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井の中の蛙大海で溺れる   作者: ドネルケバブ佐藤


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溺れながら

バタ足して泳ぎたくないから、平泳ぎで乗り切りたいですね。

七月のある夜、山田から電話がかかってきた。




週末、四人で集まった時、いつもとは少し違う雰囲気だった。以前は、それぞれの近況報告や愚痴がメインだったが、今回は互いの考えや感じていることを、もう少し深く話し合った。




「俺、最近気づいたんだけど」鈴木が言った。「みんな、同じことで悩んでるけど、感じ方は全然違うんだな」




「どういうこと?」佐々木が尋ねた。




「例えば、勉強についていけないって悩み。俺は『自分はダメな奴だ』って落ち込むけど、田中は『俺だけが苦しんでる』って孤独を感じる。山田は『でも、何とかなるだろう』って楽観的になる」




確かにその通りだった。同じ状況でも、受け取り方は人それぞれだった。




「でも、それでいいんじゃないか?」山田が言った。「無理に同じ気持ちになる必要はない。ただ、お互いの気持ちを知って、一緒にいればいい」




その夜、俺は山田の言葉の意味を、少しだけ理解できたような気がした。友情とは、完全な理解や共感ではない。お互いの違いを認めながら、それでも一緒にいることを選ぶこと。そんな関係性なのかもしれない。




アパートに戻ってから、俺は林のことを思い出した。彼は友人を作ることに苦労していたが、それは完璧な理解や共感を求めすぎているからかもしれない。




翌日、林に会った時、俺は自分なりの考えを話してみた。




「友人って、お互いを完全に理解する関係じゃないと思うんだ」




「え?」




「違いを認めて、それでも一緒にいる関係。それが友情なんじゃないかな」






俺自身も、大学での生活に対する捉え方が変わってきた。周囲のレベルに圧倒されることは相変わらずだったが、それを自分だけの問題として抱え込むことは少なくなった。みんな、それぞれの方法で同じような困難と向き合っているのだ。




そして、完全に理解し合えなくても、一緒に学び、一緒に悩み、一緒に成長していくことができる。それが、俺にとっての新しい発見だった。








夏休みが終わり、二学期が始まった頃、俺は自分の変化を実感していた。相変わらず大学の授業は難しく、周囲の学生たちのレベルに追いつくのは困難だった。バイト先でも、思うように成果を上げられないことが多かった。故郷にいた頃の輝かしい自分は、もはや遠い記憶になっていた。




だが、以前ほど絶望的な気持ちにはならなくなった。俺は凡人だった。悩みすら凡庸だった。そして、確かに独りよがりだった。その事実を、俺は受け入れ始めていた。




ある日、故郷から母親が仕送りと一緒に手紙をよこした。内容は、些末な話ばかりだった。俺が誇らしげに語って上京したときの期待や、都会で成功することへの夢は、そこには一言も触れられていなかった。


かつてなら「くだらない」と鼻で笑っただろう。だが今は、その「くだらなさ」の中に、自分の欠けている何かがあるような気がして、しばらく封筒を握りしめたまま机に突っ伏した。




その夜、同じ下宿に住む友人の佐藤と安酒を飲んだ。奴は俺よりもさらに不器用で、大学の単位を落としまくり、バイト先でもしょっちゅう怒られている。それでも笑いながら、「まあ、みんなそんなもんだろ」とグラスを掲げた。


俺はつい、「でも俺は、ここに来ればもっと特別になれると思ってた」と漏らした。


佐藤は笑いを収め、少し間を置いてから言った。


「結局お前、他人と関わることによって自分の存在価値みたいなものを感じたかっただけなんじゃないか?苦しいのも、悩んでるのも、自分だけの特権だと思ってただろ。でもな、俺も溺れてるし、お前も溺れてる。みんなそれぞれの水の中で必死にバタ足してんだよ」




その言葉に胸の奥がざらついた。悔しかった。けれど否定はできなかった。


沈黙のあと、俺は「……じゃあ、一緒に溺れるか」と笑ってみせた。


佐藤も笑い、二人で空になったコップを机に置いた。




夏が過ぎ、秋の風が窓から吹き込む。


俺は相変わらず凡人で、授業に遅れ、バイトで失敗し、小さなことで落ち込む。だが、その全てを抱えたまま、泳ぎ続けている自分をどこかで確かに感じていた。


大海は果てしなく広く、冷たく、時に容赦なく俺を沈めようとする。だが、その隣で必死に水を掻く友の姿が視界にある限り、完全には沈まないような気がした。




溺れながら、俺は今日も泳いでいる。

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