第六話 狡猾
どのくらい歩いただろうか。三十分以上は歩いた気がする。
何が、ここから近いだよ。
めちゃくちゃ遠いだろ。
ユイのすぐ後ろには、サホリがピタリと付いてきている。
その少し後方に三人が見える。
これ五人で来てる意味なくね?
角を曲がると、前方にトンネルらしきものが見えてきた。
さっきまで遠くに見えていた街灯の明かりや、住宅街の生活音が、曲がり角を一つ曲がっただけで、完全に遮断される。
「……あれか」
トンネルの入り口近くで、後ろの三人を待つ間、ユイはトンネルの中を見渡す。
……いるわ、いるわ、わんさかいる。
姿は見えないけど、そこらじゅうから気配をビンビン感じる。
サホリが、ユイの二の腕を抱え込み、離そうとしない。
「お待たせー」
三人が合流する。
トンネルからは、じっとりとした湿気を含んだ、氷のように冷たい風が吹き抜けてくる。
「……じゃあ、安倍さん先頭よろしくね」
女子生徒の声が心なしか強張っている。
ユイを先頭に、後ろの四人はスマホの光を頼りに、トンネルの中を進み始める。
五人は自然と肩が触れ合うほど身を寄せ合い、お互いの存在を確かめるように固まって歩く。先頭を歩くユイだけが、鼻歌を口ずさんでいた。
しばらく歩いているのに、出口が一向に見えてこない。
……おかしい。
気配はビンビン感じるのに、霊の姿はまったくない。むしろ、静かすぎる。
「……何も起きないね」
「なんか……普通のトンネルって感じ」
そんなわけない。これだけはっきり気配がするのに、何もしてこないどころか、姿すら現さないなんて。
ユイは後ろをピタリと付いてきているサホリに目を向ける。
……そういやこいつ、前に霊に足掴まれてたっけ。
異常なくらい臆病だし……もしかして、霊を引き寄せる体質だったりして。
……まさかね。
「あのさ、ちょっとお願いなんだけど、サホリ……前変わってくんない?」
サホリは首を横にブンブン激しく振っている。
「ちょっと確認したいことがあるんだよね」
そう言って、ユイは後ろに数歩下がる。
――その瞬間。
ザザザザッ……。
「キャァッ!!!」
誰かの悲鳴を合図に、弾かれたように、後ろの三人の足が動いた。
「何……今何か聞こえた!?」
「無理! 無理! 無理!」
後ろの三人は、スマホの光を振り回しながら、出口の闇へと全速力で駆け出す。
逃げる足音がトンネル内に反響し、その音がさらに、彼女たちの恐怖心を煽る。
「ちょ、おい! 待てよ!」
なんなんだよ。行きたいって言ったの、お前らだろ……。
前を向くと、さっきまでいたはずのサホリがいない。
「…………は? え、サホリは?」
視界の中央が、陽炎のように揺らいでいる。
よく見ると、裂け目のようなものが浮かび上がっている。
その奥から不気味な青白い光がブワッと吹き出した。
――次の瞬間。
裂け目の奥から現世の闇を押し出すようにして、無数の霊が這い出てくる。
天井、壁、地面。あたり一面を埋め尽くしていく。
「……くそっ! やられた!!」
空間の歪みが現実の闇と同化していく。
裂け目は縦に細い一本の線に絞られていき、瞬く間に消滅した。
……こいつらせこい真似しやがって――




