異変
『一応、先にルークへ知らせておこうか』なんて話しながら穏やかに過ごし、翌日を迎えた。
「────あれ?」
レーヴェン公爵家の庭にて、プリシラは困惑を露わにする。
何故なら、植物が全て枯れていたから。
(研究のために花を少し分けてもらおうと思ったのだけど、これじゃあ無理ね)
雑草までヘナヘナになっているため、プリシラは早々に諦めた。
「それにしても、どうしていきなりこんなことになったんだろう?誰か間違って、除草剤でも撒いたのかな?」
「い、いえ!決して、そんなことは!」
慌てて、口を挟むのはレーヴェン公爵家お抱えの庭師ジェームズ。
自分達の不手際だとしたら、処罰を受ける羽目になるので必死だ。
「仮に撒いていたとしても、昨日の雨で大分薄まっていた筈です!たった一日で、一斉に枯れるのは腑に落ちません!」
「言われてみれば、確かにそうだね。変なことを言って、ごめんね」
「(ぷ、プリシラお嬢様が謝罪を……!)こちらこそ熱くなってしまい、申し訳ありません!」
ハッとしたように頭を下げるジェームズ。
焦りと不安を見せる彼の前で、プリシラは小さく首を横に振る。
「ううん、気にしないで────ん?」
屋敷の方から走ってくるメイドを見つけ、プリシラは頭を捻った。
と同時に、メイドが声を張り上げる。
「ジェームズ、旦那様がお呼びよ!」
「えっ!?もしかして、今のやり取りを見て罰を……!?」
「今のやり取り?よく分からないけど、多分違うわよ!植物関係のプロとして、意見が聞きたいんですって!ほら、早く!」
「あ、ああ!────お嬢様、失礼します!」
後半はプリシラに向けて言い、ジェームズはメイドと共に立ち去った。
あっという間に小さくなった背中を前に、プリシラは人差し指を顎に当てる。
「何かあったのかな?」
『『『探ってこようかー?』』』
普通の人には見えないという特性を活かして、盗み聞きしようと画策する精霊達。
GOサインを出せば今すぐにでも飛び出していきそうな彼らを前に、プリシラは手を下ろす。
「大丈夫(気にはなるけど、こっそり調べるのはどうかと思うし)」
親しき仲にも礼儀ありとでも言うべきか、プリシラはそこまで望まなかった。
────だが、しかし……別にわざわざ探らなくても、自然と情報が入ってきて?
「我が家の庭だけじゃなくて、公爵領全体で植物が枯れているのか」
同日の午後には、プリシラも内容を知るところとなった。
(使用人達の話によれば、ジェームズ率いる植物関係のプロが調査を行っているようだけど、昨日の雨……いえ、水では手掛かりなんて残っていないかもしれない)
綺麗に洗い流されている可能性を考えつつ、プリシラは私室で素材を吟味する。
「必要ないかもしれないけど、一応植物の復活薬を作ろう!(いつも私の好きなようにさせてもらっているから、こういうときこそ家に貢献しないと!)」
『『『おー!(プリシラと物作り♪)』』』
相も変わらずやる気満々の精霊達は、プリシラの周りを飛び回る。
お手伝いのタイミングを窺う彼らの前で、彼女はいくつか薬草を手に取った。
「精霊さん達、この薬草を全て細かくしてお皿に入れてくれる?」
『『『いいよー!』』』
「あと、この試験管に半分くらい水をお願い」
『『『はーい!』』』
嬉々としてプリシラの頼みを聞き入れ、精霊達はそれぞれ動き出す。
その様子を見ながら、プリシラは棚から薬品を取り出した。
『『『プリシラ、お水入れたよー!』』』
「ありがとう」
半分ほど水の入った試験管を受け取り、プリシラはそこに薬品を垂らしていく。
「少しだけ、試験管の温度を上げられる?」
『出来るよー!えいっ!』
一人の精霊が、大きく手を振り下ろす。
その瞬間、試験管はじんわり温かくなった。
「ありがとう。このままキープでお願い」
『おっけー!』
両手で大きな〇を作り、精霊の一人は試験管の傍に陣取る。
────と、ここで薬草を担当していた精霊達が顔を上げた。
『『『終わったよー!』』』
「ありがとう」
試験管を一度専用のスタンドに立て、プリシラは薬草の入った皿を引き寄せる。
「鍋にお湯を入れてもらえる?」
『『『もちろーん!』』』
棚から鍋を引っ張り出してきて、精霊達はプリシラの前────テーブルの上────に置いた。
かと思えば、我先にとお湯を生み出して鍋の中を満たす。
『『『はい、どーぞ!』』』
「ありがとう」
湯気立つ鍋を見やり、プリシラは豪快に薬草を放り込んだ。
それも、一度に全部。
「おっと」
『『『あぶなーい!』』』
ポンッと音を立てて軽く爆発……というか、水飛沫が上がる鍋を前に、精霊達は慌てて風を起こす。
それにより、飛び散ったお湯は跳ね返され、プリシラに掛かることはなかった。




