絶美形の勇者が言った召還の理由に、私は今まで生きてきて一番のショックを受けました。

 彼は―――自分の花嫁を召還したのだと言ったのです。


 なんだそりゃ!


 そう思いますよね?

 私も思いましたよ。


 彼が言うには、魔族は壊滅状態にあるけどいつまた魔力の強い者が現われて活性化するか分からない。

 自分が生きている間はいいが、死んだ後にまた魔王が出てきた時に光の魔力を継承する人間がいないと困る。なぜなら魔族を消滅させることが出来るのは光属性の魔法だけだからだ。

 ところがこの世界には自分以外には光属性の魔力を持つ人間は存在せず、異なる属性の魔力を持った女性との間に子供を作ったとしても光属性を持つかどうかは分からない。

 だから確実に光属性の魔力を持つ子孫を残す為に、光の魔力を持った女性を異世界から召還したのだと。


 ええと、つまりですね。

 信じられないかもしれませんが、私には光属性の魔力があるそうなんです。

 全然使えませんけどね。

 それで彼の世界を超えた捜査網に引っかかって召還された、と。

 こういうことらしいんですね。


 ふざけんな、ですよね!

 半分の可能性があるなら自分の世界の女性に子ども生ませればいいのでしょう?

 下手な鉄砲も数打てば当るように、いろんな女性にたくさん子供を産んでもらえば、一人くらいは光属性の魔力を持つのがいるかもしれないじゃないですか!

 無駄に美形なんだし、その顔があればどんな女も靡くハズです!


 そう必死に叫んだけど、すべて却下されました。

 たくさんの女なんて面倒。一人いればいいと。


『その一人にたくさん産んでもらえばいいじゃない!』

『ならお前が産め』

 という押し問答が今現在も続いています。


 そして軽く軟禁状態です。

 何度も脱走しては連れ戻されたからでしょうか……。


 あああ、心配しないで!

 必ず拉致誘拐犯の手から逃げ出して、自分の世界に返る方法を探してみせますから!


 それまで皆元気で健康でいてください。

 あ、それから。

 花見をドタキャンした形になってすまないと友達に伝えて下さいね。


 それでは、また会えることを信じて――――。


 美咲より


 

 ***********************************



 私を花嫁として召還したのは、唯我独尊な俺様で、金髪碧眼超絶美形で、剣術も魔術もこの世界一強く、魔族も裸足で逃げる―――勇者様。

 そのプライドはチョモランマよりも高く、女に弱みを見せることを良しとしない。


 だから私はずっと後になるまで知らなかった。


 彼が、たまたま興味を持って魔法で覗いた異世界で、たまたま映った光景に私がいて――――一目惚れしたなんてこと。

 何日も私を(魔法で)観察し――界を跨いでストーキングされていたなんて気付かなかったデス―――光属性の魔力があるのが分かってますます好きになってどうしても手に入れたくなったとか。

 それで異世界の人間をこっちの世界に連れてくるために、必死になって召還の魔方陣を研究したとか。

 私に述べた召還の理由――光属性の魔力の子供云々は単なる方便にすぎなくて。

 だけど自分の傍から離れられないようにするために、子供を枷として大いに利用するつもりでいたなんて。

 ―――私はまったく知らなかった。


 ずっとずっと後になって、彼の望む通りに光属性の魔力持ちの子供をポコポコと産んだ後に告白されるまで――――。


 そんなこととは露知らず、今日もいつものように自分の世界に還る方法を探るべく、脱走計画を立てる私であった。


気がついたらほだされて、俺様勇者の花嫁になってしまった美咲です。


気が向いたら中篇として連載小説書くかも……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ